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『大病院占拠』酷評されながらも今冬トップの話題ドラマとなったシンプルな理由

『大病院占拠』酷評されながらも今冬トップの話題ドラマとなったシンプルな理由の画像1
番組公式サイト」より

 序盤から「アクションもCGもチープすぎる」「映画『ダイハード』やドラマ『SP』のパクリ」などと酷評されながらも、ネット上の動きは今冬トップクラスをキープしている『大病院占拠』(日本テレビ系)。

 同作のコンセプトは、「凄腕の捜査官と医師らが大病院を占拠した武装集団に立ち向かう姿を描いた“ノンストップ籠城サスペンス”」だが、第2話で早くもシリアスなムードは消滅した。

 検索すればわかるため詳細は割愛するが、「消えたストレッチャー」のシーンを境に「このドラマはツッコミを入れながら見る」という“ネタドラマ”としての視聴スタンスが定着。爆発に巻き込まれても、3階から突き落とされても戦線離脱しない主人公・武蔵(櫻井翔)や、お約束のように毎週繰り返される「嘘だろ?」のセリフなどにツッコミを入れながら見る人が続出している。

 それと同時進行で視聴者を楽しませてきたのは、「鬼の正体当てクイズ」。色違いの鬼仮面をかぶった俳優たちは誰なのか。口元や仕草を見てネット上で予想する声が相次ぎ、序盤から中盤にかけての盛り上がりにつながっていた。

 しかし、制作サイドは「第5話で早くもすべての正体を明かす」ことを決断。ところが「菊池風磨とベッキー以外は名前と顔が一致しない」という人も多く、「名前を伏せるほどではなかった」という声もあがるなど、正念場を迎えそうなムードが漂い始めた。

あえてコントに見える作り方を採用

 ただ、結果として盛り下がることはなかった。その理由は、制作サイドが「鬼の正体当てクイズ」に変わる「スパイの正体当てクイズ」を用意していたから。「実は警察内部や人質の中にも鬼がいて、それは誰なのか」というクイズを視聴者に投げかけて興味関心をつなげている。

 ここまでの物語を冷静に振り返ると、主人公刑事のトラウマ、テロリストの目的は復讐、意図的に選ばれた人質、テロリストが交渉役に主人公を指名、生配信を使った公開型の犯罪、テロリスト同士の仲間割れ、時限爆弾につけた色違いのコードを切って解除など、クライムサスペンスの“ド定番”を集めたことに気づかされる。意外性のある展開はほとんどなく、視聴者が「こうなるのでは」と思っているほうに物語が動いてきたことがわかるだろう。

 予想しやすいベタな物語でハードルを下げて若年層視聴者を集めつつ、ネット上の考察をうながすクイズを提供する。さらに言えば、主演にアクションが得意ではない櫻井翔を起用したことも、「嘘だろ?」をじらして持ちギャグのように見せていることも、口元だけですぐにバレる菊池風磨を鬼のリーダーにしたことも、菊池風磨の「絶対に許さない」というドッキリでおなじみのセリフも、すべてが確信犯的なプロデュースにしか見えない。

 ドラマの作り手たちはクオリティを高めようと頭を使い、さまざまな技術を使おうとするものだが、当作のスタッフは必ずしもそうではないのだろう。ネット上には序盤から「コントにしか見えない」という声が見られていたが、それは間違っていないのかもしれない。当作のスタッフは「シリアスにやるほど、それが振りになって笑いが起きやすい」というコントのセオリーに沿ったスタンスを採っているからだ。

 そもそもテロリストの仮面を鬼にしたことも、わざわざわかりやすい色違いにしたことも、「緊張感を生み出す」という意味では真逆の設定であり、若年層向けのものだろう。多少チープな印象を与えてしまっても、若年層の個人視聴率を得るためなら、その程度は構わない。私が知る限り日本テレビは、この点で最もシビアなテレビ局だけに、『大病院占拠』は合点のいく作品なのだ。

“ネタドラマ”を日本テレビの定番に

 ここまでを冷静に振り返っていくと、第1話で界星堂病院が占拠されてから、実はそれほど物語は進んでいない。鬼の目的はあいまいなままで、人質の救出は進まず、「主人公が活躍している」と感じている人は少ないのではないか。それでも“ネタドラマ”としての楽しみを与えながら、考察をうながすクイズを続けることで、ここまで視聴者の興味関心を引っ張ってきたのは確かだ。

 しかし、残り3話となった終盤の盛り上がりを左右するのは、コントではなく本物の熱演であり、主人公・武蔵を演じる櫻井と、ボスの青鬼を演じる菊池の演技だろう。櫻井は救世主としての活躍と過去を乗り越える姿を、菊地は鬼を率いるカリスマ性や怒りと悲しみをどう表現するのか。特に櫻井は10年前に放送され、業界内で「彼のベスト」と称えられる『家族ゲーム』(フジテレビ系)の熱演を超えたいところだ。

 『大病院占拠』が思いのほか盛り上がっているのは、他の冬ドラマが保守的であることも理由の1つだろう。平成初期から中期に活躍した大御所脚本家や演出家に頼り切りのラブストーリーや医療モノ、あるいは何度目かわからないほど使い古された設定のファンタジーが並ぶ中、『大病院占拠』はいい意味で浮いている。

 このところ刑事・探偵・医療ばかり放送して低迷を続けてきた日本テレビとしては、『あなたの番です』『3年A組-今から皆さんは、人質です-』『真犯人フラグ』で賛否を集めた“ネタドラマ”への回帰が奏功したのではないか。

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

Twitter:@takashi_kimura

きむらたかし

最終更新:2023/03/04 07:00
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