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ニューヨーク嶋佐和也のWBC炎上騒動、相方・屋敷に足りなかった「意識」とは?

ニューヨーク嶋佐和也のWBC炎上騒動、相方・屋敷に足りなかった「意識」とは?の画像1
ニューヨーク 吉本興業 公式サイトより

 連日盛り上がりを見せていた「第5回ワールド・ベースボール・クラシック」。アメリカの『ローンデポ・パーク』で行われた準決勝、日本対メキシコ戦では村上宗隆選手が劇的な逆転サヨナラ二塁打を放ち、そしてフロリダ州マイアミで行われた決勝戦では3対2で連覇を狙うアメリカを日本が見事破り、3大会ぶり3度目の優勝を果たすという最高の形で幕を閉じた。

 そんな日本中が盛り上がり、熱気に包まれたWBC関連で炎上してしまった芸人がいた。それはお笑いコンビ「ニューヨーク」の嶋佐和也さんだ。

 事の発端は3月14日に行われた海外ドラマのブルーレイ&DVD発売イベントにおいて、報道陣からWBCの話題を振られた嶋佐さんに対し、相方の屋敷裕政さんが「早く負けて欲しい」や「大谷翔平の顔もわからない」などと言っていたことを暴露されてしまったのだ。そんな屋敷さんに嶋佐さんは「大谷を知らない日本人はいないから」というツッコミを入れたのだが、時すでに遅し。SNSでは「胸糞悪い」や「選手へのリスペクトが無い」など不快感を表す声が続出してしまった。

 元々嶋佐さんの「野球嫌い」は周知の事実で、本人としても隠している様子はない。しかしわざわざ声に出して野球を否定するようなことはしていない。今回の炎上騒ぎもそうなのだが、嶋佐さんの「野球嫌い炎上」の犯人は相方の屋敷さんなのだ。

 以前も「アッコにおまかせ!」(TBS系)に出演した際、番組では、その当時間もなく開幕するメジャーリーグの特集を組んでおり、スタジオは野球を肯定する雰囲気に包まれ、活躍する大谷選手のニュースに盛り上がっていた。そんな中、話を振られた屋敷さんが「僕は普通なんですけど、嶋佐が大嫌いなんですよ」と今回の件と同じように、嶋佐さんの野球嫌いを暴露し、盛り上がりに水を差す形になってしまい、スタジオは静まり返ったという。

 嶋佐さんは全く悪くない。しかしこういう場合、場をしらけさせた張本人は屋敷さんなのだが、嶋佐さんのせいでしらけてしまったように錯覚してしまうのだ。そうなると怒りの矛先は嶋佐さんへ向けられ、予期せぬ事態に陥った嶋佐さんには場の雰囲気を回復させる手立てなどない。現に「大嫌いってどういうこと?」と尋ねられた嶋佐さんは「あんま興味なくて、正直」と何とも芸人らしからぬ回答、さらに「何に興味があるの?」との質問には「僕、格闘技の方が好きで……」ととてつもなく普通の答えをするはめになってしまったのだ。

 そりゃそうだ。突然意図しないところで悪役にさせられたのだ。どうすることも出来ない。さらに一瞬にして周りが敵視するのだから笑わせるなんて不可能に近い。安田大サーカスのクロちゃんのように「敵視」されるのが売りの芸人ならば何通りもの返す術を持っているので、対応可能だが、そんな売りをしていない嶋佐さんになすすべもない。

 本来、コンビというのは助け合うものである。今回のように相方を貶める行為をしては、相方だけでなくコンビとしてもマイナスになってしまう。ではなぜ屋敷さんは嶋佐さんを困らせる行為をしてしまうのか、元芸人目線で分析することにしよう。

 まず一つ言えるのは屋敷さんの「野球」というワードの引き出しには嶋佐さんの野球嫌いというエピソードしか入っていないのではないだろうか。もし屋敷さん自身が野球を好きならば、それなりに話せるエピソードを持っているので、わざわざ嶋佐さんの「野球嫌い」を持ち出すことはない。しかし上記の「アッコにおまかせ!」時の「僕は普通なんですけど……」という発言からもわかる通り、野球に関しては好きでも嫌いでもない「普通」という感情ならばお笑い芸人として話せることは無いのだろう。そうなると、どうしても「野球」イコール「相方の野球嫌い」という発想になってしまい、そのエピソード一本で戦おうとしてしまうのだろう。

 さらに以前「アッコにおまかせ!」でとんでもない空気になってしまったのに、今回のイベントで同じような展開にしたのは、もしかしたら「アッコにおまかせ!」のリベンジを試みたのかもしれない。上手に返答することが出来なかった嶋佐さんに対して、屋敷さんなりの厳しさというか相方の成長を見るという意味も込めて、あえて同じ話題を振り、どのように返すのかを見たかったのかもしれない。

 ちなみにこの相方を試すような行為は、コンビ芸人であれば誰しもが経験したことがあるだろう。なので屋敷さんが以前と同じような行動に出たのは理解できるのだが、だとしても屋敷さんのいけないところももちろんある。それは「嶋佐さんの野球嫌いエピソード」に対してのリスクヘッジを意識していなかった部分だ。

 嶋佐さんの野球嫌いはボケでもなんでもない。基本的に話を広げるには好きという気持ちが無いと難しく、嶋佐さんのように本当に野球が苦手ならば、嫌いとか苦手という方向に対しては話を広げられるが、野球好きが求めるような話の展開は絶対に出来ないのだ。そうなると野球好きに対してのリスクヘッジは屋敷さんの役目ということになるのだが、屋敷さんは嶋佐さんが悪者になっても特にフォローすることもなく、悪者のまま終わらせてしまう。

 屋敷さんがやらなければいけなかったことは、野球の話をする機会があったときに「相方の野球嫌い」の話を振る可能性が高いのなら、相方がどう返答しても必ず笑いを起こすツッコミやボケを用意しておくという事前準備だ。そうすれば笑いも起こるし、相方も悪者にならなくて済むし、なんだったら自分の腕を見せることまで出来る。一石二鳥以上のお得感なのだが、そこまでの考えに至らなかったのか、はたまた屋敷さんの根の部分が相方が困っている状態を楽しんでしまう性格なのか。本心はわからないがとても勿体ない気がしてならない。

 これは僕の個人的な意見なのだが、嶋佐さんは容姿、喋り方、声、立ち振る舞い、芸風などが可愛らしく見られづらい。つまり視聴者やお客さんが味方になりづらく好感度を得るのが難しいはず。しかし相方の屋敷さんのやり方でなんぼでもキャラクター操作が出来るのだ。

 実は今回の「早く負けて欲しい」や「大谷翔平の顔もわからない」という発言は屋敷さんがボケとして発した言葉で、実際に嶋佐さんが発言していたコメントではないのだ。

 この「早く負けて欲しい」や「大谷翔平の顔がわからない」という発言を、「野球わからな過ぎて途中からメキシコを応援していた」とか「大谷翔平選手だと思っていたのは○○選手だった」などと言い換えれば、嶋佐さんが野球に興味が無いが、とりあえず前向きに野球と向き合おうとしている雰囲気が伝わるし、すこし間抜けで可愛らしさも演出できる。どうせ創作でエピソードを話すのなら、相方を困らせるのではなく、相方を好きになってもらう方に脳みそを使った方が良い。炎上しやすいこのご時世にわざわざ自ら燃えに行く必要はない。

 芸人というのはどれだけ若手であっても「作・演出・主演」をする職業である。なのでニューヨークさんぐらいの芸歴があるのなら、自己プロデュースはもう少し慎重に行うべきだ。

 売れている芸人の条件に「ファン以外にも好かれる」という項目があるということをもう少し意識してほしい。炎上しすぎて燃え尽きる前に。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/03/23 09:00
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