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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.734

アダルトショップを舞台にしたモンゴル映画 Z世代の青春『セールス・ガールの考現学』

アダルトショップを舞台にしたモンゴル映画 Z世代の青春『セールス・ガールの考現学』の画像1
モンゴルZ世代の女の子・サロールのおかしな青春もの

 モンゴルから、たまらなくキュートかつユニークな青春映画が届けられた。物語の舞台となるのはモンゴルの首都ウランバートル。人口160万人の大都市にあるアダルトグッズショップで、ワンオペ店員として働くことになった女子大生を主人公にした成長譚だ。自分の将来や「性」に関する漠然とした不安を抱える女の子・サロールの揺れ動く心理を、モンゴル映画『セールス・ガールの考現学』(英題『The Sales Girl』)は繊細に描いている。

 女子大生のサロール(バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル)は両親に勧められ、大学では原子力工学を専攻している。両親とは仲がいいが、苦労して大学に進学させてくれた両親のことを考えると、「自分には理系は合っていない」とは言い出せずにいた。いつもヘッドフォンで音楽を聴き、おとなしい性格のサロールは、いかにも「Z世代」っぽい女の子だ。

 そんなサロールが、アダルトグッズショップでアルバイトをすることになる。足を骨折した同級生から懇願され、断り切れないサロールだった。両親には内緒で働き始めるが、半地下にあるアダルトグッズショップには彼女が初めて目にするものばかり。巨大なバイブレーター、膣トレーニング器、等身大のラブドール、バイアグラ……。お客に説明するために、商品の使用方法も学ばなくてはならない。

 1日の売り上げ金は、店のオーナーであるカティア(エンフトール・オィドブジャムツ)に毎晩届けることになっていた。おしゃれな高級フラットでひとり暮らしをしているカティアは、サロールにとってはおばあちゃん世代。モンゴルの社会主義時代に青春を謳歌したカティアは、かなりのぶっ飛びキャラだ。「親の言いなりで大学に通って、自分の考えはないの?」と初対面のサロールに手厳しい。世代も価値観もまったく異なる2人だったが、ぶつかり合いながらもお互いの意外な一面を理解することになる。

 最初はうっすらと口髭の生えた、垢抜けない女の子だったサロールが、アダルトグッズショップで働き始めて、どんどん洗練されていく。性格も明るく変わっていく。新人女優バヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの変身ぶりを見ているだけでも、充分に楽しめる123分となっている。

誰もが経験する「性」をテーマにした作品

アダルトショップを舞台にしたモンゴル映画 Z世代の青春『セールス・ガールの考現学』の画像2
店内にはアダルトグッズがずらりと並んでいる

 モンゴル映画というと大草原を馬が駆けている映画、そんなイメージを『セールス・ガールの考現学』は一新する。本作を企画・脚本・プロデュースも兼ねて撮り上げたのは、センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督。1999年にウランバートルにある映画芸術大学を卒業し、多くの映画やテレビ番組を手掛けてきた。本作は「大阪アジアン映画祭」薬師真珠賞(俳優賞)や「ニューヨーク・アジアンフィルム・フェスティバル」グランプリを受賞するなど国際的に評価されている。

 センゲドルジ監督が本作の企画を思いついたきっかけは、2017年にイタリアを旅行した際にアダルトグッズショップを見かけたことだった。まるでコンビニのように日常風景として街に溶け込んでいたことが印象的で、誰もが経験する「性」をテーマにしたドラマを撮ろうと思い立ったそうだ。センゲドルジ監督がリモート取材に応えてくれた。

センゲドルジ「クランクイン前に、ウランバートルにあるアダルトグッズショップを訪ねました。現在のウランバートルには全部で27軒のアダルトグッズショップがあり、すべての店を回りました。どの店も品ぞろえがよく、劇中のサロールが説明していたように、自分の好きな芸能人に似せたラブドールをインターネットで注文できるサービスも用意されていました。店を訪ねるお客たちはちょっと恥ずかしそうに顔を伏せていましたが、みんな裕福そうな人たちでしたね」

 戦後のモンゴルは長らくソビエト連邦と親しい関係を保ち、社会主義体制を敷いていたが、1990年から民主化が進み、首都ウランバートルは近代化が目覚ましい。インターネット環境も整い、若い世代はYouTubeを楽しんでいるそうだ。モンゴルの今が描かれた作品となっている。とはいえ、アダルトグッズショップを舞台にした映画の企画を進めるのは、容易ではなかったらしい。

センゲドルジ「最初に話をしたプロデューサーは『面白い企画だと思う。でも、今のモンゴルで受け入れられるかなぁ』と及び腰でした。それで僕から『今やらなくて、いつやるんだ?』と強く押したことで、ようやくOKしてもらえた企画でした(笑)」

 本作はモンゴルではR指定付きの作品として公開された。企画内容から公開形態も含めて、モンゴル映画界に新風を吹き込む作品となった。

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