岸田政権が突然ぶち上げた「花粉症対策」実現には長い道のり
#鷲尾香一
スギ花粉の飛散がピークを過ぎてから飛び出した岸田文雄首相の「花粉症対策」の表明。そこで、どのような対策が進められていくのかを取り上げてみた。
突拍子もないタイミングで岸田首相から出てきた「花粉症対策」。どうやら、「関係省庁担当者連絡会議」という、担当者レベルの会議で花粉の飛散状況などについて情報交換をしていることを、岸田首相が国会答弁で「関係閣僚会議を開催し、対策に取り組んでいる」と誤って答弁したことで、“引っ込みがつかなくなった”ことで始まったようだ。
それでも、重い花粉症に悩む人たちは、多少なりとも期待を寄せるだろう。
厚生労働省によると、関係学会の調査では、花粉症の有病率は10年間で10%以上増加しており、19年時点ではアレルギー鼻炎全体で49.2%、花粉症全体で42.5%、スギ花粉症で38.8%、スギ以外の花粉症で25.1%となっている。(グラフ1)
花粉症対策としては、全体の40%近くを占めるスギの花粉飛散を防ぐことが、有効な対策の一つとなる。農林水産省によると、スギの人工林は全国で約440万ヘクタールあり、伐採対象となる50年を過ぎた森林が約240万ヘクタールと50%を超えている。
農林省はスギの人工林について、伐採、植え替え、花粉の発生抑制を中心に対策を進めている。合板原料へのスギの利用増加などを背景に03年以降増加傾向を辿っており、12年から21年の10年間で材木の国産材供給量は2032万平方メートルから3372万平方メートルに拡大した。
それでも、伐採などにかかる労働力の確保やスギ需要の拡大が大きく進まないことが要因となり、伐採や利用はまだまだ不十分な状態だ。
また、少花粉スギや無花粉スギなどの花粉の少ないスギ苗木の生産は、11年の142万本から20年には1393万本に訳10倍に生産が拡大しており、スギ苗木の年間生産量の約50%となっている。これらの苗木をスギ伐採跡地へ植栽を進めているが、植え替えられたスギ林の累計は全体の1%未満と一段の拡大が必要だ。
さらに、スギの雄花を選択的に枯死させるなどの飛散防止剤の開発・普及に取り組んでいるが、実用化に向けては効率的で低コストの空中散布技術の確立が必要となることや、森林生態系への影響について評価・検証が必要で、課題が残る。
結局、現時点での有効な花粉症対策としては医療が中心となっている。花粉症を含むアレルギー性鼻炎の保険診療費は、近年、若干ながら減少しており、17年度には3875億円だったのが、19年度には3619億円となっている。(グラフ2)
19年度の保険診療の内訳は、診察等の医療費約1900億円、内服薬約1700億円だ。また、市販薬の市場規模は約400億円と推計されている。
花粉症を含むアレルギー性鼻炎の治療では、症状を抑えるための対症療法と症状が出ないようにするアレルゲン免疫療法などがあり、対症療法では軽症から中等症には内服薬、点眼薬、点鼻薬が、重症には注射を用いた治療などが行われているが近年、皮下注射よりも負担の少ない治療法として舌下錠が開発されたものの、普及が不十分な状況にある。
また、厚労省では花粉症を含むアレルギー疾患に対する医療提供体制の整備を進めている。国が指定する中心拠点病院として2カ所、都道府県が指定するアレルギー疾患医療拠点病院が47都道府県に78医療機関(23年3月時点)ある。
このように、花粉症に対してはスギの伐採や花粉飛散防止剤の開発などの抜本的な対策から、治療薬・治療法と専門医療体制の整備という両面からの対策を進めていくことになるが、現実問題として政府が進める花粉症対策が効果を上げるには、まだまだ長い時間と道のりが必要で、花粉症は当分、人々を悩ませることになりそうだ。
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