米CBS、原子力空母をスタジオにする『トップガン』演出で米国人の愛国心を刺激
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米CBSの夕方のニュース番組『イブニング・ニュース』の2月23、24日放送を見て度肝を抜かれた米国人は多い。米中関係が一段と悪化する中で、南シナ海で任務に就く米海軍の原子力空母「ニミッツ」が番組のスタジオになったからだ。空母から飛び立つ戦闘機が何度も映し出され、映画『トップガン マーヴェリック』を彷彿とさせるニュースとなった。
CBSをはじめとする米3大ネットワークは東部時間の午後6時半から、そろって全国ニュースを放送する。全米でその日に何が起きたのか、今、米国人が何を知りたがっているのかは、この30分間のニュースを見ればとりあえず理解できる。通常はニューヨークやワシントンのスタジオに司会のニュースキャスターがいて、現場と中継をつないだり、スタジオに担当記者を呼んでニュースを伝えるが、大きな事件や事故などがあった場合はキャスターがその現場に行き、現場が「スタジオになる」ケースがままある。テレビ業界では、こうした番組進行を「現場回し」と呼ぶ。
CBSが今回、「ニミッツ」をスタジオにしたのは、ロシアによるウクライナ侵攻から1年がたち、ロシアのみならず、軍事力を強めた中国の動向が世界平和の大きな脅威となっているからだ。台湾を巡る情勢も緊迫している。緊張の南シナ海で任務に就く「ニミッツ」は国際政治の「最前線」そのものだからだ。
24日の放送では、南シナ海で中国の戦闘機が米軍機を追尾したり、接近したりしていることが度々あることを伝え、トム・クルーズ並みのイケメン戦闘機パイロット(少佐)のインタビューが流れた。パイロットを紹介する際、任務中に使われる本人の「コールサイン」も伝えた。
昨年の大ヒット映画『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズ演じる名パイロットのピート・ミッチェルが再び活躍する姿を描いたが、タイトルにある「マーヴェリック」はピート・ミッチェルのコールサインだ。映画の中では仲間をそれぞれの「コールサイン」で呼び合っており、映画を鑑賞した米国人にとっては、パイロットの「コールサイン」は今や英雄のシンボルでもある。
「ニミッツ」からの放送は『トップガン マーヴェリック』を強く意識したニュースになっていたと、視聴者は感じたはずだ。
司会の女性キャスター、ノラ・オドネル氏は「南シナ海は世界でも危険な場所になった」「世界での米国の役割はより重要となった」「ニミッツの兵士らは米国と自由を守るために危険な任務に就いている」と、米国人の愛国心に突き刺さるような言葉を並べていた。
CBSは米3大ネットワークの中でもニュースに定評がある。硬派なニュースで知られるが、そのCBSをして、こうしたニュースの発信の仕方を選択するような方向に国際情勢が動いているとも言える。
気になる東アジア情勢がどうなっているのか。別のCBSの番組では冷静に報じていた。26日の番組『Face the Nation』に米中央情報局(CIA)のウイリアム・バーンズ長官が出演し、じっくりと説明していた。
中国のロシアへの武器供与については「中国の指導部が、殺傷兵器のロシアへの供与を検討していることを確信している」と述べつつも、「中国政府による武器供与の最終決定はまだ行われていないとみられる。実際に出荷されたという証拠も持っていない」と話した。
また、台湾情勢については「習近平国家主席は人民解放軍に対し、2027年までに台湾侵攻の準備を整えるように指示したが、これは2027年やその他の年に侵攻することを決定したということを意味するものではない」と説明した。さらに「少なくとも私たちの判断では、習近平国家主席と軍指導部は(ウクライナの状況から)台湾侵攻を達成できるかどうか疑問を持っている」とも述べた。
バーンズ長官はかつてロシア大使を務めたことのある外交官だ。東アジア情勢では「前のめり」になりがちな米国世論を鎮めるかのような分析内容だったが、少しの変化で臨戦態勢に切り替わってしまうような緊張感の高い状況であることは確かなようだ。
「ニミッツ」だけでなく東アジア周辺での米軍の動きは活発だ。特にグアムは中国と対峙する新たな最前線となりつつある。1月には海兵隊として70年ぶりの新基地であるキャンプ・ブレイズが開設された。沖縄の基地移転をめぐる日米合意に基づいて建設されたもので、5000人の海兵隊員が沖縄から移ってくる形となった。グアムにはアンダーセン空軍基地など重要な米軍基地があり、中国のミサイルはグアムを射程圏内に置いている。米国の防衛専門家たちは、6年ほど前に中国が公表した新型ミサイルを「グアム・キラー」と呼ぶ。
東アジアの一員である日本よりも、米国の方が「緊迫した東アジア」を認識しているのかもしれない。東アジアは今、米国の愛国心をくすぐっている。
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