ジャニー喜多川の性加害問題を報じない日本メディア、欧米にもある不可解な報道
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日本の「芸能界のモンスター」と呼ばれたジャニー喜多川氏(2019年7月に死去)が少年に「性的虐待」をしていたとする番組が英国BBCで3月7日に放送された。スキャンダルの新事実が報じられたのではないが、「超大物」による「性的虐待」が一部のメディアで明らかにされたにもかかわらず、長年、ほとんどの日本メディアがこの問題を扱わないことに疑問を投げかけた。
英国での放送後、日本でも話題となり日本のメディアの姿勢を批判する意見がインターネット上でも多くみられるが、世界を見れば「不可解な報道姿勢」はどこにでも存在し、何も日本だけの問題ではない。BBCの番組の指摘はもっともな面もあるが、これに乗じて日本国内のメディアだけを批判をしていたら、ジャニー喜多川氏の問題を報じない日本のメディアと同じように「奇妙な存在」になってしまう。
一連のスキャンダルは1999年10~12月にかけて「週刊文春」が計8回にわたって報じた。ジャニー喜多川氏が、事務所に所属していた少年にわいせつ行為を強要したなどとの内容だ。その後、ジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏は報道で名誉を傷付けられたとして、「週刊文春」を発行する文芸春秋に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。わいせつ行為があったのかどうかという点も争点となった。
1審判決は「少年らの供述には高度の信用性はなく、わいせつ行為が真実との証明はない」として、わいせつ行為を認定せず、一部の名誉毀損だけ認める内容だった。ところが、控訴審で東京高裁は「少年らの供述内容はおおむね一致しており、信用できる」として一転、わいせつ行為を認定した。ジャニーズ側は最高裁に上告したが、最高裁はこれを棄却し、わいせつ行為を認定した東京高裁判決が確定した。
大手メディアは一連の裁判の報道はしたが、ジャニー喜多川氏の行為を「本格的」に追及するような報道は見受けられなかった。BBCの番組はこうした点も含めて紹介し、スキャンダルを再検証して日本でのジャニー喜多川氏報道の「実態」にメスを入れようとした。
日本のメディアからすれば、裁判でわいせつ行為が認定されたとはいえ、民事の名誉毀損裁判での「真実相当性」の範囲での認定であり、ジャニー喜多川氏による行為が警察の捜査の対象として「事件化」されていない以上、派手なニュース展開はできない。あまり報道されないことの中心的な理由はここにある。
しかし、通常ならば芸能関係者のスキャンダルに血道を上げるテレビ局がこの問題を扱わないのは、一般視聴者からすると不自然に思える。大スターを擁するジャニーズ事務所への「配慮」があるからだということは、多くの記事で語られている。
このスキャンダルとは別だが、ジャニーズ事務所によるテレビ局への「圧力」問題は、関係者の証言や体験のレベルの話ではなく、既に公の機関が指摘している。
公正な商行為を乱す恐れがあるとして、公正取引員会は2019年7月、ジャニーズ事務所に異例の「注意」をしている。元SMAPのメンバーである稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの3人が退所後にテレビ出演が激減したことを踏まえ、「3人の番組起用を妨げるような働きかけがあった場合は、独占禁止法違反につながる恐れがある」とジャニーズ事務所に伝えた。
独占禁止法に基づく措置は3段階に分かれる。最も厳しいものは行政処分としての「排除措置命令」だ。2番目は「違反の恐れがあった場合」に出される「警告」。3番目は「違反につながる恐れがある」ケースが対象の「注意」で、事業者が自ら姿勢を正すことを促すことが目的だ。
ジャニーズ事務所に発せられたのは3番目の「注意」だ。公正取引委員会はジャニーズ事務所がテレビ局に対して3人を番組に起用しないよう「圧力」をかけたとする情報を関係者から入手し、テレビ、芸能業界関係者らから聞き取り調査を行った。しかし、独占禁止法違反だと認定できるだけの明確な証拠をつかむには至らなかったという。
それでも公正取引委員会は「注意」に踏み切った。テレビ業界とプロダクションの関係は長く、極めて親密だ。「言わなくても分かるだろ」という感覚で物事の多くが進んでいる。ジャニーズ事務所からの「圧力」には暗黙の部分が相当程度ある。公正取引委員会の「注意」は、こうした業界の実態を世の中に知らしめる結果となった。公正取引委員会はその年の11月、芸能事務所が契約終了後に芸能活動を不当に制限するのは独占禁止法にあたるとの見解をまとめ、業界全体に伝えた。
ジャニー喜多川氏のスキャンダルがテレビメディアなどで扱われないのは、こうした商慣行が前提にあると判断するのは、ごく自然な流れである。これにより報道の筆が鈍っているとしたら、報道機関としては致命的な問題である。
しかし「歪んだ報道」を生む「慣行」というのは、日本だけのことではない。欧米では長年「Missing White Woman Syndrome」と呼ばれる問題が報道機関に重い課題としてのしかかっている。行方不明になる人々は数多くいるのに、比較的恵まれた生活をしている白人の若い女性が行方不明になった場合、特別扱いするかのように報道が過熱する。
最近では米ニューヨーク州に住む白人女性、ガブリエル・ペティート(22)さんが婚約者と米国横断旅行中に行方不明になり、その後、絞殺体で見つかった事件が典型的な例だ。2021年9月、ペティートさんと旅行していた高校時代の同級生だった婚約者の男性が1人で実家に戻ったことから、ペティートさんが行方不明になったことが発覚した。美人でチャーミングなペティートさんがソーシャルメディアを使いこなしていたため、写真なども豊富にあったことから、全米のメディアが連日、リアルタイムでペティートさんの行方を探る報道を繰り広げた。
ペティートさんはその後、ワイオミング州の国立公園内で他殺体で発見され、彼女の死をめぐる婚約者の関与が注目の的となった。その婚約者は捜査の手から逃げるように行方不明になり、報道はこの婚約者の行方を追うことにも熱中した。他の重要なニュースを差し置いて、連日トップ扱いされた。婚約者は10月、フロリダ州内で自殺しているのが見つかった。映画のように進展する事件に、視聴者は熱狂したのである。
この事件の被害者が若い白人女性でなければ、このような熱狂的な報道にはならなかったはずだ。ニューヨーク・タイムズなどの主要メディアは、この事件を手厚く報じる一方で、「Missing White Woman Syndrome」の問題についても記事を載せている。
ペティートさんが死体で発見されたワイオミング州では、2011年からの10年間で710人の先住民系市民が行方不明になっているが、ほとんどがニュースになっていない。「なぜ報道しないのか」と問いかけても、米国のメディアは正面から答えられないはずだ。
白人が優位的な立場にある社会で、無意識のうちに白人優位の報道がなされているからだ。テレビなら視聴率に流されて、インターネットならアクセス数に流されて、そうなってゆく。
「Missing White Woman Syndrome」の問題は、2004年に開かれたジャーナリストの会議で提起された。その後、改善を求める声を耳にするようになったが、欧米のメディアの報道が変わってきたと言える状況ではない。「白人優位」という「慣行」が「歪んだ報道」を生んでいるのである。
行方不明事件などで扱いに人種間格差があると、捜索する警察などの力の入れ方が「白人優位」になってしまうことにつながり、社会的な不平等を深刻化させてしまう。報道のあり方は社会全体に影響を与える。
ジャニー喜多川氏をめぐるBBCの指摘は、外国人の視点で日本社会の「異常性」を浮き彫りにした面があるが、この際、報道をめぐる欧米社会の病巣にも目を向けてみたらどうだろうか。
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