R-1でコットンきょんのネタが物議…バカリズムの辛口採点が象徴するピン芸の今
#バカリズム #R-1 #檜山豊
3月4日、フジテレビ系で放送された、一人芸で誰が一番面白いかを決める大会「R-1グランプリ2023」。今大会は吉本興業所属の「田津原 理音(たづはら りおん)」さんが芸歴10年目のラストイヤーで決勝初進出を果たし、その勢いのまま見事優勝した。ファイナルステージでは「コットン」のきょんさんと戦い、審査員5人の投票が3対2となり、たった1票差で辛くも勝利を手にし、今大会に出場した芸人の実力がいかに拮抗していたのかがよくわかる結果となった。
毎年注目されている「R-1グランプリ」だが、今年はM-1グランプリ2022の王者「ウエストランド」さんの「R-1グランプリには夢がない」という発言により、良い意味で注目が集まり、出演者たちには良い影響を与えたのではないだろうか。
「田津原 理音」さんの優勝で幕を閉じた「R-1グランプリ2023」だったが、翌日にはある芸人のネタが物議を醸すこととなった。
「R-1グランプリ2023」のネタレビューはまた今度書くことにして、今回はこの物議を醸したネタを元芸人として分析し、そこから見る「R-1グランプリ」を書いていく。ちなみに僕の独断と偏見が色濃く出てしまうはずなので、その点はご了承いただきたい。では始めよう。
今回物議を醸したネタ、それは準優勝した「コットン」のきょんさんがファーストステージで見せた「警視庁カツ丼課」というネタだ。犯人に合わせたカツ丼を作り自白を引き出すという内容なのだが、なぜ賛否が分かれてしまったのかというと、このネタはコンビとして披露していたネタなのだ。しかも設定だけでなく、流れやセリフ、ボケもほぼ同じ形となっており、2人でしていたネタを1人でやっているだけということで、果たしてこれはピン芸と言えるのかという部分が焦点となり、ネット上で疑問の声が上がってしまったのだ。
コンビで披露していたネタというのはコンビで共有できる財産であり、相方の西村さんもきょんさんがピンネタとして披露することは承知しているので何も問題はなく、さらにこのネタは今大会の準決勝でも披露されており、それを見た審査員たちがピン芸として面白いと判断して決勝へ進出させていることから考えても、日本を代表するピン芸人8人の中に入るべきネタだったということで、非難されるようなネタではないのだ。
と僕は思わない。
実は僕は「R-1グランプリには夢がない」という発言に対して書いたコラムでも述べているのだが、この「R-1グランプリ」にピン芸人以外が参加することを良いと思っていないのだ。僕も芸人をやっていた時代に「R-1グランプリ」に挑戦したことがあるが、今思うととても失礼なことをしてしまったと思う。
ピン芸人はコンビやトリオのような複数人の芸人に比べて、文字通り“孤独”であり、複数人芸人が出来る助け合いなども出来ず、ライブシーンですら自分の立ち位置を見つけるまでには相当な努力や計算をしてきている。さらに複数人で芸をしていた元複数人芸人たちも、ピン芸人になった途端、今までとの勝手の違いに戸惑ったり、コンビの時に辿り着いた地位が崩れ去っていることに気づき、また一からスタートするという苦労を間違いなくしてきている。
そんなピン芸人ならではの苦労や努力を含めて一人芸の厚みや深みになっていくのを間近で見てきたので、現在進行形でピン芸人でない芸人がネタの面白さだけで「R-1グランプリ」に参加するのは何か違う気がする。
ピン芸人さんの苦労はピン芸人さんにしかわからないもので、全てにおいて間違いなく複数芸人より苦悩が多く、もがきあがき苦しんできたはずだ。なのでネタの面白さ云々の前に、複数人芸人はピン芸人さんへ敬意を払うべきであり、ピン芸人の領域に土足で上がるべきではないのだ。
面白さを追求するのではなくピン芸人優先で参加させろというと、「R-1グランプリ」のネタのレベルが下がってしまう可能性があると思う人もいるかもしれないがそうではない。
そもそもピン芸の面白さとはお笑いだけの面白さに限らず、漫才やコントという制限のある世界ではないので無限の可能性があるはずだ。古典落語以外のオリジナル落語やマジック、モノマネ芸、パントマイム、ジャグリング、漫談など、ただただ「笑い」に特化したネタではない、多ジャンルの「面白い」を見られるのが「R-1グランプリ」本来の形であり、「R-1グランプリ」の楽しみ方なのではないだろうか。
「R-1グランプリ」の参加要項に10年未満という縛りをつけてしまったが故に「お笑い」に特化したネタを優先する傾向が出てきてしまい、他の大会との差別化が出来なくなってしまったのだ。
『大会の価値』を本当に見つけようとするならば、一人芸というものをもう一度見つめ直し、視聴者へ別の面白味を訴えかけるべきなのだ。遠い未来を見ずに、目先の人気を追いかけるが故に「お笑い好き」という視聴者層ばかりを狙っていては「R-1グランプリ」に未来はない。もしかしたら「ゴットタレント」の一人芸版が本来の形だったのではないだろうか。
ちなみに今大会で優勝した「田津原 理音」さんのコメントで下記のようなものがあった。
「ピンネタだけど一人で作ったネタじゃないなっていう自覚があったので。それこそビスケットブラザーズさんもですし、ニッポンの社長さんも。真輝志っていう後輩がいるんですけど、真輝志だったりとか、いろんな人がネタを見てくれて」と。
さらに「僕には無い発想もいっぱいくださって。なので、皆がやりたいなって思っていることを、僕が代表してやっている感じのネタだなっていうのがあったので、本当にありがとうございますっていうのは伝えたいですね」とも言っている。
このコメントを聞く限り、ピン芸人自体が他の芸人の力を借りることを良しとしており、ピン芸人ならではのプライドや意地が無くなってきているのではないだろうか。しかも優秀な先輩や同期、後輩がいるから出来た面白いネタだとすれば、そういった仲間がいないピン芸人はお先真っ暗である。
僕は古い考えなので、ピン芸人が複数人芸人に対して持っているコンプレックスや闘争心が復活し、ピン芸人ならではの意地やプライドを持って「負けてたまるか」という不屈の闘志を燃やして、誰の力も借りない独特なネタを作って欲しいと思ってしまう。
バカリズムさんの点数はかなり酷なものが多いように見えたと思うが、あの点数こそ今のピン芸を象徴している点数なのではないだろうか。「R-1グランプリ」の大会価値は大会意義を見つける事から始まる気がする。
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