M-1芸人が選ぶ「あの芸人のこのネタがすごい!」
<濃密なお笑い語り本「お笑いファン」(鹿砦社)に収められている話題の記事「芸人が選ぶ『あの芸人のこのネタがすごい!』」の一部を当サイト限定で特別掲載。ここでは、「M-1グランプリ 2015」で決勝進出も果たした、お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」の新道竜巳氏が、過去から現在までのすごネタを紹介していきます。なお本稿は、2022年11月末時点の情報をもとに執筆されていることを了承ください>
漫才のアンタッチャブルが見せた珍しいコント、技術がすごいお笑いネタたち
いつも、舞台袖や客席からお笑いをたくさん見ている中で、過去の名作から最近見たすごいと思ったネタまでをいくつか、具体例を出しつつ紹介していきます。
怪奇!YesどんぐりRPGの「お辞儀をするだけのネタ」
Yes!アキト、どんぐりたけし、サツマカワRPGの、3人のピン芸人からなるユニット・怪奇Yes!どんぐりRPG。「PLAYER CHANGE PLAYER CHANGE PLAYER CHANGE……」と唱えながら順番にギャグを繰り出していくネタで有名なこのトリオの、漫才の企画が毎回、凄く面白い。他とは全然違うスタイルで挑む勇気は、誰よりも鋭利な時があります。
今年の「M-1グランプリ2022」の予選に出場したのですが、このときのネタがさらなる漫才論争を起こしそうなものでした。
まず「どうも怪奇Yes!どんぐりRPGです、宜しくお願いいたします」と3人同時にお辞儀をするのですが、この〝3人でのお辞儀〟が漫才の縛りとなります。
まずサツマカワRPGがお辞儀から元に戻ると、残り2人はまだお辞儀をしたまま。サツマカワRPGは、3人同時に頭を上げたいので、またお辞儀をし直す。今度は、どんぐりたけしが頭を上げると、残りの2人がまだお辞儀をしているので再び頭を下げる。今度はYes!アキトが…と、3人がひとりずつ順番に、頭を上げて周りを見回すと、他の2人がまだお辞儀をしているので下げるというのを、ランダムに繰り返していく、というつかみから始まります。
続いてYes!アキトがきっかけに個人名を1人ずつ紹介するのですが結局〝お辞儀しばり〟は続き、お互いにタイミングをうかがう状態に入ってしまう。さらにせっかく3人のタイミングが合っても、再びまた3人は頭を下げる展開に。いよいよ目的不明な展開になり、さらなる笑いを増幅させていきます。
そして、Yes!アキトが「頑張っていきましょうね」と言うと3人がまた話をしようと頭を上げる。今度は、どんぐりたけしがコントに入るために「お医者さんて、かっこいいですよね。手術のシーンやらせてもらってもいいですか」と世界観を切り替え、3人とも頭を下げるのですが、タイミングが合わないゾーンに入っていきます。
そこから飽きさせないように色々な設定を展開するのですが結局、頭を下げるところに着地…を繰り返し、時間切れが迫るブザーがなったら、サツマカワRPGが「ヒュルルルル~」と口笛を吹き、時間切れの「ボカーン」という爆発音と赤い照明を最後の締めに使って終わるというものでした。
これはもう、漫才とは思えないネタだったんですが、1回戦を合格で通過したんです。
このネタの凄いところは、内容はもちろんのことネタのルールの説明が半端なく早いところにあります。1回目のお辞儀からサツマカワRPGの頭を上げて下げるだけでほぼ伝える作業は済んでいます。そしてほとんど喋らないのに、お客さんが笑うポイントが多いのも、凄いところでした。
モグライダーの「甲子園」
一般的にモグライダーのネタといえば、昨年の「M-1グランプリ2021」の決勝で見せていた「美川憲一の漫才」だと思いますが、ライブで一緒になったりして近くで見ていた身からすると、彼らの代表ネタは「甲子園」の印象のほうが強いです。過去の「M-1グランプリ」の準々決勝でもこのネタを掛け、大爆笑を起こしたのに惜しくも敗退していたのを見たこともあります。
この漫才も特殊で「高校野球のヒーローをやらせてください」というテーマで、ともしげがバッター、芝大輔がピッチャーを演じます。2人ともセンターマイクから離れ、それぞれ正面をむく、まるでセンターマイクを境目に2元中継のようにも見える形に。センターマイクに近づかない漫才と言ってもいいぐらい、ずっと離れてネタが進行していく、新しい漫才なのです。
バッターともしげがどれだけ打とうともピッチャー芝が完全に守り抜くというのが基本。ネタの前半では全然打てないともしげを弄ったりしているので、芝がツッコミかと思いきや、よくよく見ると実はともしげが「全然できないじゃないか!」とツッコミ側に回っているのも新しいと思えるポイント。笑いの量なら「M-1グランプリ2022」決勝のネタよりも、確実にうけるんじゃないのかと思わせる——そんなこのネタは凄いと思います。
5GAPの「女子風呂を覗く」
5GAPはNSC東京5期生で、芸歴も23年ほどのベテランです。その2人が20年以上やりつづけている鉄板ネタが「女子風呂を覗く」です。最近も『賞金奪い合いネタバトル・ソウドリ』(TBS系)でやっていました。
「昔はウケなかったけど、最近ウケるようになってきた」と、ご本人たちは言っていますが実は、僕が東京NSC7期生のときに、若手コーナーでこのネタを見ていた事がありました。
たしかに〝女子風呂を覗く〟という設定は昔ならではの設定ですが、お2人の見てくれが昔と今とでは全然かわっているので、確かに別物にはなってます。今の5GAPさんはとにかくコント中にギャグを挟むイメージですが、当時はギャグなしのコントとしてやっていたような印象でした。そして当時、全くの無名だった5GAPでも、このネタはうけていました。しいていうなら今のほうがもっと受けるようになっているという事です。
今は〝とにかく変な奴がいる〟ということに重点をおいています。そしてボケ数の多さもこのコントの凄いところ。最近のコントでここまでポンポンボケるコントはなかなか、見られないと思います。登場してボケる、風呂に浸かってボケる、体を洗ってボケる……と一つひとつの描写がボケに全て着地し、そのボケのレベルが高いあたりに、名人芸を感じさせます。
しかも設定と全く関係ない部分でもボケ続けるのが、とても頼もしいんです。登場から何故か温泉に浸かるのに全身タイツと言う部分も最高。
<そのほか、アンタッチャブル、ジャルジャル、Aマッソといった、おなじみの芸人たちの「すごいネタ」も紹介。続きは『お笑いファン』で楽しみください>
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お笑い芸人とライター、そして笑いの作り手が、進化著しい漫才界を読み解く、ありそうでなかった濃密「お笑い語り本」!
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【目次】
お笑いとお好み焼き 大阪2大カルチャーの今と昔
【特別対談】吉本興業ホールディングス代表取締役会長・大﨑洋×千房株式会社代表取締役会長・中井政嗣
2022年「関西演芸しゃべくり話芸大賞」リポート
人気芸人の過去の発言を発掘!! お宝インタビュー!
ニューヨーク 2017年12月の談/2019年2月の談
空気階段 2018年2月の談/2019年10月の談
芸人が選ぶ「あの芸人のこのネタがすごい!」
漫才のアンタッチャブルが見せたコントの技術 馬鹿よ貴方は・新道竜巳
「欧米か」に込められたタカアンドトシ・トシの真髄 元ホーム・チーム・檜山豊
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