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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > R-1ファイナリストを元芸人が全レビュー

R-1ファイナリストがいまいちブレイクできない理由とは?元芸人が全ネタレビュー

5人目は「カベポスター永見」さん

 5人目は「カベポスター永見」さん。昨年のM-1グランプリで決勝進出を果たし、漫才コンビとして着実に知名度を上げているカベポスターのボケ担当である永見さん。コンビで活動している傍ら、芸歴1年目からR-1グランプリに挑戦し続け、ようやく決勝へ進出したその努力とR-1グランプリにかける情熱はピン芸人に引けを取らない。漫才師が見せるピンネタはどのようなスタイルなのだろうか。

 漫才のように立ちではなく、椅子に座り足を組んで、若干微笑みながら「世界で一人は言ってるかもしれない一言」というネタのタイトルを発表するところから始まる。クラシック音楽をバックに流し、その雰囲気を活かしつつ、最初に発表したタイトル通り、ありそうであり得ないフレーズを発表し、想像力を掻き立て笑いを起こしていくという、カベポスターの漫才でも見せるフレーズの面白さで勝負するネタだ。

 正直なところ、この手法はピン芸をする人なら誰しもが挑戦したことがあるかもしれないほどメジャーな手法で、僕がお笑いを始めた1990年代には「ふかわりょう」さんを初めとするピン芸人の方達がかなり使っていた見せ方だ。なので言い方は悪いが使い古された手法を使用しているせいか、せっかくフレーズは面白いのだが、とてもありきたりなチープなネタに見えてしまった。

 間違いなくこだわりの強い方だと思うので、もしかしたらパッケージをありきたりなネタにすることによりフレーズに集中させようという計算があったかもしれないが、若干パッケージでも笑いを起こそうとしているように見えてしまったので、ありきたりなネタの方に針が振れてしまった感がある。さらにこれもある意味オムニバス形式なので、笑いの盛り上がりに若干かけていた。

 6人目は敗者復活戦を勝ち上がった「こたけ正義感」さん。こたけさんは現役弁護士としても活動する異色の芸人。視聴者投票により敗者復活戦を勝ち上がってきた実力は芸人活動を片手間にやっていないことが見て取れる。こたけさん曰く、普段法廷にひとりで立っているので、ピン芸とほぼ同じであり、そして裁判と同様負けは許されないと。明らかに芸人とは違う頭の良さをもっているこたけさんのネタは確実に芸人たちの勉強になるだろう。

 こたけさんのネタは実際にあるおかしな法律をフリップで紹介していくというとてもわかりやすく笑いやすい、弁護士ならではのネタだった。しかもただ発表するのではなく、言い回しや展開、伏線回収など細かく計算されており、お笑いを本業としている芸人が書くネタとなんら遜色のない素晴らしいものだった。

 さらに弁護士という「先生」と呼ばれる職業を逆手にとり、偉そうにではなく、泣きながら情けなく発表することにより、好感度や親近感を感じさせるテクニックも使用しており、その計算高さはさすが頭脳派といったところだろう。ネタの内容、演技力、テンション感、ボケの順番など文句のつけようがないほど出来たネタだったのだが、残念だったのはその出番順だ。

 ひとつ前の「カベポスター永見」さんと同じようにクラシック音楽をBGMとして流しながら法律を発表していくネタなので、どうしても似通ったネタに見えてしまう。出番がトップバッターとラストだったらまったく気にならなかったかもしれない。連続していたというのが不運としか言いようがない。似通ったネタなら先にやった方が新鮮に見えるし、後の方が似ているという先入観を持たれてしまうのだ。順番が違えばファイナルステージへ進出してもおかしくないネタだったがこればかりは仕方ない。運も実力のうちである。

 7人目は今大会の覇者「田津原理音」さん。R-1グランプリ初決勝進出。同期のピン芸人にR-1グランプリ2018王者「濱田祐太郎」さんとR-1グランプリ2021王者の「ゆりやんレトリィバァ」さんがおり、自分だけがチャンピオンになっていないというプレッシャーと、これまで三度R-1グランプリ準決勝で敗退するという苦渋を味わってきた田津原さん。芸歴10年目ということでラストチャンスにかけた男のネタを拝見するとしよう。

 ネタはオリジナルカードゲームを開封をプロジェクターに映しながら実況するというもので、YouTuber等がやっている開封動画を元にした、今の時代ならではのネタと言ったところだ。紹介VTRで言っていたのだが、田津原さんは今まではフリップ芸をしてきた。

 しかし今大会ではそれを一新し、フリップ芸で会得した良い所を全て詰め込んで違う形での見せ方にこだわったのだという。それがこの形で、新たなるフリップ芸の形なのだろう。僕も比較的開封動画を見ることが多いので、とても面白く笑いながらネタを見れたのだが、この開封動画というもの自体を知らない世代にはどう映ったのだろうか。お笑いファンが一番多いのはいつの時代も若年層なのだが、このネタは確かに若年層にとっては身近であり、刺さるネタであるのは間違いない。しかし全年齢層に当てはまるネタではないのも確かだ。田津原さんはファーストステージとファイナルステージのどちらもこのオリジナルカードゲームを開封するネタを披露した。

 このネタで優勝するということは、R-1グランプリという大会自体が若年層をターゲットにした大会というのは明白であり、常に新しい世代を意識しているのだろう。しかし今回のように「R-1グランプリには夢がある」というコンセプトを掲げるのなら、全年齢層をターゲットにし、遠い未来まで活躍できるという雰囲気を醸し出した方が良かったのではないだろうか。一芸人に大会の未来を背負わせるのは酷だが、R-1グランプリの価値を託す王者を選別するのだから、選ぶ側にはそれくらいの意識が必要なはずだ。

 勘違いして欲しくないのは、決して田津原さんを否定しているわけではなく、ひょんなことから注目された大事な大会だっただけに、例年同様の大会カラーではいけなかったのではないかという、大会へ対する個人的な意見を述べたまでだ。何卒ご了承いただきたい。

 さて最後は「コットンきょん」さん。昨年キングオブコントで決勝進出し準優勝したお笑いコンビ「コットン」のボケである「きょん」さん。きょんさんも「カベポスター永見」さん同様、デビュー当時からピンネタ作りに取り組みR-1グランプリに挑戦し続けた。個人的な力をつける為にYoutubeチャンネルを立ち上げたりピンでコントをやる機会を増やし、そして念願のR-1グランプリ決勝進出。勢いに乗るきょんさんのネタはどのようなものなのか。

 ファーストステージのネタは「警視庁カツ丼課」というネタで、容疑者の自白を引き出すために、その容疑者に合ったカツ丼作りをする架空の課を題材にしたもの。なんとこのネタが後に物議を醸してしまうのだ。

 何とこのネタは元々「コットン」さんがコンビでやっているネタで、一人でしているという違い以外、セリフや展開、音響など何から何までコンビネタと同じらしく、果たしてこれはピンネタと言えるのかという声がネット上で上がってしまった。それに関しては別コラムで細かく意見させていただいているのでお時間がある方はそちらも見ていただけると嬉しい限りだ。ネタの問題は置いといて、見事にファーストステージを勝ち上がり、田津原さんと一騎打ちになるファイナルステージへ進出。

 きょんさんがファイナルステージで披露したネタは、親友へ対して旅立つ彼女を追えという説得をなんと「リモート」でするという今どきらしいネタ。目の付け所が素晴らしく、今までやり尽くされている設定を現代風にアレンジするとはさすがといったところだ。

 しかしこのネタも物議を醸してしまった。こちらはネタのほとんどがSE音声との会話劇であり、まるでトリオコントのように見えてしまい、ピン芸という扱いで良いのかというもの。一見すると確かにそのように感じてしまうネタなのだが、僕が見る限り笑いを起こしているのはきょんさん自身であり、ボケもツッコミも器用にこなし、芸人としての力を見せたので何の問題もないように思えた。単純に芝居に寄ったコントになってしまった為、後半になるにつれて笑いの数が減ってしまったので、ひたすらボケていた田津原さんと比べると盛り上がりが少なかったように感じた。それがファイナルステージでの敗因だったのではないだろうか。ただきょんさんのコント演技力は今の若手芸人界でトップクラスと言っても過言ではない。それが証明できただけでも価値があったというものだ。

 「R-1グランプリ2023」は始まる前から、「ウエストランド」さんのお陰で注目度があがり、そして終わった後も、きょんさんのネタ問題、ヤラセ疑惑など様々な点で注目された。ヤラセ疑惑に関しては別のコラムでまた詳しく見解を述べたいと思う。とにかく、どんな理由にせよ、これだけ様々な媒体で話題に上がった「R-1グランプリ」は久々だったのではないだろうか。この注目度を継続させる為にも、王者の田津原さんを始めとするファイナリスト達には来年の「R-1グランプリ2024」まで今の勢いを持続させてほしいと願っている。

 ピンチはチャンスという言葉があるが、今年度の「R-1グランプリ」はピンチの連続であり、いまもまだ軽くピンチの残り香が漂っている。つまり今がまさにチャンスなのだ。追い詰められた苦しい状況にある「R-1グランプリ」。こんな状況だからこそ、新たなスタートを切る絶好の機会だ。過去の慣習や流行りに流されず「新生R-1グランプリ」の誕生を期待したい。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/03/18 07:00
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