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「R-1グランプリには夢がない」要因を元芸人が分析…「芸人ドリーム」の現実

「R-1グランプリには夢がない」要因を元芸人が分析…「芸人ドリーム」の現実の画像1
『R-1グランプリ2023』公式サイトより

 いまだにネット上でチラホラ見かけるフレーズがある。それは昨年末に行われたM-1グランプリで「ウエストランド」さんがネタ中に放った「R-1グランプリには夢がない」という発言だ。まもなく「R-1グランプリ2023」の決勝戦が行われるということもあり、このフレーズが再浮上してきたのだろう。

 「R-1グランプリには夢がない」と言われてしまう主な原因だが、R-1グランプリはM-1グランプリに比べてファイナリスト達のメディア露出が圧倒的に少ない点がある。

 M-1グランプリは特に優勝しなくても、決勝戦へ進出し、ネタのインパクトさえ与えれば、ある程度メディアへ取り上げられるようになる。しかしR-1グランプリの場合、ファイナリストどころか最低限優勝しなければM-1グランプリのファイナリストと同格のメディア露出をすることが難しいのだ。

 つまりM-1グランプリと比較したときに、明らかにR-1グランプリの方が効率が悪く、同じように努力しても報われる確率が少ないので、M-1グランプリに比べて夢がなく感じてしまうのだろう。

 では、ウエストランドさんのネタにもある「夢、希望、大会の価値」がM-1ブランプリにあってR-1グランプリにはないのかを元芸人として分析していく。

 まず「夢」から始めよう。夢とは芸人としての知名度が上がり、メディア露出が増えて、我々一般人より遥かに高い収入を得るという、わかりやすい「芸人ドリーム」を指すのだと思うが、R-1グランプリで優勝した芸人が「芸人ドリーム」を掴んでいないかというとそうでもない。「ハリウッドザコシショウ」さんや「ゆりやんレトリィバァ」さん、「じゅんいちダビットソン」さんなどは優勝する前より明らかに知名度も上がり、収入も上がっているはずだし、ほかの優勝者たちも出場する前よりは確実に知名度も収入も変わっているはずだ。

 ではなぜ夢がないように思えるのか。それはある一定の期間、集中的にメディアを使い稼いでいるからだ。視聴者からするとメディアに出ているときが売れているとき、イコール稼いでいるときという印象だと思うが、芸人の稼ぎ方はメディアだけではない。

 一番稼げるのは営業だ。知名度が上がればテレビに出ていなくともイベントなどの営業にお呼ばれする。ぶっちゃけ営業の時間とギャラを考えるとテレビのギャラに比べて非常に割高な場合が多く、テレビよりも効率よく稼げるのだ。さらにテレビで忙しい芸人は合間を縫って営業をしなければならないが、営業をメインで行っている芸人はかなりの頻度で営業に参加することができるので、ギャラに関して言えばテレビに出まくっている芸人を遥かに凌駕するパターンも少なくない。そういった「隠れ芸人ドリーム」遂行中の芸人は多いのではないだろうか。

 しかし、営業ばかりしているとメディアへの露出が減ってしまい需要がなくなってきてしまう。そうなると営業もなくなるという本末転倒な結果になってしまうので、ある程度定期的にメディアへの露出をしなければならないのだが、そこがピン芸人にとってかなり頭を悩ませるところだ。

 M-1グランプリの場合、漫才ということもあり、ネタの面白さもさることながら、2人の掛け合いの面白さをアピールすることが出来るので、フリートークの場で活かすことができ、ネタ番組以外での活躍も想像出来るのでテレビ局側としても使いやすいのだが、R-1グランプリの場合、ピン芸人たちはネタの面白さのみで勝ち上がるので、先述した「ハリウッドザコシショウ」さんや「ゆりやんレトリイバァ」さんのようにキャラクターがしっかりした上でネタが面白いとか、「じゅんいちダビットソン」さんのように芸人外の部分に需要を見つけない限りメディアへ継続的に出ることは難しい。

 キャラクターが薄く、ネタだけで評価されたピン芸人は、優勝したネタと同じくらいのクオリティのネタをネタ番組や大会で断続的に発表しなければならない。だがそんなことは不可能に近い。優勝したネタを作るまでにかなりの努力と月日がかかっているのに、一部存在する天才でもない限りそれと同じレベルのネタなんてポンポン作れるものではない。ということはネタで評価されたピン芸人が継続的にメディアへ露出していくにはキャラクターを強化、または変化させるしかないのだ。

 キャラクターの薄いピン芸人は、優勝したネタのみが世に出てしまうと、そのネタを披露することばかり要求され、日々そのネタを披露することだけを考えて、新しいネタを考える暇もなくなり、気が付くと世の中に飽きられ、需要がなくなっていく。そのせいで、せっかく手に入れた「芸人ドリーム」も永遠に続かなくなってしまうのだ。つまり夢を見ることは出来るのだが、それを継続させることが漫才師に比べると難しいというのが結論だ。

 ちなみに、M-1グランプリも同じように努力や進化をしない漫才師は継続的にメディアに出演することが出来ないのは言うまでもない。

 では「希望」の面ではどうだろう。希望とは“ある事の実現を願い望むこと”“将来によせる期待”というもので、上記の「夢」を見てもらえればわかるが、自分の努力や発想、スタッフさんやマネージャーさんとの出会いなど様々な要素が必要になってくるが、夢を掴む可能性があるのだから、R-1グランプリにも「希望」は満ち溢れていると言える。なのでR-1という大会に「希望がない」というのは間違いなく『No!』である。

 最後に「大会の価値」だが、これはとても難しい。価値と言うのは他のものよりも上位に位置づける理由や、難しく言うと人間社会の存続にとってプラスの普遍性を持つと考えられる概念だったりする。まあ“お笑い”自体に生産性などはないが、間違いなく人間社会においてはプラスだと思うので、そういった意味ではR-1グランプリにも価値がある気がするが、R-1グランプリをほかのものよりも上位に位置づける理由が浮かぶかというと、なかなか浮かばない。もちろん何と比べるかによるが、お客さんが50名しか入らないようなライブハウスで行っている小さな大会に比べれば遥かに上位に位置づけている大会だが、その辺りと比べても意味がない。では何を比べるか。それはもちろん「M-1グランプリ」「キングオブコント」「THE SECOND」「THE W」といった、決勝戦がテレビで生放送される大会が適切だ。

 さて、その大会よりも上位に位置づける理由は一体何が考えられるだろう……難しい。それは、まだこの大会の価値を体現している芸人が、他の大会と比べたときに抜きん出ていないからだ。「THE SECOND」はまだ放送されていないので何とも言えないが、「M-1グランプリ」や「キングオブコント」と並んだときに「R-1グランプリ」や「THE W」を機にテレビで活躍している芸人が圧倒的に少ない。そうなると他の大会より上位に位置づけるのは難しくなる。「M-1グランプリ」のように鳴り物入りでスタートしたわけでもなく、「THE SECOND」のように出演者に人気芸人が多いわけでもない。ただピン芸人が出られる大きな大会という認識で止まっている「R-1グランプリ」には、まだ本当の意味での価値がないのかもしれない。

 しかし、それもこれも全てが「芸人」の責任だ。今までのマイナスなところを勉強し、そうならないように心がけ、この大会をきっかけとし継続的にテレビに出られるようなピン芸人が増えれば、「R-1グランプリ」に対してもっと「夢、希望、大会の価値」が見いだされることは間違いない。

 ここからは僕の独り言だが、大会自体も「ネタの面白さ」ではなく「芸人の面白さ」に焦点を当てた方が良い。ネタで知名度を上げられる「バカリズム」さんのような天才芸人はそうそう出てくるものではないからだ。さらに僕の偏見で意見を言わせていただくが、ピンで参加したコンビ芸人をファイナリストにするよりも、ピン芸に命を懸けた生粋のピン芸人をファイナリストにする方が、ひとり芸ナンバーワンを決める大会である「R-1グランプリ」の真の姿なのではないだろうか。細分化された大会が乱立する現代なのだから、そのくらい厳しく区別した方が芸人もやりやすいし。お客さんも見やすいはずだ。

 少し厳しい意見を述べてしまったが、来る3月4日19時よりカンテレ、フジテレビ系で「R-グランプリ2023」の決勝戦が生放送される。果たして、この大会の価値を上げる芸人が現れるのか。今から楽しみである。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/03/04 08:00
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