植田和男日銀総裁候補、早々に金融政策変更に動くのではないか?
#日本銀行
次期日銀総裁候補者の植田和男氏に対する所信聴取が衆院で2月24日、参院で同27日に行われた。「現在の日銀の金融政策は適切」「金融緩和政策を継続する」との報道ばかりが目立つが、発言内容を検証すると、筆者は植田氏が総裁就任後、早い時期から金融政策の変更を行うと可能性が大きいと見ている。
植田氏の発言は慎重な言い回しを使い、「現在の日銀の金融政策を評価し、政府と協力して金融政策を継続する」とした点は、現在の金融政策を大きく変えると受け取られないように配慮したものだった。
だが、長期化している金融緩和政策に対しては「必要に応じて検証を行っていきたい」と述べ、消費者物価の安定的な2%上昇という目標を達成した場合には、「国債の大量購入は止める」と明言した。これは、日銀総裁として“金融政策の変更”を視野に臨む姿勢を示している。
日銀は22年12月に市場機能の回復に向け、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大したが、植田氏はこの長短金利操作の変更に対して、「さまざまな可能性が考えられる。具体的なオプションの是非については(発言を)控えたい」と述べている。
この「具体的なオプションの是非については(発言を)控えたい」とは具体的なオプションがあることへの裏返しでもあり、植田氏が金融政策変更に前向きなことは明らかだ。
ポイントは、植田氏が「消費者物価の安定的な2%上昇という目標」、つまり金融政策の変更の条件をどのように考えているのかという点。
物価上昇の認識について植田氏は、「消費者物価の上昇率は4%程度と目標とする2%よりも高くなっている。しかしその主因は、輸入物価上昇によるコストプッシュであって需要の強さによるものではない。こうしたコストプッシュ要因は、今後減衰していくとみられることから消費者物価の上昇率は23年度半ばにかけて2%を下回る水準に低下していく」としている。
これは、黒田東彦総裁が示す物価の現状認識とほぼ同様だ。
しかし、植田氏は「金融緩和を継続し、経済をしっかりと支えることで、企業は賃上げをできるような経済環境を整える必要がある」としている。
つまり、植田氏の目指す安定的な2%の物価上昇目標とは、物価上昇に加え、賃金上昇という軸足が加わっている。そのために「政府と密接に連携しながら、経済物価情勢に応じて適切な政策を行い、経済界の取り組みや政府の諸施策とも相まって、構造的に賃金が上がる状況をつくり上げる」ために、政府との協調が必要性だとしている。
この点から、植田氏が考える安定的な2%の物価上昇は、賃金上昇が大きな鍵を握っていると考えられる。これらの発言内容からは、植田氏の目指す安定的な2%の物価上昇の実現にはまだまだ時間がかかり、金融政策の変更は当分先のことと思えるかもしれない。だが、果たしてそうだろうか。
植田氏、黒田総裁が進める大規模金融緩和により、日銀が保有した巨額の国債とETF(上場投資信託)の処理について、国債については「売却するというオペレーションに至ることはないだろう」と明言している。
さらに、ETFの処理方法についても「今後どうしていくかは大問題。出口が近づいてくる場合は、具体的に考えていかないといけない」と述べ、処理に関する検討を示唆している。
日銀総裁は市場に影響を与えるような発言はしない。黒田総裁が巨額の保有国債の処理に対しては「問題ない」と発言し、ETFの処理については、検討は時期尚早」との発言を繰り返すことに比べれば、植田氏の発言は段違いに踏み込んだ発言だ。何しろ、巨額の国債保有は「売却しない」として、償還まで保有する姿勢を明確にし、ETFについては、「大問題とし、具体策を考える」としている。「時期尚早」を繰り返す黒田総裁とは大違いだ。
こうした植田氏の発言には、日銀総裁に就任後だと市場が大きく動揺する可能性があるため、総裁候補者の段階で発言することで、総裁就任後のための“地ならし”を行う意図があるのではないだろうか。つまり、植田氏は金融政策の変更に前向きに取り組んでいくことを示唆しているのだ。
となれば、植田氏は総裁就任後の早い次期から金融政策の変更に着手すると筆者は見ている。もっとも可能性が高いのは長短金利操作で、マイナス金利政策を止め、長期金利の変動許容幅を引き上げることだろう。すでに、22年12月に長期金利の変動許容幅を引き上げており、その点では手掛けやすいだろう。
筆者は植田氏が総裁に就任すれば、初の金融政策決定会合となる4月会合で、「長期金利の変動許容幅を引き上げ」というサプライズがあると予想している。
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