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『100よか』悠依と直木はお互いが「白いねこ」…“奇跡”の時間で伝えあった愛の言葉

『100よか』悠依と直木はお互いが「白いねこ」…“奇跡”の時間で伝えあった愛の言葉の画像
ドラマ公式サイトより

 井上真央主演のTBS系金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』が、3月17日に最終回を迎えた。サスペンス要素で視聴者を惹きつけてきた『100よか』だったが、最終話は「今が奇跡のとき」というサブタイトル通り、“奇跡”を描いたストーリーとなった。

 主人公の相馬悠依(井上真央)が、ある日突然、運命の相手だと思っていた恋人の鳥野直木(佐藤健)を失うも、直木は悠依への心残りから幽霊となって現世をさまよい、幽霊を見ることも会話することもできる刑事・魚住譲(松山ケンイチ)との出会いによって3人の不思議な関係が築かれてきた本作だが、第9話で事件の全貌が明らかになり、直木を殺した犯人は逮捕され、悠依を脅かすものが消えた。そして思い残しがなくなった直木は消えてしまった。

 喪失感を抱えながら日々を歩む覚悟を決めつつあった悠依の前にある朝、目の前に現れたのは、いなくなったはずの直木。それも幽霊ではなく、ちゃんと実体があった。「これは、何?」と問う悠依に、直木も「最後の時間?」と首をかしげる。「明日なくしてしまうかもしれない、何気ない幸せを 私たちは生きてた」という悠依のモノローグで、本当に最後の1日がはじまった。

 感傷的になっている時間がもったいないという悠依は仕事を休む。まずふたりがしたことは、魚住に会うことだった。突然連絡してきた悠依に、「どうしました? 何かありました?」「不安ですか? つらいですか? 僕、何しましょうか?」と心配でたまらない魚住。そこにサプライズで直木が現れる。「成仏できなかったの?」と反応する魚住だが、悠依が直木に抱きついたのを見て驚愕。そして直木の復活を心から喜び、ふたりの仲睦まじい様子に「いや~ずっと見てた~い」と目尻を下げて笑った。

 仕事のある魚住とは夜にまた会おうと約束し、ふたりはデートに出かける。ショッピングをして直木の選んだ服に着替え、いつもの道を手を繋いで歩く。そこで直木は、ずっと聞きたかった悠依の両親の話を聞くことができた。悠依が生まれたころに両親が離婚し、母親の再婚相手とのトラブルで里子となったものの、今も母親との関係は良好だという悠依。直木は安心する一方で、自分の家族が気がかりだった。「今さらもう会えないしな」と言う直木に、悠依は直木の家族を家に招きたいと提案する。

 かつて弟の拓海が骨髄移植が必要な病気になって、直木の母親は拓海のことにかかりきりとなり、鳥野家は崩壊寸前だったが、直木が自ら里子に出ると言い出したことで拓海と両親の関係はかろうじて保たれた。両親に対して複雑な感情を抱く直木。悠依は直木直伝のハンバーグを直木の両親にふるまい、直木はその様子をそっと陰から覗いていた。直木の母が「作ってくれたんです、直木。小学校5年生? 拓海のことで、私がもう、何もできなくなっていたとき」と振り返り始めたのをきっかけに、両親は直木の優しさと強さをたたえ、これまで言葉にできなかった後悔を口にする。「あの子が生まれたとき、本当に嬉しかった。絶対大事にするって思った。なんで忘れちゃったんだろう」「美味しいよ。ごめんなさい」とすすり泣く両親を、直木は静かに見送った。

 悠依は拓海(青木柚)の現在の所在を聞く。拓海は自分の病気がもとで母親がおかしくなり、移植手術や家庭環境の悪化で直木に辛い思いをさせた負い目があった。結局、直木が家を出てからしばらくして、拓海も両親と疎遠になってしまっており、両親は直木が死んだことを知らせるのをためらっていた。直木がまだ生きていると思っている拓海のもとを、今度は直木が訪ねる。「兄ちゃんにはずっと会いたかったんだよ。でもやっぱ合わせる顔もないしさ。よかったわ」と礼を言い、社会人になって仕事の愚痴を言っている拓海の成長ぶりに、直木はしみじみと浸る。直木が変わらず生きていると信じている拓海の態度は当然“普通”で明るかったが、別れ際、真剣な表情をして「ありがとう。俺を生かしてくれて。会ったら絶対言わなきゃって思ってた。ありがとう。ごめん、ずっと」と伝える。直木は「いい。頑張れよ」と最後のエールを送る。何も知らない拓海は「じゃあ、また」と言って、仕事に戻っていった。

 直木と悠依はしばし別れ、それぞれお世話になった人たちとの再会をし、夜は魚住も合流して3人で過ごす。直木は和気あいあいとはしゃぐ悠依と魚住の2人を見て「魚住さんだったら」と言い出すが、悠依は「そういうのあんまり好きじゃない、勝手に託されるとか」と一蹴。その後も楽しい時間を過ごし、魚住は帰ろうとするが、悠依は直木と魚住のふたりきりの時間を用意する。屋上で魚住と向き合った直木は、「さっきのあれ、嘘だから。『悠依を頼む』みたいな」と言って、本当は誰にも悠依を渡したくないと本音を打ち明けつつ、「あとは悠依の人生だし。悠依が決めればいい」と言う。そして悠依が好きな魚住にも「あなたの人生だ。好きにしろよ」と語る。そして直木は「あの時、魚住さんに会えてよかった。あなたに救われた」と感謝を伝える。直木にとっては、魚住と過ごした時間もかけがえのないものだった。

 悠依は、直木との最後の時を、思い出の砂浜で過ごすことを選ぶ。直木は悠依と大人になって再会でき、特別な関係になれたことを振り返り、「あ~、俺は悠依とこうなるために生きてたんだなぁって。この先の未来、悠依がずっと笑っててくれたなら、俺の人生、全部、意味あった」と噛み締める。そして直木は「ひとりにさせてごめん」と謝り、朝焼けに包まれながら「悠依……。悠依。ありがとう。さよなら。愛してる。愛してる……」と思いを繰り返し伝える。「悠依の笑った顔が好き。だから笑っててよ」と言われた悠依は、なんとか笑顔を保ちながら、直木が「愛してる」と何度も言うのを聞く。しかしその声がついに途切れてしまった。今度こそ本当に消えた。思わず泣きそうになる悠依だが、空から聞こえた下手な口笛に、笑顔を取り戻す。2人で来た道を、悠依は1人で帰っていった。

悠依と直木は、お互いが運命の「白いねこ」だった

 息を飲んだ第9話から一転、サスペンス要素はなく切ないながらも幸せに満ちた最終話となった。思い返せば『100よか』は「“切なくて温かい”ファンタジーラブストーリー」と銘打たれたドラマであり、事件の謎解きが本筋でないことは明らかだ。しかし劇中で早々に直木の死が確定したとき、これほど前向きなエンディングを誰が想像しただろう。

 砂浜へ向かうシーンでは、悲しい結末になる予感もあった。この作品のモチーフのひとつとなっている絵本『100万回生きたねこ』を読んだ魚住は、直木との最後のひと時へと向かう悠依を心配し、思わず「白いねこは、どっちですか?」と訊く。迷いなく「私にとっては直木です」と答える悠依。『100万回生きたねこ』では、縞模様のとらねこは何度も生き返るが、美しく白いねこと出会うことで愛を知り、白いねこが死んでしまうと、生まれて初めて泣いたとらねこはそのまま亡くなってしまい、二度とよみがえらない。直木が「白いねこ」であることは、悠依がもう帰ってはこない可能性を示唆する。呆然とした魚住は、「“鳥野直木がいない世界なんて意味わかんない”……って神様に怒鳴りながらでもいいです。帰ってきてください。そう思ってるのはあなただけじゃない」と伝えた。

 だが思えば、悠依は第2話で『100万回生きたねこ』の結末について、「私は嬉しくないな、こんなの。わたしが白いねこだったら、100万回泣いてくれるのは嬉しいけど、でも死んでほしくない。100万回泣いたら、そのあとは元気にピンピン生きてってほしい」と言い切っていた。そしてそんな悠依を直木は好きだったのだ。悠依が魚住に「帰ってきますよ。魚住さん何言ってるんですか」と、さも当然のように答えたのも、悠依らしさだった。

 直木にとっても悠依が「白いねこ」であることは、第1話から伝えられていたが、最後の買い物デートのシーンも象徴的だった。悠依は直木に2種類の服を見せ、「どっちがいい?」と訊く。ひとつは縞模様、もうひとつは白。「世界一不毛な質問」と愚痴りながら直木が選んだのは、白。悠依は意外そうに驚きながら、この白の服を着て最後の時間を過ごす。お互いにとって、相手が運命の「白いねこ」だったのだ。そして残された悠依は、「元気にピンピン」生きていくことを選んだ。悠依のその後が描かれないまま終わったのは、そういう意味で意図的だったのかもしれない。

 第9話での別れでは、うまく伝えたいことも言えなかった直木だったが、今度こそ悠依への想いをちゃんと口にできた。直木の両親や、直木の弟も、ずっと伝えられていなかった思いを言葉にできた。お互い知り合い、再会したことの縁を全員が大切に感じ、感謝を伝えるような第10話は、『100万回 言えばよかった』というタイトルのように、大切な人に対してちゃんと言葉にして伝えることの意味を訴えるような最終回だった。

■番組情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった
TBS系毎週金曜22時~
出演:井上真央、佐藤 健、シム・ウンギョン、板倉俊之、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜 一花、平岩 紙、春風亭昇太、荒川良々、松山ケンイチ ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:河野伸
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」
警察監修:志保澤利一郎
里親監修:岩朝しのぶ
医療監修:冨田泰彦、藤田浩
プロデュース:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:tbs.co.jp/100ie_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/03/19 22:00
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