R-1ヤラセ疑惑はテレビへの信頼のなさの表れ?目を向けたいファイナリストの凄さ
#R-1 #関西バラエティ番組事件簿 #田辺ユウキ
熱心なお笑いファンは騒ぎ立てなかった「ヤラセ疑惑」
ようやく終息した気配がある、ピン芸ナンバーワンを決める『R-1グランプリ2023』のヤラセ疑惑。
1番手のYes!アキトのネタが終わり、得点が表示されるその寸前に、まだ出番が回ってきていない田津原理音の名前と得点が一瞬だけ表示された。しかもその点数がのちに田津原が記録してトップ通過する470点だったことから疑惑が持ち上がった。
番組を制作したカンテレ(関西テレビ)は、リハーサル時に使用した田津原の名前と点数の仮データがそのままオンエア中に誤表示されたと説明。ただヤラセ疑惑につながるミスほか、出演者の寺田寛明の紹介時に流れた写真とエントリーナンバーが昨年のデータだったことなどさまざまな粗が発見され、番組制作のあり方について見直しが求められた。
ただ、あくまでこれは感覚ではあるが、賞レースだけではなく、劇場であったり、テレビやラジオなどいろんなメディアでお笑いをチェックしていたり、予選から大会を追っているタイプのお笑いファンは、このヤラセ疑惑はそこまで騒ぎ立てていなかったのではないだろうか。
タレントの有吉弘行が3月5日放送のラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHTDREAMER』(JFN)でも指摘していたように、この審査員の顔ぶれ、そしてMCの霜降り明星がヤラセを飲むわけがないと考えるのが、お笑いファンの「普通」だ。審査員の野田クリスタル(マヂカルラブリー)も3月9日放送『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)で「そんな金すらないのに、ヤラセ、頼めないじゃん」と口にしていた。
たとえば大阪の放送局であるカンテレが、田津原が所属する大阪よしもと漫才劇場や大阪吉本に忖度したというのであれば、なぜその対象が田津原だったのか、なんなら『M-1グランプリ2023』ファイナリストでマンゲキの次期スター候補であるカベポスターの永見大吾を推した方がバレづらいではないか(笑)……など、むしろ「ヤラセ疑惑」に疑惑を向けたくなる。
ラランド・サーヤもテレビのクイズ企画で答えを指示された
あり得ないと思える、お笑いの賞レースのヤラセ疑惑。それでもここまで話題になったのは、「『R-1』が……」と言うより、テレビへの信用そのものがなくなったことのあらわれではないか。
映像作家の大島新は自著『ドキュメンタリーの舞台裏』(文藝春秋社)でテレビ局勤務時代、視聴率に誇張した表現などがあったことなどを記述。視聴者の抗議や苦情が殺到したことを振り返っている。ラランドのサーヤは、東野幸治のYouTubeチャンネル「東野vs」2022年11月12日配信回へ出演した際、テレビ番組のクイズ企画でスタッフから答えを指示されたことを明かしていた。2022年に番組が復活した『クレイジージャーニー』(TBS系)も、一度打ち切りになったきっかけが2019年のヤラセ問題だった。
長年にわたって問題視されていながら、ことバラエティ番組に絞ってみても演出とヤラセの境界線が曖昧なことから、ヤラセがなくなることはない(今後もきっとなくならないだろう)。
ただそういった問題の蓄積が視聴者の信頼にヒビをいれていった。それが今回の『R-1』のヤラセ疑惑の要因のひとつにもなっているように思える。前述したように筆者は「お笑いの賞レースでヤラセなんてあるわけない」と考えているし、また2023年『R-1』ファイナリストは集合してヤラセ疑惑を否定する動画を発表するなどした。ただ現実には、「あるわけないこと」が実際には幾度となく「あった」のだ。
田津原理音の出現でシンプルなフリップ芸は勝ち抜けなくなった!
2023年大会にそういった「いわく」がついてしまったのはやはり残念だ。なぜなら今回の『R-1』戦士たちのネタはどれも素晴らしすぎるものばかりだったからだ。
優勝した田津原理音は、2022年大会の準優勝・ZAZYに続いてフリップ芸をアップデート。彼らの出現により、紙芝居形式のシンプルなフリップ芸では『R-1』を勝ち抜くのはきわめて難しくなったのではないか(そしてそれはフリップ芸の歴史の転換期として語られるべきものではないか)。なにより田津原は、決勝進出者の発表会見で「今回の『R-1』のために劇場でもカードゲームネタをずっとやり続けてきた」と語っていたように、人生をかけて執念で勝利をもぎとった。観客の空気がリアルに伝わってくる劇場でそのようなやり方ができるのは、相当なメンタルを持っていないとできないはずだ。
筆者個人は、カベポスターの永見の「世界で一人は言っているかもしれない一言」にどハマりした。椅子に座って数々の「一言」を語っていったが、なんの装飾もなく、自分の「口」と「言葉」を武器にひたすら喋り抜いたところは、これぞ身一つのピン芸だと思えた。一方、審査員のバカリズムが「(一言に)強弱があったように思えた。強弱があるのはこういう賞レースでは難しさもある」と意外にも低い点数をつけた部分も、「なるほど、そういう捉え方もあるのか」と膝を打った。
筆者は準決勝ではおもしろくは感じたもののそこまでハマらず、しかし決勝という独特の緊張感が漂う舞台で「見え方」が変わったのは、サツマカワRPGである。たった一人でお笑いの群像劇をやっていく展開は、ピン芸人として凄みすら感じた。野田クリスタルが評した「格好良い」という言葉にふさわしいものだった。決勝ならではの「ゾーン」があることを感じた。
番組を観ていてこちらまで嬉しくなったのが、審査時の寺田寛明の様子。前年は憧れのバカリズムから「人間力」の見えなさを指摘されて落胆。しかし今回は92点の高得点を獲得するなど高く評価された。点数が表示された瞬間、喜びのあまり手をあげかけたところは、今大会で印象深い場面の一つだった。ネタの発想も、寺田のオンリーワンなもの。バカリズムとの2年越しのドラマがそこにあった。
番組制作におけるミスがヤラセという疑惑を生んだ今大会。ただ、芸人のネタはいずれもおもしろいものだった。だからこそカンテレにはそのフォローをこれからどんどんやってもらい、『R-1』の盛り上がりへとかえてほしい。
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