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火災ガス中毒の特効薬開発に進展、死者が飛躍的に減少の可能性

火災ガス中毒の特効薬開発に進展、死者が飛躍的に減少の可能性の画像1

 同志社大学を中心とした同志社女子大学、東海大学、国立研究開発法人建築研究所およびパリ大学の研究チームは2月21日、火災で発生する一酸化炭素およびシアン化水素による中毒の特効薬となる可能性のある合成化合物を開発したと発表した。この合成化合物の開発により、火災による死者が飛躍的に減少する可能性がある。

 https://www.doshisha.ac.jp/news/2023/0221/news-detail-9428.html

 発表文によると、火災では高温による熱傷だけでなく一酸化炭素(CO)等のガス中毒により甚大な被害が発生する。建物火災による死者数は毎年1000人以上おり、その約40%が火災ガス中毒で死亡している。

 その原因はウレタン、アクリル等の(不完全)燃焼により発生する一酸化炭素とシアン化水素だが、現在、一酸化炭素とシアン化水素を同時に速やかに解毒可能な治療薬は存在しない。

 一酸化炭素とシアン化水素は、一度体内に吸収されるとすぐに除去することは困難で、現在、火災におけるガス中毒を現場で迅速に治療する方法はない。現在の治療法である高気圧酸素療法は、病院に搬送後でないと実施できない。

 このため、火災等で有毒ガスにさらされた人々の命を救うことは、救命救急の現場において大きな課題となっている。

 研究チームを率いた同志社大学の北岸宏亮教授は、20年以上にわたって合成ヘムモデル化合物であるhemoCDの研究を行ってきた。当初は輸血体制を支えることを目的に、血液の代替材料となる人工ヘモグロビンとして研究開発を進めてきたが、その研究課程でhemoCDを動物に投与するとすぐに尿として排泄され、そこに微量の一酸化炭素が含まれていることに気付いた。これをきっかけに、二種類のhemoCDを用いることでと一酸化炭素とシアン化水素の同時中毒に対する解毒薬の開発を開始した。

 その結果開発されたのが、「hemoCD-Twins(ヘモシーディーツインズ)」。これは、生理食塩水中で2つのヘムモデル化合物(ヘム鉄と環状オリゴ糖であるシクロデキストリンの混合物)から構成され、そのうちhemoCD-Pは一酸化炭素を非常に強く捕捉し、hemoCD-Iはシアン化水素を効果的に捕捉し、速やかに体外へ排出する。

 一酸化炭素とシアン化水素の火災ガス中毒状態にしたマウスに、この化合物を投与すると生存率が約85%を超えた。非投与マウスはすべて死亡した。さらに、アクリル素材を燃焼させて発生させた火災ガスを吸入させることにより、致死に近い状態にしたマウスに投与すると、生存率が80%を超えた。非投与では約40%の生存率だった。

 その上、この化合物は投与数分後に速やかな血圧の回復がみられ、2時間でほぼ100%が尿中排泄され、体内残存はなかった。これにより、hemoCD-Twinsは火災ガスの中毒症状から急速に回復することが実験で証明された。

 hemoCD-Twinsは即効性に優れた解毒効果を持ち、体内に残存せず安全性が高いことに加え、大量合成が可能で保存性にも優れており、緊急時への常備薬として重要な要素である長期室温保存可能な安定性を備えている。

 北岸教授は、「この化合物を基にした薬剤が開発されれば、火災によるガス中毒から多くの命を救えるとともに、ガス中毒によるさまざまな後遺症の治療にも効果があると考えている」とした上で、「さらなる研究を重ね、非臨床試験や臨床試験を経て、5~10年以内に救急車や救急病院などにhemoCD-Twinsが配備されることを期待している」と述べている。

 現在、同志社大学には火災ガス中毒治療薬開発研究センターが設立され、現場で活躍する救急救命の臨床医師と協力しながら、hemoCD-Twinsの臨床試験に向けた研究を開始している。

 この研究成果は、2月21日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)にオンラインで公開された。

 

 

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

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最終更新:2023/03/24 07:00
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