『ピーターラビット2』に仕込まれたハリウッド映画あるある
#金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
イギリスの絵本作家、ビアトリクス・ポターの『ピーターラビットのおはなし』は今年で創刊121年目を数える。それを記念して2021年に公開された実写映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』が日本テレビ系『金曜ロードショー』に登場、地上波初放送です。前作でも大暴れしたやんちゃでイタズラ好きのウサギたちがまたまた、大騒動を巻き起こす!
前作でイギリス湖水地方の住処を巡って血みどろの争いを繰り広げた(本当に)トーマス・マグレガーとピーターラビットたちは、表向きは仲良く暮らしていた。ピーターたちが大好きな絵本作家の女性ビアと結婚したマグレガーが早く子供が欲しいとせがんだことで、静かな生活が破壊されると感じたピーターは再びマグレガーと一触即発の事態に。
そんな折、ビアの描いたピーターラビットの絵本が大手出版社の目に留まることに。出版社社長のナイジェルは絵本の地味な設定をもっと派手にして、読者に受ける要素を入れまくれば世界中で大ヒットですよと言い、彼に丸め込まれたビアは湖水地方の自然をありのままに描写したいという当初の思いをあっさりと捨て、ナイジェルの言われるがままにピーターらにスケボーをさせたり、宇宙に行かせたり、さらには「このほうがもっともっと売れる」という理由でピーターを悪役キャラにしてしまったり、作風を大きく変えてしまうのだった。
目先の金に浮かれて高級スポーツカーを乗り回すようになったビアをたしなめようとしたマグレガーだが、口論になってしまう。その頃、町でギャングを自称する野良ウサギのバーナバスと出会ったピーターは、彼のタフネスでアウトローな生きざまに憧れ、悪役として生きていく決心をする。
どうせ絵本じゃ俺は悪党なんだから!
バーナバス一行の「市場からドライフルーツを大量に奪う作戦」を持ち掛けられたピーターは、湖水地方の仲間たちに「なんか怪しくない? そんな奴ら信用して大丈夫?」と諭されながらも彼らを巻き込んで、危険な作戦に挑む。作戦は大成功に思われたが、市場には大切に育てたトマトを売りにマグレガーが来ていたのだった。
映画『ピーターラビット』は絵本のウサギたちがリアルな3DCGで描かれ、ドタバタ大活躍を繰り広げる。飛んで跳ねてウサギのように走り回るかと思えば、人間のようにジャンプしてキックを繰り出す。マンガのキャラクターを平面の2Dアニメで描いた『トムとジェリー』とは打って変わって、ピーターらは最新技術によって所狭しと暴れまわる。
『ピーターラビット』は世界中で人気のキャラクターで、日本でも企業CMのイメージキャラとして長らく使用されていた。アラフィフの筆者は80年から20年近くにわたってテレビ番組『キユーピー3分間クッキング』(日本テレビ系)の映像に使われていたのを覚えている。この番組とピーターラビットが、日本におけるウサギの可愛らしいイメージを定着させたのは間違いない。
ところが実写映画『ピーターラビット』シリーズはそんなウサギのイメージを吹き飛ばす。ピーターはカンフーの達人ばりに宙を舞い、空を飛んで人間を蹴り飛ばす。するとマグレガーは回転しながら物凄い勢いで吹っ飛んで、柵や壁を破壊してようやく止まる。普通の人間なら大けがするよ。
家を奪われたくないマグレガーはウサギを追い出そうとして電流柵を仕掛けるのだが、逆に感電させられたりする(笑)。両者の争いはヒートアップを続け、ついにはダイナマイトでウサギの巣穴を吹っ飛ばそうとするのだが、反撃に遇って家の方が吹っ飛ぶ!
この人間VS動物のやりすぎアクション、バイオレンス描写は映画を「ほのぼの動物ドタバタコメディ」と勘違いした観客を驚かせた。なにしろ監督はスピルバーグの『プライベート・ライアン』を参考にしてアクションシーンをつくったというのだから。ノルマンディー上陸作戦の戦場をリアルに描いて、兵士が砲撃を受けて吹っ飛んだりするアレを『ピーターラビット』でやっちゃうのだ。
さらに今回の続編ではヘイスト(強盗)映画の要素があり、動物ほのぼの映画の枠を軽く超えている。
制作はアメリカ、イギリス、オーストラリアの合作ということもあって、今回のパート2ではハリウッド映画へのアンチテーゼ的描写がある。ウサギの絵本を使って金儲けをたくらむナイジェルは口八丁手八丁で、原作者を誑し込み、余計なアドバイス「こうすれば売れるから」をして、全くの別物にしてしまう。
こういう適当でいいかげんなプロデューサー、どこかで見たことあるよ! 作者のビアは売れなくてもいいから、自分が愛した湖水地方の自然をありのままに絵本にしたい……という人だったのに、金と成功に目がくらんでナイジェルの操り人形と化す。
方やピーターも普段は、マグレガーが大切に育てている農園の野菜を守っているが、本心は腹いっぱいたらふくになるまで食べたい。けれどマグレガーと仲良くしたいので食欲を我慢してつまみ食いしようとする仲間をけん制する。
そんな時に野生の赴くままに奪って食えばいいんだ、それがウサギなんだから、というバーナバスの教えに染められてしまい、ピーターは大暴走。『バーナバスの誘惑』という日本独自のサブタイトルにはビアとピーターの両者が甘い誘惑に溺れてしまい、自分を見失いかけることへの隠喩がある。
でも本当に大切なものは甘いドライフルーツや大金だけじゃない。決して裏切らない、人と動物の垣根を超えた絆こそが大切なものなんだ、と訴えかけるのです。バイオレンスアニマルコメディと思ってたら、じいんとする感動話だった!
ちなみに監督のウィル・グラックは日本に8年ほど住んでいた経験があるそうだ。前作公開時には来日キャンペーンとして里帰り(?)をして、以前住んでいたところにいくと……住んでた家は全部なくなっていていかにもインバウンド! といった感じの超高層マンションが建っていてガッカリしたそうな。
彼がクリエイターじゃなかったら「金に溺れやがって! 全部吹き飛ばしてやる!」とダイナマイトを仕掛けるところだ。爆発は映画の中だけにしておいてよかった!
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