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5年後のM-1ファイナリストは彼らだ! 【関西編】

M-1グランプリ公式YouTube「8/24[大阪]天才ピアニスト/パーティパーティ/センリーズ【1回戦TOP3】」より

<濃密なお笑い語り本お笑いファン(鹿砦社)が好評発売中。ここでは、同誌に収められている話題の記事「5年後のM-1ファイナリストは彼らだ! 原石芸人青田買い」(文=田辺ユウキ)の一部を特別掲載します。なお本稿は、2022年11月末時点の情報をもとに執筆されていることを了承ください)

5年後のM-1ファイナリストは彼らだ! 原石芸人青田買い
「ネクスト見取り図」から異色キモ系までさすがの大阪

 5年後に『M-1』を狙える注目の若手」について語る——。 お笑いファンであれば何度か夢想したことがあるテーマだろう。 そんな本稿の大きなポイントは「5年後」というところだ。

 これがもし「3年後」であればパッと浮かんでくる。「大阪勢」 なら、ロングコートダディ(2009年結成)、ニッポンの社長( 2013年結成)という『M-1』『キングオブコント』 ですでに実績をのこしており、 現在のよしもと漫才劇場の看板でもある両コンビを筆頭とし、 さらにマユリカ(2011年結成)、コウテイ(2013年結成) 、カベポスター(2014年結成)、滝音(2016年結成)、 もも(2017年結成)などが有力候補になるだろう。

 ただ「5年後」となると話がガラッと変わってくる。 まずピックアップする芸人は、 芸歴的には現在5年目前後に絞られてくる(もちろん前述した「 3年後」の有力コンビも含まれる)。さらに「 劇場ライブへ足を運んでいるお笑いファンにはおなじみだけど、 バラエティ番組などメディア中心にお笑いの動向を追いかけている ファンにとってはあまり知られていない存在」 が今回の話題の鍵を握る。そこでよしもと勢で目を向けたいのは、 よしもと漫才劇場で芸歴9年目以下が出演しているライブイベント 『Kakeru 翔』の若手メンバーたちだ。

天才ピアニスト

 まず「3年後」と「5年後」 の境界線に立つほど実力をつけてきているのが、天才ピアニスト( 2016年結成)である。 上沼恵美子のモノマネで知られるようになった、ますみ。そして「 ○○やねぇ」という独特のイントネーションでツッコミをいれる、 竹内知咲。このところは、 ブレイクスルーとなったますみの上沼恵美子モノマネはほとんど見 ることはなくなった。本人たちも、 求められない限りは上沼モノマネを披露することはなく、 完全なるネタ勝負に打って出ている。そして今年、『THE W 2022』でみごと優勝に輝いた。

 筆者がかつてインタビューをおこなった際「まわりの若手を見て『 よくそんなに遊ぶ時間あるな』って思う」「 そんなにしょっちゅう、テーマパークへ遊びに行けるもんなん?」 と語っていたほど、笑いに打ち込んでいる。 あと彼女らを知る関係者からは、 毎月おこなっている単独ライブ当日、 移動時間もネタの練習をするために仕事先の京都から大阪までタク シーで移動していたというエピソードを聞いたことがある。 そういったストイックな姿勢が実を結んだのだろう。

 このところの天才ピアニストのネタは、いつ、 どこで観てもハズレなし。これはコントではあるが、 家庭内でのストレスを解消するためにVRの世界に浸って現実逃避 して擬似的な幸福生活を築くネタは隙がまったくなく、 とにかく圧巻だ。彼女たちに爆発力が加われば、「 女性コンビ初の『M-1』チャンピオン」も夢ではない。

ハイツ友の会

ハイツ友の会
M-1グランプリ公式YouTube「10/26[京都]ハイツ友の会/三遊間【3回戦全ネタ】」より

 同じく女性コンビであるハイツ友の会(2019年結成)も、 間違いなく数年以内に『M-1』で結果を出すはず。ネタ番組『 あらびき団』(TBS系)に出演するたびに、MCの東野幸治、 藤井隆から絶賛されているふたり。そのネタの中心を占めるのは、 女性目線による女性観、男性観である。「 なぜおっさんたちは電車内であんなに我がもの顔で過ごしているん だろう」と話したり、ほかにも「野球好きの男性」 がやけに多い理由について考えたり。「 他人に対して思っているみんなのモヤモヤや、 ちょっと言いたくなること」をポツポツと話していく。

 しかし、 どれも悪口や嫌味になっていないところがハイツ友の会のバランス の良さ。彼女たちの口ぶりにかかると、 他人のハナにつくような行動がどこかチャーミングに感じられたり 、仕方ないものとして諦めがついたりする。 メンバーの清水香奈芽、 西野はお互いネタ中に共感や理解を高め合っていき、 いつの間にか観客も「分かる、分かる」と頷くことに。

 あとネタ中の、低く、冷たく、 淡々としたテンションはハイツ友の会ならでは。 まるでドラマ化や映画化もされた漫画『セトウツミ』 みたいな世界観である。ちなみに『M-1』は、 2021年大会の錦鯉、インディアンスが顕著なように、 テレビ映えする高めなテンションの方がウケやすい。 そんな基軸があるなか、 ローテンション漫才のハイツ友の会が決勝まで勝ち残って評価され ることになれば、 お笑い界に新しいムーブメントが生まれるのではないだろうか。

ファンファーレと熱狂

ファンファーレと熱狂
M-1グランプリ公式YouTube「10/24[大阪]ファンファーレと熱狂/ネイビーズアフロ/なにわスワンキーズ」より

 「5年後」というテーマにぴったりなコンビは、 ファンファーレと熱狂(2019年結成)だ。 お笑いに詳しい業界関係者は、同コンビについて「 赤髪坊主のボケ役・こうちゃんは、 情緒不安定な陽キャみたいな見た目。 その印象をうまく使っている。 こういうキャラクターの人がネタ中『死にたい』 とか言うと笑えちゃうんだ、といろいろ発見がある。『 さっきまでの明るさはなんだったんだ』と。 以前までは王道系だったけど、 このところガラッと変わって良くなった」と絶賛する。

 たしかにこうちゃんはネタ中も「 自分は赤髪にこだわりを持っている」 と自信満々に言い放った矢先、相方・奥慎太郎から「ガッキー( 新垣結衣)に『黒にして』って言われたらどうする?」 と振られると、すぐに考えを改める。 そうやってこうちゃんは漫才中、とにかくグラグラに揺れまくる。 奥はやがて、そんなこうちゃんのやること、 なすことにしびれを切らすようにして、 キレ気味にツッコんでいく。そのツッコミの様子はどこか、 ブラックマヨネーズの小杉竜一を彷彿とさせる。 アクションが大きい漫才という点で、いかにも『M-1』 で好まれるスタイルである。

たくろう

たくろう
M-1グランプリ公式YouTube「8/12[大阪]たくろう/若葉のころ/牛ぺぺ【1回戦TOP3】」より

 たくろう(2016年結成)はネタがいずれもすばらしい。 喋り方、スピード感、間合いも頭に残りやすい。「5年後」 は必ず決勝まで進むはず。特におもしろいのが、「週刊誌の見出し」をふたりで考えるネタ。どんな単語でも冒頭に「夜の」とつければスキャンダラスに聞こえると言うのだが、赤木裕はズレた回答ばかり。きむらバンドからそのズレを指摘され、赤木がテンパリ気味になっていく展開に大笑いさせられる。

 あと刑事ドラマの登場人物になりきるネタも見事。急に物語の設定に入り込んでいくきむらバンドに対し、赤木は「ネタに巻き込まれた感」を全面に出していく。ネタをやる際の温度感の違いや、赤木の戸惑う様子が癖になる。

 赤木は、太眉、細身、レトロ系のファッション、そして漫才時の立ち姿などどれをとっても特徴的で、スター性も抜群。たどたどしくボケたり、ツッコんだりするその空気感にも引き込まれる。コンビとしては、とことん喋くりで攻める漫才スタイル。現在の若手のなかでは、喋り漫才という点では、たくろう、カベポスターが群を抜いているのではないか。

ダブルヒガシ

ダブルヒガシ
M-1グランプリ公式YouTube「11/15[大阪]ダブルヒガシ【準々決勝ネタ】」より

 前出の業界関係者が「5年後の『M-1』という点で、 リアルに一番、決勝進出の可能性が高い」 とプッシュするのがダブルヒガシ(2014年結成)。東良介、 大東翔生はともにイカつい風貌だが、 ネタ中はオラオラ系の雰囲気をどんどん崩していく。「漫才巧者」 であり、 豪快な見た目とは裏腹にかなり技巧的なところにギャップを感じさ せる。

 「理想の嫁姑の関係」のネタでは、嫁(東)が姑(大東) を長生きさせるために「養命酒のサーバー」を家に設置。 そこで繰り出される姑の「生き死ぬ=生きすぎて死ぬ」 というツッコミのワードは、流行語になってもおかしくない。

 ネタの多くは、 ふたりがボケを重ねあって笑いを膨らませていくパターン。 白スーツの大東はネタ中も積極的にキャラクターを押し通していく タイプだが、黒スーツでがっちり系の東は意外と物腰が柔らかい。 漫才中は、ふたりのポジショニングの妙が光る。

<このほか、将来有望として名前が上がった芸人は6組。続きは「お笑いファン」にてご確認ください>


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【目次】
お笑いとお好み焼き 大阪2大カルチャーの今と昔
【特別対談】吉本興業ホールディングス代表取締役会長・大﨑洋×千房株式会社代表取締役会長・中井政嗣

2022年「関西演芸しゃべくり話芸大賞」リポート

人気芸人の過去の発言を発掘!! お宝インタビュー!
ニューヨーク 2017年12月の談/2019年2月の談
空気階段 2018年2月の談/2019年10月の談

芸人が選ぶ「あの芸人のこのネタがすごい!」
漫才のアンタッチャブルが見せたコントの技術 馬鹿よ貴方は・新道竜巳
「欧米か」に込められたタカアンドトシ・トシの真髄 元ホーム・チーム・檜山豊

テレビだけが「笑い」じゃない
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5年後のM-1ファイナリストは彼らだ! 原石芸人青田買い
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田辺ユウキ(関西在住ライター)

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

Twitter:@tanabe_yuuki

田辺ユウキのプロフィール

たなべゆうき

最終更新:2023/03/03 18:00
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