『ナワリヌイ』国家がいかにして国民の毒殺を図ったか本人が追うスリル
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先日発表された第95回アカデミー賞は本命視された『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞、監督賞をはじめ7冠に輝いた。
この話題は各メディアで大きく取り上げられたのでご存じの読者も多いだろう。
色んな夢がありながら、結婚して家庭に入る道を選んだ平凡な中年女性が主人公で、夫とは不仲、一人娘はガールフレンド(!)を家に連れてくる。税務署からは領収書の山を認めてもらえず、どん底を絵に描いたような彼女がなぜか、世界の命運をかけた戦いに巻き込まれるという複雑怪奇かつ壮大なSFロマンだ。監督や主なキャストが東南アジア系の作品がアカデミー賞の主要部門を受賞するという点も含め快挙で、受賞、ノミネートされるのはいつも白人ばかりという近年のアカデミー賞批判に一石を投じる結果となった。
が、今回触れたいのは別の意味で話題になった作品のこと。長編ドキュメンタリー賞を受賞したHBO Max、CNNフィルムズ制作の『ナワリヌイ』だ(現在U-NEXTで配信中)。
この映画はロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイを主役に、彼が被害を被った毒殺未遂事件を中心として語られる。彼は協力者とともに自分を殺そうとした犯人とその手口を突き止めようとする、本当の命がけの戦いを追った作品だ。
アレクセイ・ナワリヌイはプーチン政権を痛烈に批判し、現在ロシアの反体制派から(体制派からも)注目を集める人物だ。彼の呼びかけによるデモには数千人が集まる動員力を持つ。当然ながらロシア政府は彼を危険視して何度も不当逮捕を繰り返すが、まったくめげない。
ロシアでプーチン政権を批判することは命の危険に晒されるということだ。日本で大臣の行政文書問題を追求するのとはわけが違う。政府によって暗殺されたとされるジャーナリスト、役人はかなりの数に上る。
ナワリヌイも2020年8月に飛行機内で体調が急変し、意識不明の状態に陥った。一命をとりとめたがその家族、支援者らは政府関係者による毒殺を疑い、ロシアの病院は信用できないとドイツの病院に助けを求める。
そうしてドイツの病院で検査を受けたナワリヌイの体からは、プーチン政権が毒殺に使用すると言われる薬物ノビチョクが発見される。ロシアの病院では毒物など一切検出されなかったのに、だ。
プーチンの関与を疑うナワリヌイに、政府関係者及びプロパガンダを垂れ流すジャーナリストらは「本当に殺す気なら毒なんか使わずにピストルでバン!だ」「やつは自分に殺される価値があると思い込んでいる誇大妄想家だ」と蔑むことで反体制派の信用を失わせようとする。
「逆に有名になれば、命を狙われないと思ったんだ。殺したら殉教者になるからね。その考えは甘かったと思い知らされたよ」
と、述懐するナワリヌイに強力な援護者が現れる。
イギリスの調査報道機関べリングキャットのジャーナリスト、クリスト・グローゼフ。彼はスポーツドリンクを作っている研究所のメンバーに、毒物をつくる科学者がズラリと並んでいることに注目、闇市場で所長の電話番号を入手、アプリで電話番号が登録されているところから車両番号の登録をさらにたどり、怪しげな人物をリストアップ。
彼らの飛行機による移動ルートとナワリヌイの移動ルートを照らし合わせる。行動パターンが一致する連中が犯人グループなのではないか? そうして現代版KGB、ロシア連邦保安庁(FSB)に科学者を加えた「ナワリヌイ殺害チーム」が結成されているということを突き止める。ただしすべては、状況証拠に過ぎない。これは真実?それとも妄想?
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