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総合演出・冨田大介氏インタビュー

『ヤギと大悟』はレギュラー化しても変わりません。ヤギファーストと「手応えのない手応え」を貫く

『ヤギと大悟』はレギュラー化しても変わりません。ヤギファーストと「手応えのない手応え」を貫くの画像1
『ヤギと大悟』総合演出を担当する冨田大介氏(撮影=石田寛)

 主役のヤギ「ポポ」が千鳥・大悟を連れ、田舎町を雑草を食べながら歩く……文字通り、道草を食いながら散歩する謎番組『ヤギと大悟』(テレビ東京系)。2021年の第1弾から今年1月の第3弾までがオンエアされ、SNSでは「癒される」「こんなユル~いテレビが見たかった」と話題を席巻してきた。

『ヤギと大悟』はレギュラー化しても変わりません。ヤギファーストと「手応えのない手応え」を貫くの画像2
©️テレビ東京「ヤギと大悟」

 そんな『ヤギと大悟』が、この春にゴールデンレギュラーに昇格。毎週金曜午後7時25分(初回は午後7時30分~1.5時間SP)からという素晴らしすぎる枠で、4月7日からスタートする。

『ヤギと大悟』の総合演出を担当するのは、制作会社シオンの冨田大介氏。レギュラー化にあたってのことや、企画についての思いを冨田氏に聞いた。

冨田大介(とみだ・だいすけ)

1980年生まれ、愛知県出身。株式会社シオン 上席執行役員/総合演出。04年に立命館大学を卒業後、株式会社シオン入社。『ナイナイサイズ!』『99プラス』『ぐるぐるナインティナイン』 (日本テレビ系) など数々のナインティナインの番組を担当。総合演出を務める『ヤギと大悟』21年12月放送回が、ギャラクシー賞の月間賞・21年度テレビ部門入賞となった。

 

大悟でなかったら、この企画はやっていなかった

――もともと、この番組に大悟さんを起用した理由はなんでしょうか? ロケ名人としてのうまさを買ったのか、それとも大悟さんの人間性ありきなのか。というのも、あそこにいるのがノブさんだったら、正直、あまりハマらない気がします。

冨田大介(以下、冨田):そうですね(笑)。もう、最初から『ヤギと大悟』という企画で出しました。企画書を作るときは「(仮)」でタレントさんの名前を挙げて局に出すパターンが多いですが、僕のなかでは「大悟さんじゃないと企画がおもしろくならない」というのがあって。

 大悟さんって、人の懐にすぐ入っていくじゃないですか。ロケでヤギを連れて行く先々では、ポポが雑草を食べている時間をちゃんと作りたいんです。その間、あまりトークが続かない方だと地元の人とのやり取りがすぐ終わって、「ヤギの食べ待ち」みたいな空気になってしまいます。「ポポが食べている間、懐に入り込んでふれあったり、あったかい笑いが作れる人って誰だろうな?」と考えて、大悟さんがパッと浮かびました。

 あと、大悟さんがしゃべるときって、だいたい横にノブさんがいますよね。だから、大悟さんが1人になるとどんなふうにしゃべって笑いを作っていくかすごく興味があって、あえて大悟さんが笑いを作らざるを得ない状況にして(笑)。誰かと出会うまで、大悟さんはずっと一人しゃべりですよね。おもしろい人の一人しゃべりはずっと聞いていられるだろうし。で、横にいるのはポポだから一方通行の会話になるんですけど、そこで優しさも出るし。そういう企画にぴったりだと思って、大悟さんにお願いしました。

――では、大悟さん以外の芸人さんは浮かばなかった?

冨田:もう、考えなかったですね。一筋でいきました。

――万が一、大悟さんに断られていたら……。

冨田:そしたら、この番組はやらないですね。作り手としておもしろいと思えない企画をやることほど、熱量を注げないことはないので。もう、これが通らないんだったら「別にこれは大丈夫です」という考えが、自分のなかにはありました。

――冨田さんのなかで、大悟さんがOKしなかったらこの企画は「おもしろくない」にジャッジされるということですか?

冨田:この企画に関してはそうですね。

――それはシビれますね……。あと、地元の方とのふれあいで言えば、ポポが草を食べている間、大悟さんが平気でタバコを吸うのもいいですよね。

冨田:あのシーンは僕もお気に入りです(笑)。今はタバコNGの番組が多いんですよ。でも、大悟さんの何も隠さない自然体な感じが、この番組にすごく合っていて。

――タバコのシーンを編集でカットするという判断はなかったですか?

冨田:それはなかったですね。ありがたいことに、第1弾でタバコを吸ったときの、地元のお母さんとのふれあいがめちゃくちゃ良かったんです。「吸ってる姿がカッコいいわ」と言ってくれたり、大悟さんのタバコの姿を受け入れて、それを込みでいいって言ってくれたので、「じゃあ、それは僕らもいいものとして流すべきかな」と思って。

大悟の「手応えがない」は褒め言葉

――『ヤギと大悟』には、いつも後半からゲストの方が合流しますよね。ただ、SNSでは「本当はゲストはいらなくて、ポポと大悟のツーショットでいいのに……」という声もチラホラあります。今後、レギュラー化されるなかで、ポポと大悟さんだけでロケをする可能性はあるでしょうか?

冨田:自分としては、いろんな側面があっていい番組だと思っています。ゲストが来たときは、普段、ドラマやバラエティで百戦錬磨の人たちが、この空間に入ったとき「どうすれば正解なのか?」と手応えを感じられずに焦る感じがおもしろいんです。三宅健さんも佐藤隆太さんも、井ノ原快彦さんも野村周平さんも、みんな「これで、本当にいいんですか? もうロケ終わっちゃいました?」と戸惑われていて(笑)。今までは皆さん、ファンの方々を楽しませたりすることで手応えを感じていたと思うのですが、それがこの番組にはあまりないので。そういう姿を見せられるのも、『ヤギと大悟』のいいところなのかなと思っています。普段、見られない姿を見てもらえるというか。

――『ヤギと大悟』を見て、タレントさんにとっての「手応え」について深く考えました。第2弾では、大悟さんもロケ中に「手応えなんてある訳ねぇ」とおっしゃっていました。今のテレビで言うところの「手応え」とは、なんなのか。プレイヤーの方々は、「落とした」とか「笑いを起こした」とか、そういうことを実感できれば、手応えを感じやすいと思うのですけど。

冨田:番組としては、やはりヤギが主役という考えなので、撮れ高の基準はヤギです。ベースにあるのは「雑草に困った人を助けにいく」なので、ポポが訪れた先でみんなが笑ってくれたり、ポポがお腹いっぱい草を食べられたり、そこが番組としての手応えです。

 そして、きっと大悟さんにとってもベースはそこです。「ポポが活躍して、いろんな人が喜んでくれた」が、大悟さんのなかの手応え。だから、第3弾で保育園に寄ったとき、ポポが子どもたちにすごく人気で、一方の大悟さんはブランコでほったらかしにされて、大悟さん的に別に手応えはないじゃないですか。だけど、ベースにある主人公がちゃんと活躍していたら、これは大悟さん的には撮れ高なんです。大悟さんご自身は、この番組では自分が笑いを起こしてどうなったとか、そこに手応えの価値はあまり求めてないかなと思います。

――大悟さんはそのコンセプトを最初から理解されていましたか?

冨田:最初、僕が大悟さんのところへ企画打ち合わせに行って、お伝えしたんです。「ポポが主役でやりたいです。ヤギがずっと草を食べていたそうだったら、食べさせてあげてください。こっちに行けば民家があったとしても、ヤギが違うほうへ行っちゃったら、そっちに行ってください。強引には連れて行かないでください」って。大悟さんからも「絶対、そのほうがいいよな」というお答えがあって、その共通認識のもとに番組が始まったんですね。

 ゲストの方が手応えを感じないのは、「自分が何か活躍しなきゃいけない」という気持ちで臨んでるからかもしれないですね。だけど、『ヤギと大悟』的にはそこの活躍を特に望んでいるわけではなくて。ヤギを通してゲストの井ノ原さんが活躍したらそれはそれでおもしろい結果ですし、基本は、ヤギがいかに自由に活躍するかで僕らはロケをしています。そこのちょっとしたズレを楽しむというか。

――ということは、大悟さんの「手応えなんてある訳ねぇ」という発言は、確信犯で口にしていたんですかね……?

冨田:かもしれないですね(笑)。

――そうですよね、わかりつつ(笑)。ただ、ゲストの方は番組のベースとのズレに困惑して「俺、そんなに仕事してないけどなあ……」と、戸惑ってしまう。

冨田:「いいのかな、これで?」っていう(笑)。僕らとしては、ポポが活躍しているので、ロケ中から「尺も結構埋まってきてるな」と確信しているんですけど、タレントさんにしてみたら「何もやってないんだけど、尺ちゃんと埋まってるの?」と不安になる、というズレですよね。

 あと、大悟さんの「全然手応えない番組」ってきっと褒め言葉だと思うんですよ。「この番組らしさが出てるんちゃうか」ということなのかなと。

――『ヤギと大悟』の企画書をテレビ東京に持っていった際、「これは“テレ東らしさ”が詰まってますね」と言われたというエピソードも聞きました。そこは、やっぱり局を意識されて企画書を作ったんですか?

冨田:やっぱり、局ごとのカラーはありますし、この番組に関してはテレ東が合うというのはありましたね。逆に、「ほかの局で採用されたとして、どんな感じになるんだろう……?」って、ちょっと1回考える感じです。

ナレーションとアテレコを入れず、ロケハンをしない理由

――『ヤギと大悟』のような番組だと、動物にアテレコをつけたり、そういう演出をバラエティはやりがちじゃないですか。でも、『ヤギと大悟』はアテレコがありません。それだけじゃなく、ナレーションもないですよね。そこに、どういう意図があるのでしょうか?

冨田:まず、アテレコをしないのは、大悟さんが一人しゃべりでポポの気持ちを代弁してくれているからです。例えば「お前もゲストいらんよな?」とか「ポポ、もうロケ終わろうとしてる?」とか、大悟さんが全部言ってくれてるので、わざわざ何もする必要がないんです。

 ナレーションに関しては、別にそれがある番組が悪いということじゃなく、この番組に関してはナレーションで目線付けをして「こう見てください」と言う必要もないというか。パッと見て「ヤギが大悟を連れて雑草食べに行ってるな」って、どのタイミングでチャンネルを合わせてもわかると思うんです。そうすると一つひとつの現象を説明する必要がないので、ありのままを見てほしいですね。

――あと、『ヤギと大悟』はロケハンもしないと聞きました。

冨田:ただ、その町の人口くらいは把握しておかないと、人に全然出会えないという結果にもなりかねないので、スタート地点だけはちゃんとしています。あとは、せっかくお邪魔させていただくので、その土地の魅力を知っておきたいなという思いで、観光課の方に町の特色などはお伺いしています。

 でも、そう思うとないに等しいぐらいのロケハンですね。だから、地元の人からは「急に来るの?」って驚かれます(笑)。

――だから、第3弾ゲストの井ノ原さんは、食堂で撮影申請を断られたわけですよね。

冨田 ハハハ、そうですね(笑)。あの断られたときの井ノ原さんの表情は、ほかの番組では見られないかもしれないですね。大悟さんたちはどのタイミングで食事になるかわからないんです。それも一つの要素としてロケでは楽しもうと思って。だから、なかなかごはんにたどり着かないときは「いつ、ごはんを食べるのかな?」と思いながら見ています(笑)。そのタイミングも大悟さん発信なのが自由でいいなと思って。

――そこは、さすが大悟さんですね。ロケでいっぱいいっぱいになっちゃうタレントさんだと、食事に進まないでしょうし。

冨田:そういう場合だと、「タレントさんの食事休憩で、カメラを1回止めてごはん食べてもらわなきゃ」って、僕らも気を遣わなきゃいけなくなるじゃないですか。そういうのは全然ないし、食事に入る過程も尺に入れたいというか(笑)。

 ちなみに、第1弾でポポが寝ちゃったとき、本当は最後にもう1軒、雑草に困ってる方を探しに行きたかったんです。撮れ高的な欲も、僕としてはあって。でも、そこでポポが寝たんで、「これはここでおしまいが絶対この番組らしいし、ポポもお腹いっぱいだから終わろう」と、現場ですぐ判断しました。で、大悟さんに「もう終わりです」と言ったら、大悟さんも「こうなったら、もうおしまいやな」って。そこでやめられちゃう感じが、なんかいいなあと思って(笑)。

――あの終わり方は良かったですね。あそこで、「この番組は信用できるな」と思いました。

冨田:第2弾では、ポポが寝に入る過程を2分くらいワンカットで見せたんです。目がトロンってなって耳が垂れてきて、こうやってヤギって寝るんだなっていう。普通だったら編集点を入れるところですが、この絵をみんなにも見てもらいたいなと思ったし、この2分に『ヤギと大悟』の雰囲気が全部詰まってるなと思って。

 その間、華やかなタレントさん2人(大悟と佐藤隆太)がずっとしゃべっていて、普通ならそっちにカメラを振るじゃないですか。だけど、カメラさんはまったくカメラを振らず、ずっとポポを撮っている。でも、それが正しいなと思ったんです。

――カメラマンさんの判断でポポを撮り続けていたんですか?

冨田:そうです。僕も現場にいましたが、カメラを(タレントに)振らないから「ああ、これは大丈夫だな」と思って、何も言いませんでした。大悟さんのほうに振ろうとしたら「このままで」と言うつもりでしたけど、カメラさんはずーっとポポを撮っていたので。「この番組はこうなんだ」というのが、スタッフみんなにちゃんと浸透しているなと実感できました。

 実は、僕はポポが寝ちゃったとき、現場で「よっしゃ!」と思ったんです。ポポが気を許してくれている感じこそ、見せたいところというか。それを無理やり起こす感じでもなく、大悟さんも「ポポが寝たから俺も昼寝しようかな」って言っちゃうぐらい、ポポがメインなんですね。大悟さんからしても、そこがこの番組の一番の撮れ高だと思っていただけてるってことなんです。

――やっぱり、大悟さんいいですね。

冨田:タレントさんも含め、番組全体で「ヤギファースト」という共通認識はあるのだと思います。

レギュラー番組になっても、今までとは変えない

――昨今のバラエティはカチッと作り込んだ番組だけでなく、強い演出がない、なりゆきに近い番組も好まれる印象です。今後、そういう番組は増えていくと思われますか?

冨田 う~ん、どうだろう……。たぶん、増えていくんでしょうね。というのも、小細工が効かない時代になってきているので。もちろん、作り込む番組もいいと思うし、僕も演出を担当している『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)では、そういう作り方をしているので。ただ、それとは違うパターンとして、素をそのまま見せるところをおもしろがってくれる人は多いですよね。

――カチッと作る番組は、『ぐるナイ』もそうですし、今のテレビだと『水曜日のダウンタウン』(TBS系)もそうですよね。

冨田:やっぱり、熱量だと思うんですよね。こだわって作った番組は、作り込んでいてもそうじゃなくても受け入れてもらえると思うし、その熱量に触れてもらえれば、見ている人の「いい!」というスイッチが入ると思うんです。だから、「いかに熱量を注いだ番組なのか」が大事なのではないかと。

 たとえば、4月からレギュラー化が発表された『私のバカせまい史』(フジテレビ系)も、熱量がものすごいですよね。『水ダウ』もそうだし、熱量を感じる番組はすごく魅力的だと思っていて。だから、そういう番組が増えていくというより、そういう番組が残っていくんだろうなと思います。

――ちなみに、冨田さんが「この制作者は自分と同じ志を持ってるな」という方は、どなたがいらっしゃいますか? 

冨田:最近、SNSでも注目されていますけど、『ここにタイトルを入力』(フジテレビ系)を演出された原田和実さんです。初回のバイきんぐ・小峠(英二)さんが出ていらっしゃった、スタジオが2面のやつを見て……やっぱり、嫉妬はありますね。「うわあ、おもしろいなあ」と思って。あとは、作家で竹村(武司)さんがすごく好きです。竹村さんがやる作品には、毎回気持ちいい裏切り方をされるんです。「これはおもしろいな」と思う番組があると、ほぼ竹村さんが入っています(笑)。

 あと、『ヤギと大悟』に作家で入ってもらっている飯塚大悟さんもすごく熱量がある方ですね。飯塚さんは笑いに対してとても真摯で。もともと、飯塚さんとは『ぐるナイ』で出会ったんですが、会議で出す企画もおもしろいし、一緒に台本を詰めるときも波長が合って。だから、『ヤギと大悟』の企画が決まり、制作するにあたっては飯塚さんとやりたいなとお声がけしました。飯塚さんは僕より年下なんですけど、その仕事ぶりを尊敬しながら。そういう方たちからは、刺激を受けますよね。

――最後に、このインタビューは、『ヤギと大悟』の初回が放送される日の掲載を予定しているのですが、これまでの放送とレギュラー昇格後で変わる点はありますか?

冨田:逆に、変えずにやることこそ、我々の一番やりたいことなんです。レギュラーになるからって、急にナレーションを入れるとか、情報を入れたり、よりガチャガチャするようなことはせず、基本は今まで通りを貫こうと思っています。

――これは、強く書いておきます。時間帯が上がったりレギュラー化したりすることで内容が変わってしまい、ガッカリする視聴者ってすごく多いので。

冨田:そこはもう、絶対裏切りたくないなっていう。もう、本当に信頼関係です。たぶん、この番組を好きになっていただいた方は、そこをちゃんと見てくださっていると思うので、その裏切りは絶対したくないですね。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2023/04/07 13:00
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