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『エブエブ』どんだけ文字に起こしてもこの怪作珍品は観なきゃ全くわからん

『エブエブ』どんだけ文字に起こしてもこの怪作珍品は観なきゃ全くわからんの画像1
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』公式サイトより

※本稿は作品のネタバレを含みます。

 言語化不可。よって活字化も不可。なので 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はネタバレつうか内容つうかそれぞれのシーンについて言及しつつ原稿を進めていこうかと思う。だってどんだけ文字に起こした所で、してもこの怪作珍品は観なきゃ全くわからんと思う、つうか多少のネタバレつうか、予備知識つうか、事前説明がないとこの映画は、

危険だ。

 そしてこっから下の文章もネタバレを嫌う諸兄諸姉にとっては危険つうかオフィシャルHPのあらすじでさえ巨悪の正体が~であるとバラされているのでネタバレを回避したいのであればオフィも観ちゃダメだぞ。因みにおっさんはオフィシャルHPはおろか予告編すら観ずに行きまして、何となく事前情報を遮断して観たいタイプの映画の様な気がしていたのでそうしたのだが、結果自分にとってはそれが大正解だったのである。

 そして何よりも本作を観るに当たって更に大正解だった事は、おっさんがジョジョ好きだった事である。つうかジョジョ好き、厳密には第7部「スティール・ボール・ラン」を読んだ事がある諸兄諸姉は観に行ったほうがいい。

 由縁は”この映画におけるマルチバースがまんま大統領のD4C(要検索)”であり、”D4Cを体験する事が出来る映画”であったからだ。

 ソファーのクッションとクッションの境目から落ちて別世界へ移動する描写(意味わかんないと思うけど活字化するとこうなりますしだから観ないと伝わんない)なんかもうD4Cの発動条件が”何らかの物体の隙間に入り込む”事なもんだから監督マジで7部のファンなんじゃねえかしらと思うた次第。これクリストファー・ノーランの『TENET』を観た時にも思うた事なのであるが、最近とうとう”映画(映像体験)がジョジョに追いついてきた”様な気がしておりまして、TENETの逆行世界の映像表現をIMAXで体感しながら”俺は今スタンド攻撃を受けている……”と思った感覚と同様にマルチバース下の自分(人生の分岐点を現在の自分とは違う選択で生きている自分)の能力を借りながら(ダウンロードしたという表現に近い描写)敵と戦うという本作の表現は逆に”俺は今スタンド攻撃をしている……”という感覚に陥る事が出来た。これはマジでトリップ出来ます。

で、トリップと言えば脚本。宣伝文句の”ようこそ、最先端のカオスへ。”に一言一句間違いはなく、何なら想像を遥かに超えた次元のカオスでありまして、こちらもジョジョの色んな所が過剰な描写だったり唐突な展開やヒデエ下ネタなどにはチェンソーマンを感じる場面も多々あった。なのでジョジョ好きもそうだけどチェンソーマン好きもマストな。

 マルチバース下の自分の能力にアクセスする為には”バース・ジャンプ”なるものをしなければならないのだが、バースジャンプする為には”普段では絶対やらないであろう意味不明な行動”を起こさねばならず、それはオカシければオカシイ程より強い能力を借り受ける事が出来るとの事で、例えば”紙で指を切る×4(これめちゃくちゃ痛そうだったシーン)”だったり”ファンタオレンジ2ℓ(的なモノ)一気飲み”だったり”ハエを鼻から吸う”だったり極め付けは”アナルに異物をジャンピング挿入(映画史上最も好きなシーンのひとつに加えたいと思います。めちゃくちゃ笑った)”だったりで、これまた意味わかんないと思うけど活字化するとこうなりますしだから観ないと伝わんない気の触れた行為ばかり。酒或いはクスリ或いはその両方をやりながらじゃないと絶対この脚本は書けないと思いました。

 ピクサー映画『レミーのおいしいレストラン』の原題は「Ratatouille」でそれはラタトゥイユの事であり、綴りにRatが含まれるからレミーはネズミのキャラクターとなっているのだが、『エブエブ』の主人公・エヴリンは映画タイトルをラタトゥイユではなくラカクーニと感違いしており、ラカクーニは綴り上アライグマ(Raccoon)が含まれるのでエヴリンの中ではレミーのおいしいレストランはネズミではなくアライグマの話であり、その勘違いを家族に爆笑されるシーンがあるのだが、別のバースにおけるエヴリンはアメリカの和風鉄板焼きレストランとして有名なBenihana(シェフが目の前で調理しながらコテでジャグリングしたり割った卵の殻を放り投げコック帽で受け止めるなどの大道芸的パフォーマンスをしてくれる)のシェフとして働いており、その同僚がマジでコック帽の中にアライグマを住まわせており、そいつがブレーンとして調理を進めているというラカクーニのマルチバースもきちんと実在しているというめちゃくちゃっ振り。加えて人類の指がソーセージになっているというバースすら存在するっつうのだから、やっぱ絶対酒或いはク(ry

 ラスボスのジョブ・トゥパキのいちいち変わるコスチュームやメイクも非常にサイケデリックな物ばかりでそういった”観るドラッグ”的な作品としてもサイコーつうかジョジョもチェンソーマン(こっちは結構直接的)も”読むドラッグ”的なマンガですしね。そういやラストの戦い方とかはジョジョ4部のパールジャムの能力そっくりだったなあ(あとモータルコンバットのフレンドシップ)。

 物語はそんな超バカ描写とスローモーションと正面顔アップの偏執的な多用を繰り返し繰り返し進んでいくのだが、1つの家族(その周りも含む)の離合集散についてという主題はぶらさず、ラストもそうなって欲しいという形にしっかりと収めてくれる。

 全ての選択が自分の望む通りの形になるとは決して限らないどころかそうならない場合のほうが多いつうのが世の習えであるのだが、それでも、その選択がどんな結果を産んだとしても”だからいいんじゃないか”と付け加える事が出来れば、その人生は幸せである。

 なんて感じたラスト、悔しいけれどおっさんは泣いてしまったよ。人間讃歌だったのよ。てやっぱりジョジョじゃねえか。

 つう訳で映画『エブエブ』絶賛公開中だしこれはネタバレして観ても大丈夫だとおっさんは思ったしネタバレつうかラカクーニとBenihanaのくだりは解説しといたほうがいいなと思ったしマジでD4Cでパールジャムだったしジャンピング挿入はナートゥと同じくらい好きな映画のワンシーンとなりました。

 因みにこの監督は無人島で遭難したポール・ダノ(ザ・バットマンのリドラー)がダニエル・ラドクリフ(ハリーのポッター)の死体を乗り回して家路を辿る「スイス・アーミー・マン」という3度ながら意味分かんないと思うけど活字化するとこうなりますしだから観ないと伝わんない映画も過去に発表しており、こちらも観てみると良いすよというお話。

 しかしまあ監督さんはしばらく『エブエブ』の大成功でそらまあより上質でよりトベる酒或いはク(ryにまみれてもろて欲しいなと思いました。こんなめちゃ面白い怪作、なかなか出逢えるもんじゃござんせんからね。本当にありがとう。そしてみんなもエブエブしようぜ。

庄村聡泰(コラムニスト・スタイリスト)

ロックバンド[Alexandros]のドラマーとして2010〜21年に活動。バンド時代の収入ほぼ全てを注ぎ込むほど傾倒した音楽や洋服を中心に、映画やマンガ、アニメやグルメ、世界各地の珍スポットなどのさまざまなカルチャーに精通し、これらの知識と経験を生かしてライフスタイル提案型ファッションブランド「スナック NGL」を始動。また、歌劇な過激団 @furaku_taru の制作総指揮を務めるなどプロデュース活動や、#サトヤスタイリングとしてファッションスタイリングや、#ショウムライターとして音楽や映画をはじめさまざまなメディアでインタビューやコラムを執筆。自ら映画にも出演するなど精力的な活動を広げている。 #サトヤスタイリング #ショウムライター インタビュー

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庄村聡泰のホームページ

しょうむらさとやす

最終更新:2023/03/11 13:00
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