『インフォーマ』にドラマティックな展開を添えて
#藤井道人 #沖田臥竜 #インフォーマ
毎週着実に順位を上げてきたドラマ『インフォーマ』のNetflixでのランキング。先週はいよいよ2位まで躍進して、頂点が目の前になった。ローカル発の深夜ドラマが、ネットユーザーからここまでの高い評価を得るまでには、どんな人々の、どんな想いや試みがあったのか。そこには、一言では言い表せられない時間の流れと物語が、今日まで紡がれてきたのだ。
『インフォーマ』原作者である沖田臥竜氏による恒例エッセイ。今回は、同作品の監督と2人で描きはじめた夢が膨らみ続け、ドラマティックな中間地点を迎えるまでに想いを寄せる――。
スタートはいつも2人だった
ドラマティックな展開ではないか。2話を残してNetflixで第2位。ここでトップを奪ってしまうよりも、最終回に向けてランクアップしていく。実にドラマティックではあるまいか。
ずっと思い出す景色がある。4年前、初めて会ったスターサンズで、3年前、五反田の居酒屋で、2年前、品川プリンスの珈琲ラウンジで。目の前に座る藤井道人監督はいつも少年のように、わくわくとした表情をしていた。企画会議とかそんな大層なものはいつもない。ただ観てきた映画や好きな歌を語り合い、そこから「じゃぁ!こんなのやってみませんか!?」がスタートとなる。
私にとって大事なのは、いつも今この瞬間だ。先のことはわからない。ただ、今この瞬間に賭けている。
『ムショぼけ』も『インフォーマ』もスタートはいつも2人だったので、お互いを監督とか原作者とかの領域で線を引いたり、立場に縛りつけたりするような関係性ではない。ただ、どうすれば、自分たちがやりたいことを実現させることができるのか、そこに全身全霊を賭けるだけである。
そして、企画が成立して、初めてお互いに肩書きがつくだけで、それまではとにかく私が書いて、藤井監督がチェックして、それが整えば、あとは大勢の人々を巻き込んでいくにはどうすれば良いのかを考えながら、行動していくのだ。そんな2人の間でいつも話題となるのは、既成概念のぶち壊し方。さかのぼれば、私が小説家になるための手段もそうだった。詳細は割愛するが既成概念にとらわれていたら、今もまだどこかの文芸賞に引っかかりはしないかと原稿をせっせせっせと送り続けていたことだろう。
ドラマでもそうだ。まず常識を覆しにいったのが『ムショぼけ』だった。ロケはすべて私の地元・尼崎という局地戦。この手法がフィーチャーされなければ、『インフォーマ』には繋がっていなかったと思う。私にとって絶対に負けられない場所で戦い、それにより関西での認知と評価が上がったからこそ、今度は全国に打って出られたのだ。
『ムショぼけ』を尼崎から発信させ、『インフォーマ』ではその尼崎からスタートし、東京のど真ん中に突き刺し、さらに世界へと羽ばたいていくのだ。結果だけを見れば、それだけでも十分ドラマティックだが、やっている最中はただ無我夢中で、そんなことも考えている暇もない。
タイトルをつけてから、最初は藤井監督と私の2人だけが、『ムショぼけ』だとか『インフォーマ』だとかと呼び合うのだ。当たり前である。世に出ていないから、2人以外はこのタイトルを口にできないのだ。知らないからだ。まず2人でタイトルに愛着を持っていくのである。
たった2人だけで呼び合っていたタイトル。それが今はどうだ。さまざまなところで『インフォーマ』と口にしてもらっている。
『インフォーマ』に限らず、ゼロから生み出した作品が世間に認知されるまでは、他の仕事をしつつ、寝る間を惜しんで書き続けなければならない。それは楽な作業ではない。
そんなとき、いつも脳裏に描いているのは、その後の反響だ。自分が書いたものが映像化され、見る者に涙してもらったり、楽しみにしてもらったり。そんな形で誰かの人生にコミットしていくのである。それはかけがいのないことで、それを想像すれば、今を頑張り抜くことができるのだ。多分それが情熱というものではないだろうか。
世の中に、仕事が思い出になる職業がどれだけあるだろうか。寝ずに書くということに、楽しいところなんて、哀しくなるくらいひとつもない。
ただ、物語を産むことに対しては、20年以上書いている意地があって、私にしかできないものを生み出そうといつも考えている。それは書き終えてから、出版や映像化が決まるまでの過程すべてがそうだ。私しかできないものをやらなければ、それは私の仕事ではない。
誰しもが「そんなんできへんて」ということを、できるようになるまで食らいついていくのである。
その結果が今になるだけで、今がまた何年後かの今を生む。その繰り返しの中で、自分で自分の限界を超えて成長していくのだ。
『ムショぼけ』でやったことを『インフォーマ』でもと考えたとき、私は同じやり方を辿ったりはしない。『ムショぼけ』で経験したことを執筆段階でも、その後の過程でも活かしながら、常に何かを取り入れてはチャレンジし、そして目指すべき結果へと辿りつかせるのである。『インフォーマ』に関しては、それが漫画化となるのではないだろうか。
『インフォーマ』では小説、ドラマに続いて、漫画展開する。そこに至るまでには、ひとつのエピソードがしっかりあって、藤井監督とプロデューサーのジョニーが、ある話を私に聞かせてくれなければ、漫画化は実現していなかったと思う。それは尼崎でのロケハンの最中であった。それを聞いて、私はまた情熱を燃やしたのだ。
夢の結晶を作り上げるもの
『インフォーマ』はいうならば、私たちの壮大な夢の結晶といえるのかもしれない。結晶とは、我々のような作り手だけが頑張って作り上げられるものではなくて、例えば、ドラマにおいては表舞台の中心にいる俳優部の人たち、俳優部を輝かせるために裏方で支える人たち。出版においては、編集者や校閲、そして営業や宣伝の人たち。マンガ化ではさらに、業界や会社の垣根も超えて尽力してくれた人たちがいて、出版社の編集部の人たちや漫画家先生が形にしてくれる。
わたしも含めて、そんな人たちの間にもちろん上も下もなくて、ボランティアで手伝ってくれるスタッフの人々やエキストラで参加してくれた方々もすべてが作り手なのだ。さらに、それを応援し、作品を面白いと言ってくれる人々がいて、初めて夢の結晶になるのだ。
本音は、だ。少し毒を吐くぞ。早く踏ん反り返ってやりたいよ。「先生、そこをなんとか!」とか言われて楽をしたいよ。だけど、作品作りって儲からないじゃん! 儲かってるという自慢話を聞かされたことはあるが、あれは間違いない。ウソである。確かにすげえ儲かってる人もいなくはないが、そんなのは稀で、私クラスはまだ、新幹線が自由席かグリーン席かで死闘を繰り広げているぞ。
ただ、多分そういうのが好きなのだと思う。ずっとそんな人間でいたいのかもしれない。
いずれにせよ、『インフォーマ』では栄光を掴むつもりである。ここまで来たのだ。栄光を掴まずには終われまい。
2人でスタートとした物語が、それぞれの物語になった。時の流れに永遠なんてものはないけれど、そこに思い出は刻むことはできる。カンテレでは残り3話。Netflixでは残り2話。世界へと飛び立つ前にしっかりと頂点という栄光を日本で掴みとり、世界でも引かれるくらい、『インフォーマ』でムーブメントを巻き起こしていきたい。
そう思いながら、まだまだ私はいろいろなことを考え続けている。
(文=沖田臥竜/作家)
小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!
ドラマ『インフォーマ』
毎週木曜深夜0時25分~0時55分放送中(関西ローカル)
見逃し配信:カンテレドーガ・TVer
Netflixでは地上波に先駆けて先行配信中
ドラマ『インフォーマ』予告映像
桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。
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