ウエストランド河本の「新しさ」に光を当てる「新しい」文章
#テレビ日記 #飲用てれび
田村淳「お前の正直さ、怖いよ」
もちろん、そんなことはない。
井口は「そんなことも言うな」と河本をたしなめつつ、「好きだから! あいなぷぅのこと好きだから!」とアクセルを踏んで元の方向に引き戻そうとする。井口がそうやって必死になればなるほど、有吉はもう興味は失ったとばかりに次の話題に移ろうとする。淳は「井口はそれを一番言われたくなかったと思うよ」と、この場で井口にとってもっとも嫌な“タレコミ”をしたのがほかでもない相方であったことを指摘し、河本の発言を今回の企画の趣旨と絡めて全体の流れのなかに位置づけていく。
さらに、井口は「みんな好きとか嫌いとか明言せず、あいなぷぅも好きとか嫌いとか言わないようにしてくれて」と今回のトークの仕掛けをさらにつまびらかにしつつ、「まだ(この話題はあいなぷぅと)2人でやっていくから」「『有吉の壁』とかでもまだやるんだよ」と今後の展開があり得たことも自ら語っていく。そんな必死な井口を、「こっちも目が覚めた」とザキヤマがあえて突き放す。
河本の発言の影響はさらに尾を引く。井口のターンが終わり、ロングコートダディに関する話題に移ったときのこと。後輩芸人からの「M-1前に沖縄に女性に会いに行った」との情報に、兎が「ホントのこと言うと、M-1の3日後なんですよ。直前じゃないんですよ」と言うと、有吉は「じゃあもういいや」と次の話題にさっさと移ろうとし、笑いに変えるのだった。
河本の発言の前後で、トークのルールが変わったかのようだ。が、その潮目の変化を読みながら、井口や淳、有吉らは新しい流れを作っていく。河本の発言で一旦断ち切られたストーリーを、前後が通るように改めて組み立て直す。“お笑い”に仕立て直す。匠の見事なビフォーアフターである(出演者だけでなく番組の編集も含めて)。
「お前の正直さ、怖いよ」
淳は河本をそう評した。なるほど、テレビは新しさを求める。昨日はなかった情報を求める。それで言えば今回のやり取りは、いわゆる芸人の裏側語り、本音トークのようなものがバラエティで多く見られ当たり前になったところで、それを新たに再定義するかのようだ。河本はいわば、本音トークの本音をトークする。
いや、もちろん、こういう「本音トークの本音のトーク」のようなことをするのは、河本がはじめてではないだろう。それに、彼のトークを「本音トークの本音のトーク」として解釈できる“お笑い”に仕立て上げているのは、少なくとも画面上は河本自身ではない。今回でいえば、その仕事をしたのは井口であり、淳であり、有吉であり、ザキヤマだろう。
そもそも、河本は何を考えているのだろう。画面上ではよくわからない。正直であることはその結果に対するある種の責任を伴うものだけれど、河本はそんな素振りも一切見せない。「お笑いでやってる」発言のあとも、周囲のやり取りを笑いながら見ているだけである。そんな態度は、本音トークというか、はじめからバラエティ番組のトークという形式それ自体にほとんど乗っていない。
ウエストランド・河本というワイルドカード。それは果たしてどんな新しさをテレビのバラエティ番組にもたらすのだろうか。――と、ウエストランドを取り上げながら目立つ井口ではなく河本にスポットを当てるのは、この文章もまたメディアの末席に連なる記事として、できるだけ新しさを求めるからである。
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