映画『少女は卒業しない』が描く青春の愛おしさ…『桐島』と共通する魅力
#映画 #ヒナタカ
2月23日より『少女は卒業しない』が公開されている。本作は朝井リョウの小説を原作にした高校を舞台にした青春群像劇であり、その時点で映画ファンから根強い支持を得る『桐島、部活やめるってよ』が好きな人におすすめできる。
しかも描かれるのは「キラキラしているばかりじゃない青春」でもあった。劇中のキャラクターと同年代の若者に観てほしいのはもちろん、同じような青春の記憶がある全ての大人にもきっと「届く」、切なくも愛おしい作品になっていた。さらなる映画の特徴と魅力を記していこう。
4人の少女たちの2日間の物語
本作が描いているのは「廃校が決まった高校での、4人の少女たちの卒業までの2日間の物語」だ。
東京への進学を決め、地元に残る彼氏との関係が気まずくなっているバスケ部長。中学校からの同級生に片思いをしていて、とあるトラブルに遭遇してしまう軽音楽部長。クラスになじめず図書室に通っていて、現代文の先生に淡い恋心を抱いている生徒。恋人にあることを伝えられずにいるも、卒業生代表の答辞を務めることになる生徒。それぞれが平静を保っているようで、内面では誰にも言えない悩みや葛藤を抱えている。
その悩みや葛藤が解消される、いや、「うやむや」になってしまうまでのタイムリミットまで、たったの2日しかない。卒業してしまえば、彼氏や、自分だけが想いを寄せている相手とは一旦は離れ離れになってしまう、いや、もしかすると二度と会えないのかもしれないのだから。
人生の節目に「別れ」はつきもの。本作ではその中でも多くの人が体験する「学校からの卒業」までの心理を、劇中の時間では2日間、映画の時間ではたったの2時間に「凝縮」させた映画とも言えるだろう。
あの頃、ここが世界のすべてだった
観た人それぞれが「自分に近い」立場の生徒に、かつて(今)の自分自身を照らし合わせて感情移入ができることが、本作の最大の魅力と言っていい。個人的には、図書館に通う少女の視点による、「学校になじめないままの生徒と、かつて学校になじめなかった先生」の対話が特に心に残った。
この2人は「はぐれもの」同士で意気投合している。学校になじめないことを自虐的に語り合っていても「今はそれでいい」と思えるほどに、とても心地良い場所にいる。だが、先生が他の生徒と話すためのとあるアドバイスをして、失敗してしまったりもする。しかし、その失敗もまた2人の関係を前進させるし、お互いの成長につながる。それからの少女の「自分の意志」による行動も、2日間しかない卒業までの学校の世界を「広げた」ような感覚も得られるようになっていた。
本作のキャッチコピーには、「あの頃、ここが世界のすべてだった」とある。劇中の生徒たちにとって(現実にいる多くの生徒も)、生活の大部分を占め、恋人や友達と会う場所である学校が「世界のすべて」だったのだろう。図書館に通う彼女にとっては、さらに狭く、想いを寄せる先生と会える「ここだけ」が、自分をさらけ出せる場所だったとも言える。
もちろん、「学校だけが世界のすべて」なんてことは、大人になってからみれば間違っている、もっと広い世界や社会があるんだと、笑って教えてあげたくなるものだろう。だが、彼女たちにとってはそうではなかった、それほどに切実な「事実」だったのだと、大人こそが振り返られるようになっていたのだ。
それでもやはり、学校だけが世界のすべてでは決してないし、そこからいつかは卒業しなければいけない。そのことが逆説的に「少女は卒業しない」というタイトルに込められていた。
なお、同様に学校だけが世界のすべてではない、他の選択肢もあるんだと諭しながらも、少年少女たちの心理に優しく寄り添う映画に、今もまだ一部の劇場で上映中のアニメ映画『かがみの孤城』がある。合わせて観てみるのも良いだろう。
監督が原作を読んで青ざめた理由、そして見事な再構成
脚本も務めた中川駿監督は、朝井リョウによる原作小説を最初に読んだ時に「若干青ざめた」という。何しろ、原作では7つのエピソードによる「連作」の短編小説であるため、その「直列」の時間の流れを、映画のために「並列」に再構成する必要があったという。さらに、細やかで複雑な心理描写や風景をそのままモノローグにすると説明過多になるため、言葉ではなく位置関係や動きを含めて映像全体で感情を表現できるように努めたそうだ。
結果として、7つのエピソードから4つを抜き出し、それぞれの視点を並行して語りつつ、観ていて混乱することのない構成になっていて、モノローグなしでも心理を見事に綴った内容になったのは見事と言う他ない。『桐島、部活やめるってよ』も原作から大きく構成が変わった映画だったが、またも「映画化のための工夫」が上手くいっているのだ。
さらに、『桐島、部活やめるってよ』との共通する映画ならではの魅力として、「今しかない」若手俳優たちのみずみずしさが、「本当に現実にいそう」と思えるほどに存在感のあるキャラクターに反映され、心の底から愛おしく思えることだろう。特に河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望の実質的に4人いる主人公それぞれを演じた、彼女たちの今後の活躍を追いたくなる方は、きっと多いはずだ。
「過剰な配慮」を描く『カランコエの花』
最後に、同じく中川駿監督・脚本の短編作品『カランコエの花』のことにも触れておこう。
こちらでは、高校のクラスで唐突に「LGBT(Q+)について」の授業が行われ、クラス内に「当事者がいるのではないか?」という噂が広まっていく過程が描かれていく。そこから、「過剰な配慮」は時に「無意識下に持っていた差別意識の表出」へとつながってしまうということを、残酷にも思い知らされる。
今田美桜が映画初主演を務めた作品でもあり、演出が時に台本なしの“即興”で行われたこともあって、俳優たちの演技が極めて自然に見えることも魅力的。悲しく切ない物語から、同年代の若者はもちろん、大人こそ学べることがあるのは、この『少女は卒業しない』に通じているので、ぜひ合わせて観てほしい。『カランコエの花』は現在U-NEXTで見放題だ。
『少女は卒業しない』
2023年2月23日(木・祝)新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
出演:河合優実 小野莉奈 小宮山莉渚 窪塚愛流 佐藤緋美 宇佐卓真 中井友望 藤原季節
監督・脚本:中川駿
原作:朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社文庫刊)
主題歌:みゆな「夢でも」(A.S.A.B)
配給:クロックワークス
2023年|日本|120分|シネマスコープ|5.1ch|G
C) 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会
『逆転のトライアングル』松本人志が撮るかもしれなかった「有害な男らしさ」
あ、これ「トカゲのおっさん」だ カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞、ゴールデングローブ賞作品賞・女優賞受賞、アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート(20...サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事