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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 松本人志「有害な男らしさ」
稲田豊史の「さよならシネマ」

『逆転のトライアングル』松本人志が撮るかもしれなかった「有害な男らしさ」

オストルンド作品の『ごっつええ感じ』み

 オストルンドの前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、現代美術館のキュレーターとして社会的地位のある男・クリスティアンがスマホを盗まれたことをきっかけに、次々と理不尽な不運に見舞われる物語だ。

※『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare

 ストーリーの肝はまさしく、姑息で惨めなクリスティアン(=トカゲのおっさん)の観察記。プライドは高い、しかし器は小さい。彼の被る不幸が、彼の人間としてのしょうもなさを残酷にあぶり出してゆく。

 同作はまた、「気まずさ」「ばつの悪さ」「白けた空気」「居心地の悪さ」「ドン引き」「不条理」といった状況を、矢継ぎ早に提示する。それを笑えばいいのか、不快だとして眉を潜めればいいのかは観客の自由。笑えば不謹慎だが、不快だと感じるのは自分に鑑賞リテラシーが足りないのかもしれない。そもそもこの映画はブラック・コメディなのか、社会派ドラマなのか? そういった観客側に湧き上がる戸惑いも含めて、『ごっつええ感じ』のある種のコントを観たときの気分に近い印象が、同作にはあった。

 オストルンドの前々作『フレンチアルプスで起きたこと』(14)には、さらに輪をかけた“トカゲのおっさんみ”がある。

※『フレンチアルプスで起きたこと』
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare

 スキー旅行でフレンチアルプスの高級ホテルに宿泊している裕福な4人家族。滞在2日目、一家がレストランの屋外デッキで食事をしていると、雪崩が発生する。実は人工雪崩の雪煙がやや派手に舞っただけで客は全員無事だったが、父親にして家長のトマスは雪崩発生の瞬間、妻や子供たちを守らず一人で一目散に逃げてしまっていた。目の前でそれを目撃し、大きな不信感を抱いた妻と子供たちとの地獄の4日間が描かれる。

 ここでの「トカゲのおっさん」としてのトマスは、妻からいくら責められようとも、自分がヘタレで逃げたという事実をどうしても認められない。認めたくない。言葉巧みに責任回避し、保身に走る。ひとこと謝罪すればいいものを、それはできない。 謝るのは、旧来的な“男らしさ”から外れる行為だという考えにとらわれているからだ。完全に「謝ったら死ぬ病」にかかっている。

 最終的には「被害者は君だけじゃない、僕もだ」と謎の論理を振りかざして、自分のプライドを守ることに専心するが、とてつもなく惨めでみっともない。その態度こそ、彼が守ろうとしているカギカッコ付きの”男らしさ”の対極にあることに、絶望的に気づいていない。

『フレンチアルプスで起きたこと』は『ごっつええ感じ』みも強い。

 ついさっきまで意気揚々だった人間が急速に「萎える」感じ。痛いところを突かれるも、苦し紛れに弁解する惨めな男の様子。『ごっつええ感じ』が様々なコントで精密に再現しようとした「滑稽なほどばつの悪い状況」が思い起こされる。

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