石井岳龍、最後の授業『自分革命 映画闘争』 観客を挑発する過激なメタ構造映画
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
人間の内なる宇宙を描く、独自の石井ワールド
大学から逃げ出した石井教授は、森の中で瞑想しながら呟く。「俺はアホだ。アホすぎる。でも、アホだからこそ気づくこともあるんだ」と。思わず吹き出してしまうシーンだが、古代ギリシアの哲学者・ソクラテスが唱えた「無知の知」を石井監督流に言い直したものだ。
石井「高尚に言えばソクラテスの言葉でもありますが、アホって言葉はお笑いの世界では最上級の褒め言葉でもあるわけです。実際、これまで自分は一生懸命に映画をつくってきたつもりですが、冷静に見ることができないと独りよがりなものになってしまいます。客観的に自分を捉えることができないと、危険なことにもなりかねません」
石井監督の話を聞いていると、メタ認知(自分を客観的に見つめ、把握すること)などは単なる言葉遊びではなく、学生や観客に向けて石井監督が真摯に発しているメッセージでもあるように感じる。また、『五条霊戦記 GOJOE』(00)や『ELECTRIC DRAGON 80000V』(01)などにも通じる、スピリチュアル要素も石井監督ならではのものだろう。映画的言語として受け止めたい。
石井「私はSFが好きです。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ブレードランナー 2049』(17)は大好きな作品ですが、製作費に200億円も投じるようなSF映画は日本では製作できません。でも、人間の内なる宇宙を描いたSF映画なら、アイデア次第では描くことができます。まったくの虚構を描くのではなく、現実をベースにすることでリアリティーのある面白さが生まれる。それもあって、その時の自分がいる場所をモチーフにしたフィクションを考えるのが楽しいんです。『高校大パニック』が福岡出身の私の母校を舞台にしたように、今回も自分が17年間を過ごした大学を舞台に思い切った嘘をついています(笑)」
映画がつまらなく、社会が最悪なのは誰の責任なのか?
瞑想を終えた石井教授は、やがて謎の洞窟へと姿を消すことになる。この洞窟は、さまざまな時空に繋がっている。石井教授のあとを追う武田助教は、旧石器人が壁画を描いた古代の洞窟や太平洋戦争中の防空壕の闇にも触れることになる。
石井「洞窟の闇は、未来のシェルターにも繋がっています。もちろん、現代の映画館の闇にも。映画を上映するスクリーンや映画館はとても重要な存在です。動画配信はとても便利で、私も重宝しています。でも、便利な配信だけになってしまうという状況には、不安を覚えます。映画は映画館の闇の中で観ることで集中力が増し、感覚が研ぎ澄まされるわけです。映画の世界だけに没入できる。闇がないと映画館では映画は上映できません。もちろん光も必要であり、それを観る人間の心が何よりも大切です。私の中ではそれは小宇宙だと思っています。そこは万物の創生の源につながっています」
常に実験精神を失わずに走り続ける石井監督は、多くの映画人たちからリスペクトされている。その一方、商業映画での大ヒット作はまだ残していない。町田康原作の異色時代劇『パンク侍、斬られて候』(18)は、綾野剛、北川景子、染谷将太、豊川悦司ら豪華キャストを擁し、東映系で全国公開されたが、興行的に成功したとは言い難い。
石井「いつも全力で映画を撮っていますが、『面白い』という声もあれば、『つまらない』という声も上がります。『つまらない』という声が上がるのは、それは私にまだ映画を撮る技が足りないということです。ジョージ・ミラー監督は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)を70歳で完成させたわけですが、『面白い』という声が上がる一方、『つまらない』という声もある。賛否が割れるのは仕方ないことですが、観客のせいにすることは絶対にできません」
シネコンに行っても、面白そうな映画が見つからない。マスコミで話題になっているベストセラー小説を読んでみたものの、自分にはつまらなく感じられる。誰しも、そんな体験をしたことがあるだろう。この世の中が退屈で、どうしようもなく最悪な状況なのは、誰の責任なのか。石井監督は「まずは自分を変えてみるべき」と語る。
石井「シネコンは商業ベースで上映される作品が決まっています。つまり、観客が観たいと思っている映画が上映されているわけです。他人を責めても、何も変わりません。まずは自分を変えていくことが大切だと私は考えてました。自分が変われば、社会も変わっていくはずです。自分革命にはそんな意味も込めているんです。大学の教授職からは離れますが、映画づくりはこれからがいよいよ本番です。もちろん、最高傑作を連発するつもりでいます」
2時間45分にわたる石井岳龍ワールド。映画館の闇に体を沈め、内なる小宇宙に五感を澄ませてみてはどうだろうか。
『自分革命 映画闘争』
製作・監督・脚本/石井岳龍 撮影・照明・編集・VFX/武田峻彦
音楽・音響スーパーバイザー/勝本道哲 美術/谷本佳菜子
出演/神戸芸術工科大学・映画コース関係者有志
配給/ブライトホース・フィルム 渋谷ユーロスペース、神戸・元町映画館にて公開中
©ISHII GAKURYU
jibunkakumei.brighthorse-film.com
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