『R-1グランプリ』は夢があるを証明したか? 賞レースで優勝する、その後
#テレビ日記 #R-1
陣内智則「今年は『もうひと展開』って言わないように」
2023年のR-1のファイナリストは今年も8名。連続での決勝進出となるYes!アキト、寺田寛明、サツマカワRPGに加え、初の決勝となる田津原理音、永見大吾(カベポスター)、都留拓也(ラパルフェ)、きょん(コットン)、敗者復活を勝ち上がってきたこたけ正義感である(こたけも決勝初進出)。
そんな芸人たちを審査するのは、昨年と同じく5名。陣内智則、バカリズム、小籔千豊、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、ハリウッドザコシショウだ。いずれも芸人としての面白さは折り紙付きの面々である。ただ、賞レースでは審査員も視聴者に審査されると言われて久しいなか、“物議”を醸しやすいのは陣内かもしれない。陣内も番組冒頭で、そんな炎上体質を自らネタにした。
「去年は『もうひと展開ほしい』って言いすぎてプチ炎上したんで。今年は『もうひと展開』って言わないように」
以上のような前置きではじまった決勝のネタで個人的に印象に残ったのは、連続出場となるピン芸人たちがそれまでの自分のネタを新しいフォーマットや見せ方におさめたネタを披露していたことだ。ギャグ芸人として知られるYes!アキトは、コントの設定のなかにギャグを折り込んでいた。寺田寛明は紙のフリップではなくパワーポイント系のスライドに変えていた。いずれのネタも、前回の決勝での審査員からの指摘をふまえ、ブラッシュアップしたものに見えた。
また、今回のチャンピオンである田津原理音。カードの開封動画をもとにしたネタだったが、彼がもともとやっていたのはフリップ芸らしい。決勝のネタは、そのフリップをカードに変えた形である。これもまた、従来のフリップ芸をブラッシュアップしたものと言えるかもしれない。
にしても、準備の手の込みようが目を惹いたネタだった。ネタではオリジナルのカードを大量に作っているわけだけれど、そのカードにあわせてオリジナルのTシャツも作っていたりする。カードはキラキラ光るタイプになっていたり、めくれる形になっていたり、ホログラムのような加工が施されていたりする。カードのパッケージもバーコードや問い合わせ先などが印刷され、細かいところまでそれっぽい。お金もそれなりにかかってそうだ。
先述の『桃色つるべ』では、おいでやす小田がピン芸についてこう語っていた。
「僕は特殊なタイプじゃないですか。ずっとピン芸人でやってて、漫才で出てきたタイプやから、余計に思います、いかに過酷なことをしてたんやっていう。ひとりで出ていって笑かすことの異常性。いま改めて俯瞰で見直したら、とんでもなく効率悪いことやってる」
なるほど、田津原はネタのなかで準備したTシャツについて一切触れないし、ただただ捨てられるだけのカードがあったりもする。準備の大変さとネタのなかの扱いが比例しない。小田の言葉を借りれば「とんでもなく効率悪い」。だが、そのあたりのツッコミが書き込まれていない“余白”というか“ツッコミしろ”のようなものがむしろ面白い。見ていると、録画なり配信なりで捨てられたカードの内容を1枚1枚確認したくなる。後追いでツッコミしたくなる。後追いツッコミ欲のようなものが刺激されるネタだった。
今年のR-1は、そんなネタを披露した田津原がチャンピオンとなった。ファイナリストのなかではもっとも世間での知名度が低いであろう芸人の優勝。ネタが面白ければキャリアは関係なく評価されるという意味で、それは夢がある結果かもしれない。R-1に夢がある事実を証明したようにも見える。
ただ、あべこうじが語ったことをふまえるならば、夢はチャンピオンになったこと自体にあるのではないだろう。その称号はあくまでも「切符」のようなもの。自身の夢を形にするための「切符」のようなもの。
さて、新たなチャンピオンを生んで幕を閉じた今年のR-1だけれど、最後のほうにちょっと面白いシーンがあった。田津原とコットン・きょんで争われた最終決戦が終わり、審査員の投票結果が発表される場面。4人目のバカリズムまでで田津原に2票、きょんに2票が入り、陣内の投票結果でチャンピオンが決まる流れになった。「おー」と歓声をあげる観客。拍手をするなど盛り上げる審査員。そんな異様な雰囲気に、陣内も「ちょっと待って!」とオロオロする姿を見せ、開票が少し中断する展開となった。
なんだか、最後に「もうひと展開」あって面白かった。
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