病院外での心肺停止、生き残るには水素ガス吸入が効果ありとの研究結果
#鷲尾香一
東京歯科大学と慶應義塾大学のチームは3月22日、病院外で心停止になり心肺蘇生で心臓の拍動は回復したものの、意識が回復しない状態で2%水素添加酸素吸入(水素吸入療法)を行うと、死亡率が下がり、意識が回復して後遺症を残さずに社会復帰する可能性が高まることを明らかにした。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/3/22/28-136611/
発表によると、日本では年間約10万人が病院外で心肺停止(院外心停止)になり、このうち、心臓病のために心停止(心原性心停止)になるのは約6万人。中でも、心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった約2万人の1カ月後の生存率は 8%に過ぎない。
また、救急蘇生で心臓の鼓動が回復すれば、血液は巡るようになるが、急に臓器に血液と酸素が供給されると、非常に強いダメージが加わる(心停止後症候群)。これによって、脳にダメージが加わると意識が回復できなくなるか、運よく意識を回復しても重篤な神経学的後遺症が残る。
心停止後症候群を和らげる治療は、高体温を回避することで脳障害の進行を防ぐことに加え、中枢神経の保護作用を期待する体温管理療法だけだが、有効性について疑問もあり、必ずしも決定的な治療ではなく、半数は高度な障害を抱えてしまう。
研究グループでは2014年には、ラットの心停止実験で水素ガスが体温管理療法と同等の効果をもち、体温管理療法に水素ガス吸入を加えると最大の脳保護効果を発揮することを見出しいた。しかし、人にその効果があるかどうかはこれまで証明されていなかった。
16年に実施したパイロット研究では、実際の患者5人に水素吸入療法を行い、4人(80%)が意識を回復して生存退院した。そこで、今回、国内15施設が参加した多施設共同二重盲検無作為化比較試験という最も信頼性の高い方法で、院外心停止後の患者を対象に水素吸入療法の効果を明らかにするための臨床試験を実施した。
院外心停止患者で、循環が回復したものの意識が回復しない患者を対象に、通常の体温管理療法を行うと同時に、人工呼吸中に2%水素添加酸素を18時間吸入した場合(水素群)と、水素を加えなかった場合(対照群)とで、90日後の転帰は神経内科専門医により判定を行った。
この結果、対象患者73人(水素群39人、対照群34人)で、驚くべきことに、90日後の生存率は、従来の治療で61%なのに対し、水素吸入療法により85%に上昇した。また、後遺症なく回復した人の割合は対照群21%に対して、水素群は46%となった。また、水素は人体に害がないとされており、この臨床試験でも水素が原因と考えられるような副作用は観察されなかった。
これにより、2%水素添加酸素吸入(水素吸入療法)を行うと死亡率が下がり、意識が回復して後遺症を残さずに社会復帰する可能性が高まることを示した。研究グループでは、「今後、水素ガス吸入療法が実用化すれば、心停止後症候群に陥った患者の多くを救命でき、意識を回復させて神経学的後遺症を残さないようにする画期的な治療法になることが期待できる」としている。
研究結果は3月17日に eClinical Medicine 誌で公開された。
心停止になり心肺蘇生で回復しても、脳に障害が残ってしまえば、患者には大きな負担が残ることになるが、今回の水素ガス吸入療法により脳の保護され、障害が抑えられれば、患者への負担は大きく減少することになるだろう。
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