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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 葵揚の「執着しない」人生観
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葵揚、変幻自在な役者の「執着しない」人生観

撮影/永峰拓也

 2019年のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』で演技デビュー以来、現在放送中の朝ドラ『舞いあがれ!』などに出演、役者としてのキャリアを着実に歩む葵揚。

 ドラマや映画で、等身大の好青年役、どこか憎めないコミカルな役、暴力性を湛える狂気的な役……多様なキャラクターを演じ分ける葵だが、そのすべてに“葵揚”のエッセンスを感じ取ることができる。しなやかな魅力を持つ葵に、役者として、一個人としての人生観を話してもらった。

大学時代は尖っていたのかも


──本取材の撮影地となった西池袋は、葵さんが通われていた立教大学の所在地ですね。当時はどんな学生でしたか?

葵揚(以下、葵):大阪から上京したばかりの頃は変に尖っていたというか(笑)、周りとただ仲良くすることに対してポジティブではなかったですね。どちらかというと、自分の遊び場は自分で開拓したくて。

 僕は両親が台湾人なんですけど、高校生のときにいわゆる「華僑」と呼ばれる人たちが世界中から台湾に集まって旅行するというプログラムに参加したことがあって。上京したあとに、そこで出会った人たちがそれぞれの友達を紹介してくれて、遊びに連れて行ってくれたりしたんです。なので、年代もジャンルもバラバラの人たちと仲良くしていましたね。

 授業は真面目に受けていたんですけど、みんなのように要領よくカリキュラムを組むことができなくて……。誰も取っていないような授業を受けていました。東南アジアの食文化や、心理学の授業だったのですが、熱量のある学生だけが集まっていて、おもしろかったです。

──大学時代には、モデルとして活動をスタートして。

葵:東京で知り合った人に誘ってもらい、モデル事務所に所属していたことがあって。それが「人前で何かをするのが好きだな」と意識し始めるきっかけになりました。

 大学卒業後、知り合いのカメラマンのツテでたまたま現在の事務所に行くことになり、その場で面接を受けることになったんです。当時はモデルをやろうと思っていたので、まさか自分がお芝居の世界に飛び込むとは思ってもみなかったですけど。


──今では、最新出演映画『Sin Clock』(2月10日公開)で、主演の窪塚洋介さんとも共演される一役者に。窪塚さんには、もともとどんなイメージを抱いていらっしゃいましたか?

葵:やっぱり『池袋ウエストゲートパーク』のキングですよね。実際にお会いして思ったのは、キングをはじめ、窪塚さんがこれまで演じられてきた役柄のカリスマ性は、ご本人の素質がベースになっているということでした。誰にでもフレンドリーに話しかけられ、現場の空気を作ってくださって、だから慕われる。本当にいつも自然体でいらっしゃる方です。

「ものや人に執着しない」こと


──今回のインタビューは「ノワール(黒)」がテーマです。『Sin Clock』にもフィルム・ノワールの特徴となる退廃的な要素が見受けられました。これまで、順風満帆なキャリアを歩んでいらっしゃるようにも見える葵さんですが、やるせなさや鬱屈感を抱くこともあるのでしょうか。

葵:仏教系の高校に通っていたので、毎朝校庭に集まって般若心経を読誦して、黙想して、という修行のような日々をもともと過ごしていました。だからなのか、「ものや人に執着しない」ことを理想とする人生観を持っているところがあります。

 僕自身、どうにもできない過去に執着することで、そういう気持ちに侵食されていって、本来の自分を見失ってしまうことがすごく嫌なんです。ネガティブな感情からは意識的に距離を置いているというか、良くも悪くも、ひとつのことにこだわらない。悪いことが起こっても「これからどうするか」に目を向けて、なるべく感情的にならないようにしています。

──「本来の自分」を見失わないために、していることはありますか。

葵:理想は、朝起きたときの自分が“ゼロ”になっていることなんです。メンタル面でもそうですし、それはフィジカル面でも。心や身体に不調を残したままではなく、ちゃんと“ゼロ”でい続けるため、健康にも気を使いたいし、そこに最善を尽くしたいです。

──葵さんって、あまり怒ったりすることはないんですか?

Sマネージャー:何かハプニングが起こって、みんながビックリしていても、彼は反応が薄いですね。

葵:そうかも(笑)。もし今、すぐ隣で爆発が起こったとしても、あまり動じていない自分が想像できます。
 
 でも、この仕事をやっていく上では、そのままだと難しい場面もあります。映画やドラマを観ても起承転結があって、キャラクターの感情がわかりやすく動く作品が増えてきていて。もしも僕が登場人物だったら、観ている人にとっておもしろいことは何も起きないだろうなと思うんですよ。心の動きに、商業的な要素が何もないから(笑)。そういう自分が、どうやって人に何かを届けられるような表現ができるのかということを考えています。
 
 なので、この仕事を通して、いろんなキャラクターに寄り添っていくなかで、自分が知らなかった感情に出会えることは大きいですね。たとえ自分はそうではなくても、こういうふうな気持ちになる人もいるんだと知れることで、これまで出会ってきた人々のことも、可愛らしく見えてきたり、もっと愛せるようになったり。人をより好きになれる気がしています。

好きなんです、さつまいも

──お話を伺っていて、物事を批評的な視点で捉えていらっしゃる印象を受けます。

葵:一般的には正しいとされていることでも、常に「違う見方があるんじゃないか」ということは考えています。きっとそういうスタンスだから、大学生のときに周りが就活をしているなかで、僕は「自分がちゃんと納得していないことをやるのは違うんじゃないか」と感じていたのかもしれません。

──以前、インタビューで「役者だからどうとかっていうよりも、僕にとっては『どうやって生きていくか』が大切」、「俳優も生きるための生業って感じ」とおっしゃっていたのが印象的でした。こうした葵さんのしなやかな思考は、自分のあり方、考え方の確固としたベースがあって、そこをブレさせないように生きているからなのではないかと。

葵:「この仕事で一生食べていくんだ」と決めて実行することも、めちゃくちゃ素晴らしいことだと思うんです。でも僕は、「そうじゃない自分」の可能性を否定したくない。一度決めた道とは違う道を歩んでも、自分という存在に変わりはないし、それで別によくない? って。

──モデルや役者のフィールド以外でも、活躍の場が広がっていくのではないかという予感がします。最後に、いま一番興味がある分野があれば、お聞かせください。

葵:役者の道はもちろん追求しつつ、仕事以外でも、自分の可能性を探り続けたいですね。

 実は、今年から千葉の山のほうに畑を借りて、さつまいもを作ろうとしているんですよ。好きなんです、さつまいも。健康にもいいし、自分で作りたいなと思って。いつか自分で育てた農作物を使って、甘酒とか、お腹にやさしい加工食品を作れたらいいですね。

 そういえば、窪塚さんもご自身で「窪塚腸介」を名乗っているくらい腸を大事にされていて、「マジで腸、温めたほうがいいよ」と熱く語られていました。最近、僕も腸への興味が湧いてきて。いつか窪塚さんと“腸活トーク”をしたいですね。

 

 

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編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

すがわらしき

最終更新:2023/03/16 11:00
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