トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 悲しくなるDC映画のコメディ

『シャザム!~神々の怒り~』未来のなさを考えると悲しくなるDC映画のコメディ

© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第8回目は、DC映画最新作『シャザム!~神々の怒り~』をget ready for movie!

 昨年4月にワーナーがディスカバリーと合併したことで、経営陣が代わり、作品の方向性も全く違う方向に進み、すでに“リセット”が決まっているDCユニバース。

 3月17日より公開中の映画『シャザム!~神々の怒り~』は、もとからDCユニバースの中途半端な位置にある作品ではあるが、制作中はそんなことは夢にもお思ってもいなかっただけに、DCユニバースや続編につながるようなさまざまなギミックが用意されている。シャザムというキャラクターが、今後どう関わってくるのだろうかという期待感が、本作の大きな支えのひとつになっているのだ。

 ところが、先述した“リセット”により、シャザムの存続が危ういのはどう考えても明白で、いきなりそんな状態でリリースされているというのは複雑な状況だ。次回につながるワクワク感を抱いたところで無駄になることが確定している作品に対して、どんなスタンスで鑑賞していいのかが、本当にわからない。

 DCユニバースでも、本作はめずらしいコメディ枠なのだから、難しいこと考えないで楽しめばいいという理屈もわからないではないし、もともとガッツリとDCユニバースにつなげる感じの作品でもない。だが、少なくとも『ブラックアダム』(2022)とはつながる予定だったわけだから、やっぱり悲しいし、サブライズで登場する“あの人”も結局出オチになってしまったことになる。

 そんなこんなで公開前から作品自体の魅力が薄れてしまっているアウェーな本作だけに、DCユニバース関係なく、単体の作品としてどこまで振り切れるのかが今作の評価につながってくるわけだが……それがうまくいっているとも言い切れない。

 ディズニー版「白雪姫」の実写版『スノー・ホワイト』で主演を務めるレイチェル・ゼグラーが、本作で金のリンゴを持っているというのは、ディズニーへの当てつけのようで良かったものの、新キャラクター全員の情緒がよく理解できないのも難点だ。

【ストーリー】
ごく普通の少年ビリーは、魔法の呪文「シャザム!」を唱えると、神々の力を宿したスーパーヒーローに大変身!そんな“見た目はオトナ、本当はコドモ”の半人前ヒーローのシャザムが、神々を怒らせてしまった…!? 復讐に燃える“神の娘たち”がペットのドラゴンを引き連れて地球に降臨。未曾有の危機を前に、ビリー=シャザムは人類や世界のためではなく、ダメな自分を受け入れてくれた仲間のために立ち上がるが…。神々の力を手にするシャザム VS 怒れる神の娘たち。神様だらけの最強バトルが開幕する!

力を持った者は幼稚化するという大皮肉!!

 前作『シャザム!』(2019)では、突如として力を得た少年ビリー・バットソンが、その力に魅了されながら、ヒーローの道を進む姿が描かれていたが、今作でビリーはもうすぐ18歳という設定であり、変身前はわりと落ち着いているというのに、変身した途端、幼稚化してしまっている。

 前作では14歳だったため、約4年経過したことになっていて、もはや子どもではない年齢のはず。それはつまり、力を持ったことで、力に頼り、人間体の成長が止まっている状態で「何かあれば変身すればいい」というダメ人間思考になっているということだ。

 コメディ枠なのだから細かいこと考えなくてもいい、ポップコーンムービーなのだからいいじゃないかという声もあろうし、実際にアクションを盛り盛りにしておくことでストーリー構造の粗さに目が行かないような作りにしてあるのも確かで、今作から『ワイルド・スピード』シリーズのクリス・モーガンが脚本に入っているのも妙に納得がいく。

 しかし、これはかなり皮肉的な描き方にも思えてしまう。なぜならヒーローもヴィランも、力を持ったものは幼稚化、もしくは単純化するということを全体を通して表していて、結果的に力を持った者の末路を描いているといえるからだ。

 よく考えれば、実際の社会もそうかもしれない。権力があるからこそ戦争や紛争を起こしたりするわけだ。さらに今作で起こる事件の事の発端もシャザム側にあるのだから、群衆はもはやモブでしかなく、力を持った者の下で踊らされているに過ぎない。

 これはマーベルの作品においても最近になって多くなってきた描き方で、例えば『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(23)のように、自ら招いた惨事を自ら解決しているだけのような物語が増えてきているのだ。

 もともとマーベルもDCもコミックの段階から、正義と悪の線引きが難しいという描き方をしていて、それが多くのファンを獲得してきた要素のひとつだからこそ、映画やドラマにも当然のごとく持ち込んだわけだ。ただ、作品が多くなり過ぎたことでプロットのパターンとしてマンネリ化して、もはや何をどうするべきなのかというほどにテーマ性を見失っているようにも思えてしまうのだ。

 それもあってのリセットだとは思うが、巻き込まれてしまった今作は非常に可哀そうな作品だといえる。今後公開される『ザ・フラッシュ』や『アクアマン・アンド・ザ・ロスト・キングダム』を、私たちはどんな気持ちで観ればいいのだろうか……。

『シャザム!~神々の怒り~』
2023年3月17日(金)全国ロードショー

監督:デイビッド・F・サンドバーグ
出演:ザッカリー・リーヴァイ、アッシャー・エンジェル、ジャック・ディラン・グレイザー、ジャイモン・フンスー、レイチェル・ゼグラー、ルーシー・リュー、ヘレン・ミレンほか
配給:ワーナー・ブラザース映画  
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/25 07:00
ページ上部へ戻る

配給映画