スイスは永世中立国の地位を放棄するのか?ウクライナへ戦車輸出を模索の思惑
#スイス
スイスは永世中立国だから第一次、第二次大戦にも巻き込まれずに済んだと、中学校の世界史の授業で学んだ。
フランス革命とナポレオン戦争で荒廃したヨーロッパの立て直しと再編を話し合ったウィーン会議(1814~15年)でフランス、プロセイン、ロシア、英国から、スイスは永世中立を保証された。
英国のビルマ・マレーシアとフランスのインドシナという二国の植民地に挟まれた緩衝地域だったため、独立を維持し続けたシャム(タイ)王国同様、アルプスの小国スイスは強国フランスとオーストリアに挟まれた緩衝地域だったため、周辺諸国にとってもスイスが永世中立国でいるのは好都合だった。
ただ、この永世中立国を維持するための努力は並大抵のものではない。スイス市民権を持つ全ての男子に兵役義務を課す。身体検査に合格した20歳以上の男子は18~21週間の新兵訓練を受けた後は「予備役」となり、兵役義務終了の44歳まで3週間の再訓練に10回参加しなければならないという。人口約874万人(2022年現在)のスイスは、有事となれば48時間以内に40万人の予備役を動員するというから常在戦場の構えを備える。
ジョニー・ハリスが明かす37万4142ある地下壕、周辺国へのレオパルト2の供与
加えて、ヒトラーのナチス・ドイツがヨーロッパを席巻した1940年初頭までに完成したとされる地下壕が、スイスに鉄壁の国防体制を備えさせる。ナチスとムッソリーニ率いるイタリアからの侵略に備え、アルプスの山々をひたすら掘り続け、国中を要塞化したのだ。
映像作家のジョニー・ハリスは昨年12月、スイス中にある地下壕の様子を自身のYouTubeで紹介した。
そんな数ある地下壕の一つに、ウクライナが喉から手が欲しがる「レオパルト2」戦車が約100台保管されているという。
2月2日配信のブルームバーグの記事によると、スイス東部の山岳地帯にある地下壕に100台近い「レオパルト2・A4型戦車(レオパルト2)」が廃車になるべく保有されている。現在、スイス軍はレオパルド2を約300両保有しているので、ほぼ全体の3分の1にあたる車両が稼働もされず、廃車を待つ状態となっているのだ。
不要になった戦車とはいえ、流石に永世中立国たるスイスがウクライナに直接、戦車を供与する訳にはいかない。主流派の政治家たちはポーランド、スロバキア、チェコに安価で売り渡す方法を模索している。これら3国がウクライナに供与する戦車に代えて、スイスで不要になったレオパルト2戦車を売り込むのだ。
3国へのレオパルト2戦車の売り込みを提案した、中道で企業寄り政党の「スイス自由民主党・リベラル(FDP)」のマヤ・リニカー議員は「(ウクライナ)戦争はスイスの議論の中身を変えてしまった。スイスの中立性を放棄することはできないが、スイスと同じ民主主義の価値観を持つ国々を支援するために、どのような可能性があるのかを話し合う必要がある」とブルームバーグの取材に述べている。
今回の提案はウクライナに直接、戦車を供与するものではない。供与先のポーランド、スロバキア、チェコを経由してウクライナへの戦車の再輸出を意図している訳でもない。グレイゾーンながら、スイスの中立性はかろうじて保たれているように見えるが、「中立性」の担保の観点から疑問視する声も上がっている。
EUの対ロシア経済制裁と足並みを揃えるスイス
永世中立国であるはずのスイスは、ウクライナ戦争後のロシアへの経済制裁では、自らは加盟していない欧州連合(EU)とほぼ足並みを揃えている。昨年12月3日付の共同通信の記事によると、スイス政府は11月25日時点で金融資産75億スイスフラン(約1兆877億円)、不動産15物件を凍結した。こうしたことをもって、すでにスイスは永世中立国としての地位を放棄したとする声もある。
一方で、2月12日付の米CNNの報道によると、スイス政府はスイス製対空砲のウクライナへの再輸出を求めるスペイン政府の要請を却下した。スイスには、同国製の兵器や他の戦争物資の再輸出を厳しく制限する連邦法があるためだ。
スイスの国会では現在、ドイツ、スペイン、デンマークがスイス製の弾薬をウクライナの戦線に送れるよう、同法の規定を緩和させるための法案が審議されている。
こうした動きに、国内最大の政治勢力で右派ポピュリスト政党、スイス国民党(SVP)の院内総務、トーマス・エスキは「スイスの中立性を侵害する全ての取り組みを阻止する」と同法案及びレオパルト2のポーランド、スロバキア、チェコへの代替供与を提案する法案を否決すると息巻く。
ナチス・ドイツの侵攻と、その後の冷戦の核戦争の脅威などに備え増築され続けたスイス国内の地下壕は37万4142を数える。一部は冷戦終了後、使用されなくなった。風変わりな観光ホテルに姿を変えたものもある。ロシアによるウクライナ侵攻後、これら一度は遺棄された地下壕を再利用する動きが広がっているという。
地下壕の再利用に、国是である永世中立国の放棄に繋がりかねない法案の提出など、ウクライナ戦争はウィーン会議後、200年以上にわたり国の枠組みを頑なに守ってきたスイスすらも、大きく変容させようとしている。
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