経口中絶薬、審議見送り…「時代遅れ」の先にある“金の問題”
#医療
厚生労働省は3月の議題として2度開催する薬事分科会を開き、人工妊娠中絶のための経口中絶薬(飲み薬)を承認するか否かの意向を示す予定とされていた。だが、事前に募集していたパブリックコメントが1万件以上と想定外の数が集まったことで、審議の見送りを発表した。4月以降に改めて審議する予定だという。
現在、国内初の経口中絶薬として審査されているのは、英企業・ラインファーマ製「メフィーゴパック」だ。
メフィーゴパックは、妊娠継続に必要な黄体ホルモン(プロゲステロン)の働きを抑制する「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる働きがある「ミソプロストール」を組み合わせて飲む経口中絶薬。妊娠63日以下の人が使用可能で、ミフェプリストン錠1錠を飲んだ36~48時間後に、ミソプロストールバッカル錠を歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置して溶けずに残った錠剤は飲み込む。
妊娠63日以下の18歳から45歳の女性120人を対象に実施された、メフィーゴパックの国内第Ⅲ相臨床試験の結果によると、ミソプロストールの投与後、24時間以内の人工中絶成功率は93.3%だったとされている。
アフターピルのオンライン処方、OCT化(処方箋なしで買える市販薬化)など制度拡充を求めて、国内外市場・規制のリサーチや情報発信を続ける内科医・山本佳奈氏は、「妊娠初期の中絶法として、女性の身体的・精神面に影響が大きい掻爬(ソウハ)法を使った手術以外の『内服薬』という選択肢が新たに加わることはメリットが大きい」と一定の評価をする。
一方で「審査されている薬剤(メフィーゴパック)は決して新しい成分でできたものではない」とし「80カ国以上で承認されており、世界ではすでに広く使われている」と実情を説明する。
同様の成分を使った経口中絶薬は1988年時点ですでにフランスで初承認されており、その後、多くの国で使用されるようになった。また世界各国では中絶手術に関しても90年頃から金属の器具を使って胎囊などを取り出す「搔爬法」から「吸引法」に切り替わり始めている。
「搔爬法は子宮内に傷が付くおそれがあり、身体的にも精神的にも女性の負担が大きい」(山本氏)のがその理由だ。しかし手動の吸引法が日本で認められたのは2015年とここ最近のことであり、現在、少しずつ置き換わりが進んでいる状況だと山本氏は言う。
「内服薬にしろ、手術方法にしろ、日本の中絶に関する考え方は世界から30年近く遅れていることになります。海外では女性の体に負担が少ない方法に切り替わってきました。いまだに妊娠初期の中絶に手術という選択肢しかない日本は、女性の権利や健康に関する問題を置き去りにしてきたと言っても、過言ではない」(山本氏)
仮にメフィーゴパックが承認されたとしても問題は山積みだ。
まず問題となるのは価格の問題だ。例えば、時事通信は「WHOは経口中絶薬を妥当な価格で提供されるべき『必須医薬品』に指定しており、海外では1000円以下で入手可能な国もある」とし、「国内では中絶手術は通常、保険が利かないため、中絶薬も10万円程度になるとの見方がある」と報じている(23年2月27日付)。
実際、日本では諸外国と比べてアフターピルも割高だ。
経口中絶薬の価格については議論が進んでいくと考えられるが、承認されたとしても高額で手が出しにくいとなれば選択肢としての意義を持たなくなる可能性もある。また山本氏は「運用方法も今後の課題だ」と指摘する。
「産婦人科の専門医でなければ処方できないのか、普通の病院でも置くのか気になるところ。仕事をしている女性の場合、9時17時の産婦人科に行けない人も少なくないと思います。1日内服が遅れたから使えないという薬ではないですが、厳密に規制で用法を守らないといけないとなると、土日に開いている病院で置くのかどうかといった問題も出てくるでしょう。また東京であればアクセスが容易になると思いますが、地方には産婦人科が極端に少ない地域も多い。女性の身体的・精神的健康を守るという観点から、運用方法はしっかり検討されて然るべきです」(山本氏)
また「経口中絶薬の存在を周知させることも重要な課題だ」と山本氏は付け加える。
「例えば、薬が何週目まで使えるかなどしっかり周知されれば、女性が中絶について考えたり、検査を受ける精神的余裕がしっかり持てるようになるはずです。アフターピルの場合、存在や使い方を知らなかったため、取れる行動をはなから諦めてしまったことが過去にあったという人が多くいました」(山本氏)
もうひとつ気になるのは、なぜこのタイミングで経口中絶薬の承認に関する議論が浮上したかだ。
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