「米国の足元に中国が巨大な大使館を建設」軍司令官の証言めぐり波乱
#中国 #米国
米軍司令官の議会証言を米国の在外公館が訂正するという異常事態が起きた。米国の「足元」に位置するカリブ海での中国の動向についての証言だっただけに、米中関係の波乱材料となった。
3月8日、米下院軍事委員会は北米、中南米、カリブ海地域での安全保障上の課題についての公聴会を開いた。北方軍(担当地域:メキシコまでの北米とバハマ、プエルトリコなどの島嶼部)のグレン・バンへルク司令官と、南方軍(担当地域:中南米と西インド諸島)のラウラ・リチャードソン司令官らが出席した。
ラテンアメリカ・カリブ海地域での中国の影響力は急速に拡大している。この地での中国の貿易額は2002年が約180億ドル(約2兆3940億円)だったが、2022年には約4500億ドル(約59兆8500億円)となった。20年で25倍に膨れ上がったことになる。2035年には米国の現在の貿易額とほぼ同じ規模の約7000億ドル(約93兆1000億円)に拡大すると見込まれている。米国の優位性は日々、浸食され続けている。
公聴会で2人の司令官は、こうした中国の「攻撃的なまでの」拡大路線に危機感を表明した。普段は優しい笑顔が魅力的な女性軍人のリチャードソン司令官は「中国は国際規範を脇に置いて独裁政治のブランドを前面に打ち出し、民主主義を食い物にしながら、その権力と影響力を蓄積する能力と意図を持っている」と厳しい言葉を並べた。
リチャードソン司令官はさらに、中国のこの地域での活動は米国を追いやるための「容赦ない行軍」だと表現し、アルゼンチンに建設された中国の宇宙探査施設を引き合いに出して「こうしたリスクは受け入れられないし、無視することもできない」と強調した。
また、バンヘルク司令官は中国企業のメキシコへの進出が加速していることを問題視し、特に、電気通信事業の80%を中国企業が担っていることに警戒感を示した。
さらに、バハマで中国が世界最大級の大使館を建設していると示唆し、中国の脅威を強調した。バハマはフロリダから約80キロの位置にある小国だ。キューバよりも米国に近く、米国人観光客がこぞって訪れる一大マリンリゾートとして知られる。ここに中国が世界最大級の大使館を設置するとなると、その近さからして、目的は「米国の監視」ということになる。
これが事実なら米国にとっては一大事だ。CNNの人気番組「Out Front」は、この日の最後のニュース項目で司令官の証言を伝えた。AP通信は、政権3期目に入った習近平国家主席が中国軍をより迅速に世界レベルにレベルアップさせることを表明したと伝える記事の中で、「巨大大使館」について触れている。
公聴会では最大級の大使館の規模など具体的な発言はなかった。報道の内容も司令官の議会証言を紹介する範囲のもので、独自の検証などはなかった。議会の公聴会という「公の場」での責任ある立場の人間の証言なので、そのまま報じた形だ。
米軍司令官の証言に対し、在バハマ中国大使館は「真実から遠く離れたもの。(バハマにある中国の大使館は)カリブ海で最大の中国大使館ですらない」などとする声明を発表し、強く否定した。
バハマのいくつかの国内メディアは、バハマを舞台にした「米中の対立」を伝えた。米国人の保養地であるバハマでも中国の影響力は強くなっている。議会証言は市民の話題のひとつになり、市民も真相が気になるようになった。
そして議会証言の3日後の3月11日、在バハマ米国大使館は自身のツイッターで次のような声明を出した。「当大使館は記録を正したいと考えている。最近の米議会での証言に反して、中国はバハマで世界最大の大使館を建設していない」
議会での米軍司令官の証言を、米国大使館が訂正したのである。ラテンアメリカでの中国やロシアの進出ぶりは著しく、自国に都合のよい情報を流布して影響力を拡大する傾向にある。乱れ飛ぶ政治的フェイクニュースはラテンアメリカ社会の悩みの種になっている。
米国としては「言論の自由」と「正確な情報」が中国、ロシアに対抗する強大な武器となるはずだが、今回の顛末は米国の「信頼性」に汚点を残す結果となった。司令官が「トップシークレット」を口走ってしまっていたなら話は変わるが、現状は米国にとって分が悪い。
その米国は、首都ナッソーのダウンタウンに新しい大使館を建設中だ。コロナ禍で建設が遅れ、今年10月にオープンする予定だ。
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