『ベイビーわるきゅーれ2』“目の前の貴様を葬る”って気持ちだけで戦わせたかった
#映画 #ショウムライター
『ベビわる』撮影、最後は『スラムダンク』みたいな部活ノリに
阪元:脚本って自分が思っていることだけ書くとつまらないから、思ってもいないことも僕はよく書きます。「1」で二人が喧嘩してまひろが謝る大事なシーンも「なんで謝っているんだろ」みたいな距離感で撮っていました。伊澤さんに「泣かないでください」とだけ言って。
庄村:「1」だとまひろがちさとに謝りますが、「2」では立場が逆ですね。
阪元:基本的に『ベビわる』は「ちゃんと『ごめんなさい』が言える大人になりましょう」というのがテーマなので。その意味でも「2」はダークでシリアスなテーマより「挨拶しよう」とか、もっと手前の話のほうがいいのかなと。
――金、金、金な世の中をぼやきつつ、ゆるくてなんか楽しい日常を描く点が『ベビわる』の魅力かもしれませんね。監督も好きな初代『ダイ・ハード』の“ジョン・マクレーンVS金”的な要素も感じなくもないですが、反体制的な色合いは控えめというか。
阪元:今回は悪人ゼロのアクション映画を目指したのもひとつ挑戦で、敵もそういう怒りで動くキャラにならなかったですね。序盤にしょぼくれた男3人(敵役のゆうりとまこと兄弟と、2人に仕事を斡旋している赤木)の食堂シーンとかもあって。確かに体制VS反体制みたいな対比もあり得たんですけど、背負うものが大きすぎるとラストバトルがツラいかなと。殺し屋として“目の前の貴様を葬る”って気持ちだけで戦わせたかったし、最後は『スラムダンク』みたいな部活ノリを目指しました。
庄村:プロとアマの対比も感じられるラストバトルでした。あと、前作で強烈な印象を残した死体処理班の田坂もしっかりメインキャラになっていて、めちゃめちゃ良かったです。
阪元:前作の脚本では田坂が出てくるシーンってもともと半ページぐらいで、40分ほどでバタバタ撮ったんですが、水石亜飛夢くんが田坂役をやってくれるとなって、いろいろ思い浮かんだというか。彩りのない生活を送る20代後半男性の空虚な社畜感が、やっぱり非常におもろくて。“ちさまひ”とはまた違うひねくれ方をした、大人の男性の空虚な感じをもっと撮りたくなりました。結果、スピンオフ(『ベイビーわるきゅーれ』のBlu-ray豪華版の特典に収録された「田坂さんの一日」)まで撮っていて。いつか田坂さんにソロキャンとかさせたいです。
庄村:それはめちゃめちゃ観たい!「田坂さんの一日」に続き、映画には「2」で新登場の田坂の助手・宮内のポップさも意外でした。宮内役も役者さんありきで広がっていったんですか?
阪元:そうですね。今回の台本だけ読むと、たぶん宮内は全然おもしろくないキャラなんですけど、宮内さんを演じた中井友望さんも動物的な芝居をしてくれる役者さんで。絶妙な現代人感を自然に出せる方で、とても良かったですね。
庄村:なんか、絶対に定時で仕事切り上げて帰りそうですよね。
阪元:終業30分前ぐらいが一番生き生きと仕事しているタイプです。宮内もいろんなあるあるが浮かぶし、これからも描き続けたいキャラになりました。彼氏とかサクッといきなり出したいですね。突然、職場に彼氏が鍵とか取りに来たりして。
庄村:微妙に凹む田坂の姿が容易に想像できます。
「3」はまさかの観光ムービーに?
阪元:実は「2」にも、ちさとの彼氏とか唐突に出したらおもろいなと思ったんですけどね。いつの間にか彼氏ができているみたいな。ちさまひを “永遠の18歳”みたいなキャラにはしたくないんです。ちゃんと年齢を重ねてもらいたいというか。本作の賭け将棋のシーンも、もともとパチンコだったんです。パチンコ屋の撮影許可が取れず、結果的に将棋になって良いシーンになりましたが。
庄村:彼氏がいてもしっちゃかめっちゃかになっておもしろそうですが、確かに少し躊躇うところではありますね。
阪元:「恋愛要素ないのが良かった」という人もいるので難しいところです。アメリカの映画だと元旦那と一緒にごはんを食べるシーンとか普通にあるから、あんなノリでやれたらいいですけど。
――とりあえず2人がお酒飲んだらどうなるんだって気持ちは、絶対にファンはあるかなと。
阪元:お酒を飲めるようになったら、「1」のメイド喫茶みたいなシーンもまた雰囲気が変わると思います。
庄村:“長期連載”になりそうでシリーズのこの先が本当に楽しみです。
阪元:今のところ「3」が撮れるとしたら、「出張編」的な感じで雰囲気を少し変えようかなと思っています。日常×殺しはそのままで、観光ムービー的に観光しながら人殺して回るなんてどうかなと。完全にイカれた死神みたいな敵キャラとかも出したいし、「ソナチネ編」もいつかやりたいですね。
庄村:「恋愛要素ないのが良かった」というのは、映画の楽しみ方として勿体無いかもしれないですよね。恋愛はなかったけど、僕はいろんな愛を感じる映画でした。
阪元:ラストはやっぱり“殴り愛”ですから。
(プロフィール)
阪元裕吾(さかもと・ゆうご)
1996年1月18日生まれ、京都府出身。映画『べー。』で「残酷学生映画祭2016」グランプリ、『ハングマンズノット』で「カナザワ映画祭2017」の期待の新人監督賞を受賞する。髙石あかり、伊澤彩織のダブル主演作『ベイビーわるきゅーれ』が大きな評判を呼び、続編となる『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』は2023年3月24日に公開。
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