トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 音楽  > Z世代『ボカロ』『シティポップ』が共存
慶応大学・藤井丈司氏に聞くZ世代の音楽事情

シティポップとボカロ、相反するようなジャンルが同時にZ世代にウケる理由

シティポップとボカロ、相反するようなジャンルが同時にZ世代にウケる理由の画像1
竹内まりや 公式サイトより

 シティポップは、1970年代から80年代にかけて盛んとなった、日本発祥の音楽ジャンルのひとつだ。2016年に韓国人プロデューサー・DJ Night Tempoによる竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」のサンプリング・トラックなどが話題となり、海外のZ世代の間でシティポップが一躍ムーブメントになっている――とされている。

 日本ではNulbarichやVaundyらのようにシティポップを現代的にブラッシュアップするアーティストも数多く登場し、レトロカルチャーのブームとともに「エモい」「チルい」音楽として日本のZ世代にも浸透しつつある。

 一方で、米津玄師らボカロ出身アーティストの活躍や、20歳の歌い手・Adoの爆発的ヒットにより、電子音と刺激的な言葉がたっぷりと詰め込まれた「ボカロ系音楽」も若者から絶大な人気を獲得、ヒットチャートを占拠している。

 山下達郎、松任谷由実らを代表とし、大人向けの古き良きサウンドを鳴らす「シティポップ」と、最新的サウンドと言葉の数々が詰め込まれ、若々しいエネルギーに満ち溢れた「ボカロ系音楽」。一見、対とも思えるこの2つの音楽は、Z世代にとってどのように聴こえ、どのように胸を震わせているのか?

 イエロー・マジック・オーケストラのアシスタントとしてキャリアをスタートし、プロデューサー/アレンジャーとしてサザンオールスターズや桑田佳祐、布袋寅泰など名だたるアーティストの作品にも携わる音楽プロデューサー・藤井丈司氏は、慶應義塾大学アートセンターのビジティング・フェロー就任、オンライン音楽塾「Poppo( https://takeshifujii-poppo.stores.jp )」の開校を通して、時代と音楽の変化、そして今を生きる若者たちの音楽観を見つめてきた。そんな藤井氏に、シティポップとボカロ系音楽がともに人気を博す理由や、Z世代の音楽事情について聞いてみた。

シティポップが擽る「失ったものへの憧れ」

──2016年以降、海外を中心にシティポップが再び人気を集めるようになったといわれていますよね。学生の前で講義をしている藤井さんから見ても、Z世代の間でシティポップは流行っていると感じますか?

藤井 2016年に「プラスティック・ラヴ」がリバイバルで流行って以降、人気は高まったと思います。去年テキサスの音大に通っている日本人学生と話した時に「そっちではシティポップって流行ってるの?」と聞いてみたのですが、「流行っている」と言っていました。

 シティポップはジャジーなコード進行なので、ジャズが母国の音楽であるアメリカ人にはフィットしやすかったのでしょうね。特にバンドをやっている人にとっては、「アメリカのトップチャートにいるテイラー・スウィフトやアリアナ・グランデみたいな個人の力量がモノを言う音楽はコピーしにくいけど、シティポップは音楽的ピースがすべて分析されて作られているから、組織的でコピーしやすい」と言ってました。そういった演奏する上での親しみやすさからも広がっていったのかもしれないです。ちょっと観点が違いますよね。

──海外ではそんな風に流行っていたんですね。

藤井 日本ではシティポップのことを「ネットでバズっているもの」として認識されているかもしれませんが、海外では「今流行ってる音楽とはちょっと違うポップス」として認識されているようです。

 実際にどんなアーティストが聴かれているのかと聞くと、山下達郎さんや竹内まりやさんのほかに、なぜか松本伊代さんなどアイドルの方の名前も多く挙がってきます。80年代の日本のポップスの音楽をYouTubeやSNSでシェアするにあたって「#シティポップというハッシュタグをつければ良い」という風潮もあってか、厳密に言うとシティポップじゃない音楽もそれとして広まっているという状況のようですね。

──たしかに、日本では大きなブームが起きているかというとそうではなく、レトロカルチャーへの再燃とともに、TikTokやインスタグラムで使用されることが増えたような印象です。藤井さんから見て、日本のZ世代にはシティポップって人気があるんでしょうか。

藤井 ぼくは慶応で、60年代から現在にかけての日本のポップス史を14回に分けて講義していたのですが、その中で学生に3回レポートを書いてもらうんですよ。で、2回目が「80年代~90年代前半のJ-POPについて考察する」というテーマだったのですが、「Z世代はなぜシティポップに惹かれるのか」というようなタイトルのレポートを提出する学生が最も多かったです。学生たち自身も、“シティポップに惹かれるZ世代は多い”と感じてはいるようです。ただ、彼らの80年代シティポップへのイメージは、当時の現実と相当違っている気がしました。

──というと?

藤井 Z世代が惹かれる理由として「シティポップには高度経済成長を果たした80年代のキラキラ感がある」と結論づける学生が多かったんです。それはまぁいい。でも彼らの中には、80年代といえば、移動はすべてタクシー、会議が終わると毎晩ディスコでパーティーだったと思い込んでいる学生もいまして。「おい、そんな話どこで聞いたんだ?」っていう(笑)。

──実際には違いましたか?

藤井 当時は今ほど社会がホワイトじゃないので、みんな深夜まで働き詰めでした。たしかに飲み会は当時のほうが多かったと思いますが、それでも毎晩飲み明かしたり、いつでもタクシーで移動したりすることはなかったです(笑)。バラエティ番組やネットの記事での、ちょっと盛った80年代の情報をまともに受け止めたのかな。それとも、どこかの業界オヤジの自慢話を鵜呑みにしたかのか。

──私自身も80年代を体験していないからこそ思うのですが、当時のほうが今よりも豊かで輝いて見える気がします。

藤井 あー、そう感じるかもしれないですよね。でもね、みんな自分が体験していない昔の音楽に憧れるんですよ。やはり20年以上前の音楽は、現代の音楽と作り方がそもそも違うから。僕や桑田(佳祐)さん、いま年齢が60代後半の世代でいえば、小学生の頃に出会ったザ・ピーナッツや弘田三枝子が、今でも憧れなんです。ロックが生まれる以前の音楽であり、スイングジャズやロカビリーがバックグラウンドにある音楽というのは、今の時代ではもう絶対にできないものなので恋焦がれますね。

──その時代ならではの音楽の作り方だからこそ憧れが強まると。

藤井 はい。だから今の時代から80年代の音楽を見ても、同じことがいえるんじゃないかなと思うんです。「プラスティック・ラヴ」でいえば、山下達郎さんの「すべての音を人間の手で」という素晴らしいアレンジで、それも今の時代では叶わないことだと思います。こういった失われたものに対する憧れみたいなものは、どの時代でもみんな持つものなんじゃないかなとぼくは思うんですよ。

12
ページ上部へ戻る

配給映画