イスラムの聖地で起きた娼婦連続殺人事件 ミソジニー社会の闇『聖地には蜘蛛が巣を張る』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
映画製作と引き換えに故郷を喪失したアッバシ監督
ストックホルム国際映画祭では作品賞&主演男優賞を受賞し、アカデミー賞のデンマーク代表に選ばれるなど、国際的な評価の高い『聖地には蜘蛛が巣を張る』だが、イランでは公開される可能性はまずないだろう。祖国イランの暗部を暴き出してしまったアリ・アッバシ監督の今後も気になる。
アッバシ「中東ではトルコだけ唯一配給が決まっているようですが、イランも含めてイスラム圏での本作の公開は難しいでしょう。でも、すでにイランでは海賊版が出回っており、観たいと思っている人は簡単に観ることはできる状況なんです(苦笑)。先日、イラン出身の友人と話したんです。イランに帰国することはできても、一度入国するともう出国はできないだろうなと。イランで実際に起きた事件を本作では描いていますが、おそらくイランの人たちはこの作品をイラン映画だとは思わないはずです。イラン当局の検閲を受けてない作品はイラン映画ではないし、女性の身体を映したイラン映画はこれまでにありませんでしたから」
イラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミ監督は晩年はイランを離れ、高梨臨がデート嬢を演じた『ライク・サムワン・イン・ラブ』(12)を日本で撮り、最後はパリで客死を遂げた。『オフサイド・ガールズ』(06)や『人生タクシー』(15)で知られるジャファル・パナヒ監督は、反体制的な映画を撮ったという理由からイランの刑務所に2022年から収監されている。今後のアリ・アッバシ監督は故郷の喪失者として、映画を撮り続けることになりそうだ。
アッバシ「故郷を失うことはつらいけれど、歴史を振り返ってみると、表現活動の自由を求めて亡命した作家たちは多かったわけです。僕は故郷を失ったことをデメリットだとは考えず、メリットだと思うようにしています。祖国を失った人間だからこそ描ける作品があるはずです。本作もそう。イランから距離を置いた、アウトサイダーとしての視点から描いた物語に仕上げています。国境というボーダーに囚われることなく、今後も自由に映画を撮り続けていくつもりです」
故郷の喪失という大きな代償によって、アリ・アッバシ監督は『聖地には蜘蛛が巣を張る』を完成させた。これまでのイラン映画が描くことのなかった、リアルなイラン社会がこの映画には映し出されている。イランの司法制度の在り方に言及したクライマックスまで、しっかりと見届けてほしい。
『聖地には蜘蛛が巣を張る』
監督/アリ・アッバシ 脚本/アリ・アッバシ、アフシン・カムラン・バフラミ
出演/メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ、アラシュ・アシュティアニ、フォルザン・ジャムシドネジャド、アリス・ラヒミ、サラ・ファズィラット、スィナ・パルヴァネ、ニマ・アクバルプール、メスバフ・タレブ
配給/ギャガ +R15 4月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
©Profile Pictures / One Two Films
gaga.ne.jp/seichikumo
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