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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『舞いあがれ!』秋月の“推し”への苦しい恋
朝ドラWATCHコラム『舞いあがれ!』第20週

『舞いあがれ!』“推し”の幸せを願って奔走する秋月に自分を重ねる(第20週)

『舞いあがれ!』“推し”の幸せを願って奔走する秋月に自分を重ねる(第20週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 「よかったねえ」のひとことに尽きるこの週。これ以上何を言うことがあるのか、という気もするんですが、感動の涙を拭いて振り返ります。

 貴司(赤楚衛二)の古本屋デラシネには、編集者・リュー北條(川島潤哉)に加えて、自称ファン1号の秋月史子(八木莉可子)が出入りするように。北條と秋月の2人に挟まれた貴司は、虎とライオンに見つめられた小鹿のよう。「売れる歌を書いてよ」と迫る北條と「先生の歌はそんなんじゃないんです!」と立ち塞がる秋月さんは、争う勢いで貴司を踏み潰してしまいそう。

 しかし秋月さんの、「恋のライバル」とおでこに貼られているかのような数々の行動はすごかった。貴司への気持ちを隠しているけどバレバレな舞ちゃん(福原遥)に「先生のそばにおること、悪く思わんといてくださいね」とわざわざ言うなんて、正直「きゃー、何それ、このまま公園に埋めちゃいたいー」くらいに思ってました。貴司への「先生は私と同じ孤独な人」という思い込みとか、いつのまにかデラシネの店番したり、うめづに出入りしたりとか、超こわかったし。こんなストーカーっぽい人が来ても、貴司にはデラシネがあるから逃げられないんですよね。元オーナーの八木さん(又吉直樹)は、こんなふうに店に縛られたくなくて去ったのかも。

 最初は「こういう人嫌い!」とぷんぷんしながら秋月さんを見ていたんですが、ある時突然「あれ、これは自分では……?」と頭を叩かれたような気持ちになりました。「推し」のことを「こんな人に違いない!」と自分の脳内で決めつけ、その人の幸せのためにと行動しながら、本当は相手が自分を好きでもなんでもないと気づいている。秋月さんにストーカーめいたおせっかいをされて貴司くんが苦しげに笑うたびに、「私もこんなふうかも」と、自分の暗部を見せられているような。迷惑だとわかっていても好きな気持ちをどうにもできない秋月さん。彼女を嫌うこと自体が私自身を嫌いだと言うようなもので、週の後半はつらかったなあ。

 だから「私のほうが短歌も貴司も理解してる」という秋月さんの自信が逆に「短歌を知っているがゆえに本歌取りに気づき、秘められた貴司の恋心にも気づいてしまう」という結末に向かうところは、その残酷さに胸が苦しくなると同時に、これでやっと苦しい恋から救われるという、ホッとした気持ちにもなりました。貴司と自分を同一視することをやめて「私は私の歌を詠んで生きる」と決意した秋月さん、きっといい歌人になる。いつかリュー北條が、彼女の歌集を出してくれたらいいな。彼ならいい本を作ってくれるはず。

 今週、最初は嫌味な編集者だと思っていたリュー北條のこともとても好きになりました。自分の殻をやぶれない貴司に強い言葉をぶつけて立ち去ったのに、やけ酒飲んで酔ってデラシネに戻ってくる不器用さ。東京から何度も東大阪へ通うくらい貴司の短歌を評価してるのに、このままでは彼の初めての歌集が売れないことがわかっているから、もどかしくて悔しいんですよね。小鹿な貴司を食べちゃう虎とライオンだと思っていた北條と秋月さんは、実際には優しく(でもないか)彼と舞ちゃんの背中を押してくれる人たちだった。

 もらった歌の意味を秋月さんから教えられた舞ちゃんが、貴司から受け取った歌をひとつずつ思い出し、それから貴司のこれまでのまなざしを思い出し、最後に窓から星を見ていた幼いふたりのことを思い出して気持ちがあふれて部屋を飛び出すシーン、美しかったですね。「一瞬が永遠になるんやんな」という舞ちゃんの言葉と「一生かけて君を知りたい」という貴司の短歌が響きあって、とうとうふたりは恋人に。不幸なことばかり起こる場所だった柏木公園(仮名)の呪いも解けたようで、ほっとしました。あと、公園の向こうに見える「テナント募集」の貼り紙が何年もそのままなのがずっと気になっているので、そちらの呪いも解けてお店が入るといいな。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:福原遥、高橋克典、永作博美、横山裕、高畑淳子、赤楚衛二、山下美月、山口智充、くわばたりえほか
作:桑原亮⼦、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number「アイラブユー」
語り:さだまさし
制作統括:熊野律時、管原浩
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐
プロデューサー:上杉忠嗣、三鬼一希、結城崇史
広報プロデューサー:堀之内礼二郎、齋藤明日香
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/maiagare

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/20 06:00
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