大谷翔平の打撃練習動画と『水曜日のダウンタウン』先生ものまね企画の意外な共通点
#大谷翔平 #水曜日のダウンタウン #アレのどこが面白いの?~企画倉庫管理人のエンタメ自由研究~
放送作家の深田憲作です。
「企画倉庫」というサイトを運営している私が「あの企画はどこが面白いのか?」を分析し、「面白さの正体」を突き止めるための勉強の場としてこの連載をやらせてもらっています。
今回のテーマは「WBC強化試合の大谷翔平選手について」です。少し時間が経っていますが、3月に野球のWBCが開催され、日本が優勝。2009年以来、3大会ぶりの世界一奪還を果たしたことで日本中が歓喜に沸きました。
大会の主役となったのがメジャーリーガー・大谷翔平選手。メジャーリーグでも二刀流で大活躍を見せていますが、この大会でも投打に獅子奮迅の活躍で日本を優勝に導き、MVPを獲得。これで何度目か分からない“大谷フィーバー”が日本中に巻き起こりました。
今回、私は「企画」の視点で大谷選手に関する“ある映像”について感じることがありました。“ある映像”とは「大谷選手の打撃練習を見るプロ野球選手たちの動画」です。
WBC本番の直前、強化試合としていくつかのプロ野球チームと侍ジャパンが練習試合を行ったのですが、試合前の大谷選手の打撃練習が話題になりました。ずば抜けた飛距離の打球を飛ばす大谷選手の打撃練習に球場全体が釘付けになり、テレビ番組のスポーツコーナーでもその様子がたびたび取り上げられていました。そして、釘付けになっていたのはファンだけではありません。同じグランドでプレーする選手達も大谷選手の打撃練習を「エグイ!」「ヤバい!」と驚きの声をあげながら、まるで少年のような眼差しで見入っていました。
YouTubeでも球場で観戦したファンが映した大谷選手の打撃練習の様子がいくつも公開されていたのですが、興味深かったのは、強化試合で侍ジャパンと試合をした阪神タイガースと中日ドラゴンズの公式YouTubeチャンネルでもその動画を公開していたことです。権利の関係で大谷選手のことは一切映していないのですが、大谷選手の打撃練習を見る阪神・中日の選手たちのリアクションを動画にしていました。
そして、この動画がめちゃくちゃ面白かった。子どもの頃から地元では「天才」と騒がれてきた生粋のエリートが集まっているのがプロ野球の世界。そんな人たちが1人残らず、まるでファンのように興奮しながら大谷選手の練習を見ている様子がとてつもなく面白く感じました。動画には大谷選手が一切映っていないにも関わらず、それらのリアクションだけで1つのコンテンツとして見応え十分でした。
この映像を見た時に私は「人間のリアクションはコンテンツになる」ということを再認識しました。実際、YouTubeでは日本人歌手の歌やアニメを見た外国人のリアクションを映した動画が人気コンテンツの1つになっています。
同じように人のリアクションを面白がるコンテンツで私が思い出したのは『水曜日のダウンタウン』のある企画。それは「先生のものまね プロがやったら死ぬほど子供にウケる説」という検証で、モノマネ芸人のホリさんやミラクルひかるさんが中学校に行って、学校の先生たちのモノマネを習得して生徒に披露するという内容。実施した結果、モノマネは生徒にバカウケ。面白くもありながらハートフルで読後感のいい内容が評価され、この放送回はギャラクシー賞を受賞しました。
この企画の何が面白かったかというと、生徒たちが先生のモノマネを見て涙を流しながら爆笑している様子。視聴者にとってはモノマネの対象になる先生たちになじみのない存在。モノマネの面白さだけで言うと有名人のモノマネを見る方が笑えるはずなのですが、どちらかというとこの企画では「先生のモノマネを見た生徒たちのリアクション」がメインの見せ物になっていると感じました。
なぜか人間の本能には、他人が笑っているところや驚いているところを見るのが楽しいという感情が備わっているようです。テレビ番組で、VTRを見るスタジオ出演者の顔を映す「ワイプ」がありますが、あの手法がテレビで残り続けている理由の1つにもこれが関係していると思います。
大谷選手の打撃練習を例に挙げるなら、その打撃練習をコンテンツとして世にアウトプットする際、ストレートな思考だと「どう大谷選手をクローズアップするか?」を考えますが、視点をズラしてリアクターの方に焦点を当てることで角度の違うコンテンツが生み出せるということです。
もちろん、それが成立するのはメインとなる素材、WBCでいうと大谷選手の打撃、『水曜日のダウンタウン』でいうとホリさんたちのモノマネに魅力があることは大前提です。
この「リアクターに焦点を当てる」という考え方で、今後どんな企画が生まれるか楽しみです。
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