怒涛の旅行ブーム到来、コロナ禍で準備を怠った者は消えていく…
#地方創生 #小笠原伸
日光で初めてG7国際会議が開かれることの意味
――逡巡している間にやってきたコロナ禍の中で、舵を切れたものが生き残れる、と。
小笠原 「変えようかな、どうしようかな」と右往左往しながらコロナ禍をまたいでしまったところは、退場を強いられることになるでしょう。政府のインバウンド政策も、以前はやたらと訪日観光客の数を増やそうとしていたけれど、今春から人数ではなく消費額重視に切り替わりました。これは国内の観光客の志向とも一致していますよね。この3年間どこにも行けなかった分、ちょっとリッチなプランでいきましょうとか良いものを食べましょう、良いお部屋に泊まりましょうという大きな変化だと理解しています。
今年、日本でG7サミットが開かれます。その一環で、日光で男女共同参画・女性活躍担当大臣会合が開催されるんです。日光でこれだけの大きな国際会議が行われるようになったのは2020年5月にザ・リッツ・カールトン日光が開業したからだと思います。
――旅行好きの間で話題になっていましたね。宿泊レポートもときどき見かけます。
小笠原 評判いいですよね。1泊あたり10万円以上とだいぶいいお値段ですが、予約はかなり埋まっているようです。これまでも日光にはそこそこいい宿がありましたが、国際会議ができるレベルとなると少々厳しかった。そこにいわゆるラグジュアリーホテルができたことで、富裕層を呼べるようになりました。経営しているのは東武鉄道グループです。つまり、東京から東武の特急に乗って日光に来てもらってそのまま高級ホテルに泊まってもらえるようになったわけです。これもやはりしっかりと準備をしてきたところが成果を得られるひとつの例ですね。
――関東生まれの人間からすると日光=修学旅行という、それこそ団体旅行のイメージがどうしても抜けないのですが……。
小笠原 我々のような年長世代は、やっぱり昭和の時代の観光のイメージの影響が色濃く残っているんですよね。「マイクロツーリズムが新しい観光の形です」と言われても、近隣の町で地域の生活や風土を楽しもうなんて、ちょっと格好良すぎる気すらしてしまう。だけど実際に町中の生活や地域の文化を楽しんで行くお客さんが出てきているわけで、じゃあそれをどうやって取り込んで地元の経済を適切に回していけるか、頭を切り替えていかないといけません。
私がお手伝いをしている茨城県の結城市では、もう10年以上、市民の方々を中心として街中でいろんな事業をやっています。音楽イベント「結いのおと」は地元からも遠方からもお客さんが来るものに成長しました。東京のイベント屋さんに依頼して手配してもらうのではなくて、自分たちで交渉するスタイルで企画からつくっているんです。
――tofubeatsに水曜日のカンパネラ、THA BLUE HERB、青葉市子などなど、豪華なメンバーですね!
https://www.yuinote.jp/pages/1504983/blog
小笠原 一方で、自治体によっては「これからはマイクロツーリズムの時代らしい、とりあえずうちの街も何かイベントをやろう」「隣の町がこのイベントで成功したからウチもやろう」みたいに役所主導で体裁を整えていくところもあります。そうやってつくられたものには、市民の方があまり参加していないケースもあるんです。「今日イベントなの? じゃあ人が多く来るから遠くに出かけよう」と、面倒を避けるために逆に地元を離れる機会になってしまっていることもあると聞きます。
観光客を集めるために役所が旗振り役になって官製のマイクロツーリズムを立ち上げるのは、いい動きとばかりは言い難い面があります。そこで暮らしている方々が、自分たちが持っているものや本来の長所に気づかなければ意味がありません。何よりそこで地域の価値を見出して収益を上げて成長や持続性につなげてゆくのは地元の事業者や市民の皆さんですからね。
――「カネは出すが口は出さない」ができるかどうか、役所の力量も問われることになってくる、ということですね。
小笠原 はっきり言ってしまえば、「地方創生のために」といってみんながみんな観光に力を入れなければいけないわけではないんです。そのあたりを理解して、地域というものをどう活用して価値を生み出すか、どこに注力してどう切り込み、場合によっては限りある資源を見極め名誉ある撤退を選んでもいいわけで、その手腕の明暗がこれからはっきり分かれていくと思います。少なくともチャンスがあるならそれをみすみす逃すことのないように、今からでも間に合う備えを考えてみてほしいですね。
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