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『マッシブ・タレント』公開記念 トム・ゴーミカン監督インタビュー

『マッシブ・タレント』我々はいかにしてニコラス・ケイジに魅了されたか?監督インタビュー

『マッシブ・タレント』我々はいかにしてニコラス・ケイジに魅了されたか?監督インタビューの画像1
®, TM & © 2022 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

──あのニコラス・ケイジがニコラス・ケイジを演じる?

 そんなメタ的、そして自虐的(?)な映画『マッシブ・タレント』が、3月24日から公開されている。

 ニコラス・ケイジといえば、1990年代~2000年代の全盛期は、『ザ・ロック』(96)や『フェイス/オフ』(97)、『60セカンズ』(00)などのヒット作、いわゆるブロックバスター系の作品に多く出演する“ザ・ハリウッドスター”だった。しかし、極度な浪費癖や度重なる離婚による慰謝料などによって資金難に陥り……今では、すっかり“B級映画御用達俳優”の印象に変わってしまった──といったところが、ニコラス・ケイジに対する我々の共通認識だろう。

 そんなケイジがケイジを演じるというのだから、多くの人は、きっとものスゴい自虐ネタのオンパレードかと思うのではないだろうか?

 実際のところはスクリーンで確認してほしいが、本作のメガホンを取ったゴーミカン監督は、大のニコラス・ケイジ・ファンであるという。本作をきっかけにケイジに再起してもらいたいと心から願っているし、世の中に出回っている風評的な部分よりも、優れた俳優としてのケイジを見てほしい、という想いが込められているのだ。

 とりあえずオファーすればなんでも出てくれるからといって、雑にケイジをキャスティングしてきたようなB級作品群(そこに愛はあるんか?)とは、ニコラス・ケイジという俳優に対しての想いが圧倒的に違っている。だからこそ、本作のようなニコラス・ケイジ愛の溢れるニコラス・ケイジ・ムービーが出来上がったのだろう。 

 一方で、ケイジは当初、(あくまで架空の人物という設定であっても)ケイジ本人を演じることを嫌がっており、出演を何度も断っていたそうだ。そんなケイジをどうにかして口説き落としたトム・ゴーミカン監督に、本作にかけた想いを聞いてみた。

※以下、微ネタバレ注意!!

「これはあなたが“パフォーマンスアート”をやるチャンスです」

『マッシブ・タレント』我々はいかにしてニコラス・ケイジに魅了されしか?監督インタビューの画像2
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──本作を観るまでは、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが主演した映画『その男ヴァン・ダム』(2008)のように、もっとケイジの自虐的な作品かと思っていました。ですが、あくまでニック・ケイジという架空の人物とすることで、ひとりの俳優の人生を俯瞰的に描いていて、全体的に自虐的やネタ的な要素はかなり薄いと思いました。……もしかしたら、監督としては、もっとケイジの素顔に迫り、リアルで自虐的な作品にしたかったのではないでしょうか?

トム・ゴーミカン監督(以下、ゴーミカン):実在の役者の人生を題材にするとなると、相当にバランスを取るのは難しいものです。その人の一部を刈り取ってしまう行為を全世界に見せるということですから、十分気をつけなくてはなりません。まずもって、ケイジ本人がOKしてくれるストーリーを見つけなければならない。そして、あまりにリアルを狙いすぎてしまうとそれはストーリーを阻害することにもなるので、観客の注意が削がれてしまうことにもつながります。なので本作は、そのあたりを考えながら、ちょうどいいあんばいを見つけられたのかなと思います。

※本作は、自虐的な部分もある&コメディ色も強いが、最終的には(まさかの?)ハートフルな人間ドラマとして着地している。インタビューの内容からも、自虐的な部分には極力配慮がなされていたことがなんとなく理解できた。しかし、そんなことよりも、本作からはニコラス・ケイジという俳優への理解と揺るぎない愛を感じる。

 

──当初、ケイジは今作への出演に消極的であり、実際に3、4回出演を断っていたそうですね。でも、監督の愛の込もった手紙によって、出演を決意したのだと聞きました。いったいどんな内容の手紙を送ったのですか?

ゴーミカン:まず手紙で伝えたのは、ニコラス、あなたはあらゆるジャンルの作品に主演し、あらゆるキャラクターを演じることができるわけですけど、この作品なら、たった1本の映画で全ジャンルをこなすことができますよ、ということです。本作は、最初はいわゆるキャラクター映画ーーそういう小品から始まったのが、アクションになり、バディものになり、スリラーになり、最終的にはファミリー映画になっていく。それが、ひとつの説得材料になったようです。

 また、フィクションとリアリティが混在した映画になっていることで、ニコラスに「これはあなたが“パフォーマンスアート”をやるチャンスです」というふうに言いました。つまり、ニコラス・ケイジ像というのがメディアであったりSNSであったりマスコミであったり、いろいろ取り上げられて、さまざまな言われ方をしているわけですけど、そういったものを全部ひっくるめて、この1本の長編で、それらに対するアンサーとすることができます、と言いました。それが一番の説得材料になり、ニコラスも乗り気になってくれたんじゃないかと思っています。

※本作には『フェイス/オフ』や『ザ・ロック』、冒頭には『コン・エアー』(97)の映像が使われており、主人公は“ほとんど”ニコラス・ケイジなわけだ。ちゃんと実際の出演作を使用しているのは、メディアに出回っている風評ではなく、俳優としてのケイジを評価してほしいという願いが込められているからだろう。

 

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左がハビ。ニック・ケイジとの友情も見どころだ。®, TM & © 2022 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
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(左)アイク・バリンホルツ、(右)ティファニー・ハディッシュ。®, TM & © 2022 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

──本作には、ペドロ・パスカルが演じる、ニコラス・ケイジマニアのハビというキャラクターがバディ的な役割として登場しますが、このハビこそが監督の意思を反映させたキャラクターだからこそ、そのセリフの一つひとつにリアリティを感じることができたのだと思います。ちなみに、本作には過激なコメディエンヌであり、演技派女優でもあるティファニー・ハディッシュが出演しています。脚本の段階では、ティファニーが演じている役は男性の太った捜査官として、ポール・ウォルター・ハウザーが候補だったところを、ポール・シュレイダーがティファニーを推薦したと聞いたのですが、なぜティファニーだったのでしょうか?

ゴーミカン:やっぱりティファニー・ハディッシュが登場するということは、「みなさん、この作品で笑っていいんですよ」という合図なんですよね。彼女の登場で、「あっ、これはおもしろおかしいコメディなんだ」ってわかるようになっています。だから、最初の20分間は、ニックというキャラクターをひたすら掘り下げていく“キャラクターポートレート”になっているんですが、途中からティファニーが登場することで「あっ、そういう映画か」とわかってもらうような意図がありました。

※ティファニー・ハディッシュは、かなり際どい下ネタを連発するスタンドアップ・コメディアン。『ガールズ・トリップ』(17)や『クレイジー・グッド』(18)でもその迫力には圧倒されるほど。しかしその一方で、『ザ・キッチン』(19)や「セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~」(20)などでは下ネタを完全に封印し、見違えるほどの名女優ぶりを発揮しているカメレオン女優である。
 今作ではコミカルではありながらも演技重視な中間的な役どころとして出演していて、あくまでニコラス・ケイジの物語であることを大切に演じているようにも感じたからこそ、改めてティファニーの力量には驚かされた。また、同じくCIAエージェントとして登場するアイク・バリンホルツとティファニーはコメディ映画『ターキー・パニック』(2018)でも共演しており、このふたりの掛け合いは息の合った漫才のようになっている。

 

『マッシブ・タレント』はニコラス・ケイジの分岐点となるのか?

 今作を観て改めて思うことは、ニコラス・ケイジは、間違いなく90年~2000年代を代表する俳優であり、今も俳優として評価されるべき存在であるということだ。

 叔父はフランシス・フォード・コッポラでいとこはソフィア・コッポラなど、映画人、芸術家の血筋であり、『リービング・ラスベガス』(95)では第68回アカデミー賞において、主演男優賞を受賞している演技派俳優。

 ケイジという名前は、マーベルコミックスの「パワーマン」に登場するルーク・ケイジに由来している。それほどアメコミ愛の強いケイジ。一時期はティム・バートンが監督する予定だった『スーパーマン・リブズ』にスーパーマンとして出演する予定で、実際にボディスーツを着たスチール写真も残っている。

 念願のアメコミ映画『ゴーストライダー』(07)には、カツラを着けてまで出演したかったほどで、そのあとも『キック・アス』(10)やCGアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)など、アメコミ映画には積極的に参加している。

 『ゴーストライダー』前後から深刻な資金難になりつつあったケイジにとって、安定していてギャラも多かったディズニーの『ナショナル・トレジャー3』に出演することは起死回生のチャンスであったはず。だが、なぜかケイジが選んだのは『ゴーストライダー2』(12)だったのだ。そしてそんな『ゴーストライダー2』は大コケ。

 それだけが原因ではないが、自分のポリシーを優先させた結果として、借金苦に陥り、B級映画に出まくるようになってしまった現状は皮肉だ(本作中のセリフでも「(B級映画は)キャリアではなく、労働だと思っている」と言ってしまっている)。

 実際に、近年の作品は、どれも何かと叫びまくっていたり、逆に『ウィリーズ・ワンダーランド』(21)のようにセリフがほとんどなかったりと、完全に負のサイクルに陥っているように見える。とはいえ、それもひっくるめてニコラス・ケイジという俳優はおもしろいわけだが……。

 そんな中で『マッシブ・タレント』は世界的に評価された作品であり、ケイジが俳優として再評価される機会になったはず。それによってケイジが次のフェーズに進む分岐点作品になったのかは不明であり、相変わらずB級作品出演の予定がびっしり入っていることに変わりはないが、4月にアメリカで公開される『レンフィールド』(23年日本公開予定)では、ケイジの憧れの俳優、ベラ・ルゴシを彷彿とさせるドラキュラ役に挑んでいる。

 同作はケイジにとって久しぶりのユニバーサル制作による商業的な作品であり、夢であったドラキュラ役ということもあって、風向きは少しずつ変わってきているように思えるのも事実だ。

ニコラス・ケイジが“ザ・ハリウッドスター”として帰ってくるのも、そう遠い未来ではないのかもしれない……!?

 

『マッシブ・タレント』

【ストーリー】
ハリウッドスター、ニック・ケイジは悩んでいた。多額の借金を抱え、心から望んでいた役は得られず、妻とは別れ、娘からは愛想をつかされていた。
「かつて栄華を極めた俺の人生はもう取り戻せないのか――。」悲観する彼の下に、スペインの大富豪の誕生日パーティーに参加するだけで 100 万ドルが得られる高額のオファーが舞い込む。借金返済のため渋々受け入れ、スペインへ飛んだニックを、彼の熱狂的なファンだという大富豪ハビが待ち受けていた。最初は乗り気ではなかったニックだが、映画の趣味が合うハビと意気投合し、友情を深めていく。ところがある日、CIA のエージェントがニックに接近する。ハビの正体は国際的な犯罪組織の首領で、彼の動向をスパイしてほしいというのだ。ハビとの友情をとるか、それとも国家のために働くのか。ニック・ケイジの俳優人生を懸けた一世一代の大仕事(ミッション)の幕が上がる……。

監督:トム・ゴーミカン
脚本:トム・ゴーミカン、ケヴィン・エッテン
出演:ニコラス・ケイジ、ペドロ・パスカル、シャロン・ホーガン、アイク・バリンホルツ、アレッサンドラ・マストロナルディ、ジェイコブ・スキーピオ、ニール・パトリック・ハリス、ティファニー・ハディッシュほか
2022 年|カラー|シネマスコープ|英語・スペイン語|107 分|PG12
日本語字幕:平井かおり|字幕引用:戸田奈津子、菊地浩司、太田直子
配給:フラッグ
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2023年3月24日(金) 新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、グランドシネマサンシャイン 池袋、アップリンク吉祥寺 ほか全国ロードショー

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

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ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/30 19:27
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