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大河ドラマを超える壮大なスケール…錯覚すら生むNHK版『大奥』の見事な展開

大河ドラマを超える壮大なスケール…錯覚すら生むNHK版『大奥』の見事な展開の画像1
番組公式サイト」より

 NHKで火曜夜10時から放送されている連続ドラマ『大奥』は、男女比が大きく逆転した江戸時代を舞台にした歴史改変SF時代劇だ。

 物語は徳川吉宗(冨永愛)の時代から始まり、大奥に奉公することを選んだ旗本の息子・水野祐之進(中島裕翔)の視点を通して、3000人の男たちが集う大奥の内幕を描いた後、時代は過去に遡っていく。

 一人の女将軍に従う大勢の男たちという逆ハーレム状態の大奥で繰り広げられるメロドラマが本作の面白さだが、設定の背景が緻密に作り込まれているため、荒唐無稽にならず、歴史ドラマとして説得力がある。

 本作の歴史は、田舎村で少年が赤面疱瘡(あかづらほうそう)に感染する場面から始まる。若い男にのみ感染し10人に8人は死んでしまう赤面疱瘡は、またたく間に全国に広がり、男の数は女の1/4に激減。その結果、労働の担い手は女となり、男は子種を持つ宝として大切に育てられるようになる。

 そして、江戸幕府の将軍職も三代将軍・徳川家光が赤面疱瘡で亡くなったことをきっかけに女性が担うようになるのだが、将軍は男の名で呼ばれ、外国に赤面疱瘡のことを知られないようにするため、日本は鎖国するようになる。

 この、江戸時代に実際に行われた鎖国をうまく物語に絡める展開が、実に見事である。男女の逆転以外は史実通りに展開されるため、実は本当の歴史はこうだったのではないかと錯覚しそうになる。

 第2話以降に展開される家光編では、女でありながら将軍となった家光(堀田真由)と、無理やり大奥に連れてこられて家光の側室にされた僧侶・有功(福士蒼汰)の哀しい恋が描かれる。

 同時に、赤面疱瘡によって変わっていく日本社会がじわじわと描かれるのだが、新型コロナウイルスによるパンデミックを経験した現在の視点から見ると、既視感を抱く場面が多い。

 また「女性が権力の頂点に立つ社会」を思考実験として見せていくのが本作の面白さだが、これが絵空事で終わらないのは、権力の都合で子どもを生むための道具にされて、好きな人との間に子どもが作れない男と女の哀しみがきちんと描かれているからだろう。

 この奇想天外なドラマの原作は、よしながふみの同名漫画(白泉社)。深夜ドラマ化され、話題となった『きのう何食べた?』(講談社)の作者としても知られているよしながは、男性同士の恋愛を描いたBL(ボーイズラブ)で高く評価された漫画家だ。この『大奥』も、カッコいい男たちがたくさん出てくる大奥を描きたいという「BL的欲望」が物語の推進力となっている。

 2004年から隔月刊誌『MERODY』(白泉社)で連載がスタートした本作は2021年まで掲載された全19巻の超大作となり、国内外の漫画賞、SF賞を受賞し高く評価された。メディア展開は、2010年から12年にかけてTBS系で映画化、ドラマ化が行われたが、当時は連載途中だったため、綱吉編までしか映像化されていなかった。

 今回のNHK版『大奥』は家光編からクライマックスとなる幕末まで描き切ることが決定しており、現在の放送が終わった後、秋クールに「医療編&幕末編」を描くSeason2が放送されることも決定している。

 大河ドラマを通して時代劇を作るノウハウが蓄積されているNHKが制作することもあってか、大奥の舞台となる江戸城のセットや俳優たちが纏う衣装は実に豪華絢爛。何より贅沢なのが役者の見せ方で、時代が数話で切り替わっていくため、主人公となる女将軍が次々と入れ替わっていく。

 ここまで、家光を堀田真由、綱吉を仲里依紗、そして吉宗を冨永愛が演じているのだが、「権力の頂点に立つ女将軍」という時代劇では描かれることのなかった女性を演じることで、今までの役にはなかった新しい魅力が見事に引き出されていた。

 すでに9代将軍・徳川家重を三浦透子が演じることが発表されているが、演技力に定評のある女優が次々と出演しているため「次はどの女優が将軍を演じるのか」と予想するのも楽しみである。

 最後に、この複雑で奥深い物語を見事に脚色したのが森下佳子。NHKでは戦国時代を舞台に女領主・井伊直虎(柴咲コウ)の半生を描いた大河ドラマ『おんな城主 直虎』を手がけているが、将軍という立場に置かれた女たちの生き様を描く『大奥』に、森下の作風は見事にハマっている。

 また、森下の出世作といえばSF時代劇の『JIN-仁-』(TBS系)である。現代の脳外科医が幕末にタイムスリップする『JIN-仁-』も、史実を下敷きにしたSF時代劇で『大奥』との共通点は多い。特に第2シーズンで描かれることになる、赤面疱瘡の治療法を求めて日本中の医師たちが奮闘する姿を描く「医療編」は『JIN-仁-』とも重なる要素が多いため、期待が高まる。

 とにかく見どころが多く、様々な視点から楽しめるのが『大奥』の魅力である。

 260余年にわたる架空の江戸時代の歴史を、歴代女将軍の物語を通してリレー形式で描く『大奥』は、大河ドラマを超える壮大なスケールの歴史ドラマだ。

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2023/03/01 12:49
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