相席スタート山添、ヒコロヒー…クズ芸人たちの巧みな言語能力
#テレビ日記 #飲用てれび
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(4月9~15日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
山添寛「何が不安って、これが炎上すると1ミリも思えてない僕が不安なんですよ」
“クズ芸人”と呼ばれる芸人たちがいた。岡野陽一、鈴木もぐら(空気階段)、酒井貴士(ザ・マミィ)、山添寛(相席スタート)、ヒコロヒーといった面々がよくそのカテゴリーでメディアに出ていただろうか。もちろんそこでの“クズ”のキャラクターは、当人の素の部分にいくらか重なりつつも、本人や周囲によって少なからず演出された面を含んでいたはずだが。
いや、過去形で語るのはまだ早いかもしれない。ただ、新しさを求めて回転し続けるテレビのなかで、複数の芸人を“クズ芸人”と括って特集するといった番組は、少なくとも地上波では減った。一時期のクズバブルは少し落ち着き、いまはクズと呼ばれた芸人たちが個々で番組に出ている。チーム戦から個人戦に移ったように見える。
そんな個人戦のなかで、テレビ番組への出演がさらに増えた芸人もいる。相席スタートの山添と、ヒコロヒーだ。
山添は、この春から深夜帯ながら自身がメインMCを務めるレギュラー番組が2本もはじまった。まさにブレイクの只中である。そんな山添が13日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「今年が大事芸人2023」に出演していた。企画タイトルのとおり、キャリアのなかで今年が大事な年になりそうな芸人たちが集まった回だ。
ひな壇の出演者は山添のほかに、錦鯉、ウエストランド、オズワルド、ビスケットブラザーズ。賞レースで優勝・準優勝といったはっきりした結果を残してきたメンバーだ。対して山添は、今につながるブレイクの起点がどこにあったのか、あまりはっきりしない。そんな彼は、きっかけを次のように語る。
「僕ははっきりした結果を残してるわけじゃないんですけど、鬼越トマホークに『相方に借金してるクズです』って番組で暴露されたときに、『いや言わんといてくれ』じゃなくて、『何が悪いんじゃ』って言ったらなんか仕事増えたんですよ」
クズであることへの開き直り。なるほど、それがクズ芸人の面白さのコアにあるものかもしれない。クズ芸人と呼ばれた彼ら・彼女らは、ギャンブルや借金をめぐる世間では行儀が悪いと思われるような自身のエピソードを披瀝し、開き直り、笑わせてきた。世間の良識のようなものを異化する点や、世間からのジャッジを独自の“言い訳”で切り抜けるさまが面白かった。たとえば、岡野陽一の切り返し。彼女が住むタワマンにヒモのように転がり込んでいると指摘されると、彼はこう語った。
「そんないいもんじゃございません、タワマンは。人より早く雨がわかるぐらいで」(『さんまのお笑い向上委員会』フジテレビ系、2021年9月18日)
クズ視点からの新たなマンションポエムであり、タワマン文学である。岡野については、「多額の借金を抱えた人は季節を感じるものですか?」と質問されたときの、「パチンコ屋っていうのは、いつも一定の気温に保たれてます」との返答も好きだ(同前、2021年6月5日)。
こういった言葉の巧みさはクズ芸人の多くに見られる。そしてこんな言葉巧みな切り抜けが、クズのキャラクターを一層引き立てる。
ただ、ではなぜクズ芸人のなかで山添がいま突出しているように見えるのだろうか。理由のひとつは、その容姿もあいまった紳士性にあるのだろう。なんだかんだ言っても、清潔感は大事。彼はみずからを「クズ紳士」と自称する。紳士的な外面とクズな振る舞いとのギャップが、より大きな面白さにつながっている面もあるかもしれない。
もうひとつは、クズの要素がエピソードトークだけに基づいていない点にあるように思う。岡野やもぐらは、自らのクズさを借金やギャンブルといったエピソードのなかで語る。だがそれは、借金やギャンブルといったエピソードが語れない場では、クズという武器を奪われることを意味するだろう。岡野陽一は語る。
「一番怖いのは、ゴールデンのテレビとか出してもらったときに、スポンサーさんって方がいらっしゃるじゃないですか。そんときに、借金とギャンブルがNGっていうのがあるんすよ。そんときはキツいっす。ただの肉の塊としている」(『ゴッドタン』テレビ東京系、2021年6月5日)
対して、山添もクズなエピソードは語るが、それだけでなくさまざまなシーンに己のクズさをにじませ、それを起点に笑いをつくる。たとえば『ラヴィット!』(TBS系)での振る舞いだ。番組を繰り返し盛り上げてきた山添だが、しばしば振り返られるのは、「ラヴィット涙の最終回」「ラヴィット実は収録だった」「田村アナ山添に交際報道」といった誤解を招くプレゼントキーワードの発表シーンである。あるいは、プールのロケで自身はウォータースライダーを滑らずに若い女性タレントを滑らせて帰った、といったVTRも“名シーン”として取り上げられてきた。
山添のクズは必ずしもエピソードを伴わない。その汎用性のあるクズはテレビのあちこちに露出する。紳士的な表情と猟奇的な表情を使い分け、紳士性の裏面に危うさを感じさせながら、さまざまな場面にクズを滑り込ませる。その面白さ。別の世界のクズというより、あなたの隣のクズといった感がある。
なお、SNSで“炎上”したウォータースライダーの件について、山添は『アメトーーク!』でふりかえる。
「Twitterでやいや言われるのは別にどうでもいいんですけど、何が不安って、これが(ウケると思って)炎上すると1ミリも思えてない僕が不安なんですよ」
自らのクズさに自覚がないという山添。それが素の無自覚であれ、演出された無自覚であれ、あなたの隣のクズは言葉巧みにテレビのなかをクズ色にする。
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