『水曜日のダウンタウン』炎上企画「砂かけババア」への批判が的外れな理由
#水曜日のダウンタウン #檜山豊
ここ最近のバラエティ番組はコンプライアンスを意識した番組作りをしており、とてもお行儀よく、視聴者の方々にいかに気持ちよく番組を見てもらうかに重点を置いている。それが今の時代にマッチしたバラエティ番組の正しい制作方法なのだが、そんな現代においてたびたび炎上騒ぎを起こし、視聴者からクレームの嵐を浴びている昔ながらのバラエティ番組が存在する。それはTBS系で放送されている「水曜日のダウンタウン」だ。
過去に幾度もネットニュースになるような炎上騒ぎを繰り返している番組なのだが、裏を返せばコンプライアンスが厳しい現代のテレビ業界において、コンプライアンスを遵守しながら常に面白い事を優先し、放送ぎりぎりの攻めた企画を繰り出している素晴らしい番組ということだ。
そんな「水曜日のダウンタウン」だが、8日放送の番組内で行われたドッキリがまたもや炎上してしまっている。問題となっているのは「砂かけババア、部屋に出たら最悪説」という説で、妖怪砂かけババア風の格好をした女性が、ターゲットとなる芸人が留守の間に忍び込み、帰宅した芸人に対して持っている壺に入った砂を無言でかけるというものだった。
今回ターゲットとなったのは「マテンロウ・アントニー」さん、「お見送り芸人しんいち」さん、「レインボー・ジャンボたかお」さん、「きしたかの・高野正成」さんの4名。
メインのドッキリは『室内で砂をかける』というものなのだが、どの芸人も部屋に知らない女性がいる段階でパニックに。そして落ち着く間も与えず、女性が芸人に向けて砂を巻き散らしていき、部屋が汚れていくにつれて芸人が怒りを露わにしていくというのが一連の流れとなった。
スタッフが登場して今回の説を説明し、ネタばらしをすると、ドッキリを仕掛けられた芸人は一様に「最悪だよ!」と言ったことから説は立証され、芸人冥利に尽きるとても良い企画だったのだが、世間の声は違った。
ネット上では「やり過ぎ」「芸人がかわいそう」「笑えない」「ドン引き」など否定的な意見が多く、中には「神回」「面白過ぎ」と言う声もあったのだが、やはりこのご時世ではかなり刺激の強い企画になってしまったのは言うまでもない。
「やり過ぎ」や「笑えない」という声は個人的な感想なので仕方のないことだが、「芸人がかわいそう」だの「いじめやん」という意見は間違っている。
元芸人目線で言わせてもらうと、芸人になろうとした段階でこの程度のことは予測できているはず。みなさんも仕事に就く際にある程度、将来どうなるとか、仕事をしていくうえでこういう出来事は避けて通れないなどの予測をしたうえで、その職業に就くかどうか考えると思う。それと同じで芸人になるということは、「水曜日のダウンタウン」で行っているような企画を避けては通れないし、こういうドッキリなどをしてもらえるということはメジャーになってきた証拠である。
さらに、このようなドッキリで芸人が考えるのは「リアクションをどうするか」ということだけだ。汚れた部屋の事など考えていては芸人失格だ。汚されている最中に他の芸人がやらないようなオリジナルのリアクションを模索し、それを体現してこそ芸人と言えるだろう。さらに「俺だったらブチ切れる」みたいな書き込みもあったが、確かに一般人に同じことをしたら怒られるようなことだが、それは仕事ではないから怒ってしまうのであって、芸人にとってこれは仕事の範疇なのだ。仕事をやって怒る人などいない。もし「俺だったらブチ切れる」と書いているのが芸人ならば、その発言が怒られるはずだ。
そもそも芸人は事務所にNG事項を出していて、やれることとやれないことの境界線をきちんと引いている。つまり、この砂かけババアドッキリが成立しているのは、今回参加した芸人がこの程度のドッキリはOK事項として出しているか、どんなドッキリでもOKとしているからだ。ドッキリを仕掛けられる芸人の顔ぶれが似ているのは、その芸人がドッキリに対しての耐性が強く、リアクションが取れて、そしてNGが少ないからだ。芸人だからといって本当に嫌なことはしなくて良いし、無理してやっているパターンはほぼない。
ちなみに例外として、以前同じ「水曜日のダウンタウン」で行った『お化け屋敷のルート中にお化けメイクされて捕らえられてたら、めっちゃ助けてもらいづらい説』で閉所恐怖症が出てしまったおいでやす小田さんのように、本人すらわかっていないNG事項があった場合は別だ。
視聴者の中には、参加した芸人がTwitterで今回の企画を嘆くようなツイートをしているのを間に受けてしまい「かわいそう」という発想になった方もいるかもしれないが、本当に嘆いているのならオンエアを待たずして被害者アピールをするはずだ。
しかし、オンエア後に嘆いているのならば、その嘆きもエンターテイメントであることは間違いない。SNSをフル活用できる時代ならではのリアクション芸とでもいうのだろうか。番組を見て気になった視聴者がSNSでその芸人を検索する。検索した先でその芸人が企画に対してリアクションしていれば自分としても宣伝になるし、あわよくばファンになる可能性もあるので一石二鳥なのだ。今は番組の放送と番組終了後のSNSを合わせて企画が完結すると言っても過言ではない。
さらに「テレビ局が部屋を綺麗にしてくれるよな?布団買い替えてくれるよな?」という声もあがっていたが、当たり前だ。これだけのことをして放置して帰るなどあり得ない。しかし「この後綺麗にして帰りました」や「壊れた機材は弁償しました」などのテロップが出ないのは、それを言うことによって芸人のリアクションが嘘になってしまうからだ。弁償されるとわかっていたら嫌がることが不自然になるし、掃除して帰ってもらえてると言われると、嘆いている姿が偽りの姿になってしまい、笑える悲壮感が出なくなってしまう。
掃除をしてくれるとしても弁償してくれるとしても、さもそれをしてくれないというリアクションをとってなんぼなのだ。世間の声が大きすぎたが故に「マテンロウ」のアントニーさんはTwitterで「砂かけババアに砂撒き散らされた部屋は、クリーニングしてくれて前より綺麗になったぞ!」と報告した。こんなことを言わなければいけない方がよっぽど「かわいそう」である。
余談だが、昔のテレビ局はそのまま放置して帰るやNG事項を平気で破るということが本当にあった。かく言う僕も芸人時代に家にあるものをネットオークションで売って生活できるかという懸賞企画に参加した際に、事前にこれだけは売りたくないと言っていたNG商品も平気で売られたし、スタッフさんが誤って壊してしまった鏡もそのまま放置で企画終了となった。しかし芸人だし、その企画がテレビで放送されることの方が大事なので仕方ないと思った記憶がある。
今回の騒動を通してネット上で最も多かった書き込みは「自分だったら」とか「自分がされたら」というものだが、なぜそう考えてしまうのだろう。芸人の仕事はあくまでファンタジーなのである。ドラえもんやハリーポッターの世界観が自分に巻き起こることはないとわかるように、芸人に起きている「砂かけババアが家にいる」や「突然無人島に連れていかれる」などの事象も自分に起きることはないのだ。芸人にとってはリアルに起こっていることだが、我々一般人にとってはアンリアルなのだということをご理解いただきたい。
お笑い芸人が参加した企画に対して「かわいそう」や「ひどい」や「笑えない」という発言をする前に、芸人が一生懸命リアクションをしたり、フィクションの世界でもがき苦しんでいる姿を楽しんでほしい。それが芸人の本望なのだから。
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