『怪盗グルー』が仕掛けたディズニーではできなかったこと
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『ミニオンズ』ヒットを受けてディズニーも悪役主役作を続々
『怪盗グルーの月泥棒』は、ディズニーの実写映画『クール・ランニング』『天使にラブ・ソングを2』のエグゼクティブ・プロデューサーだったクリス・メレダンドリが創設した、イルミネーション・エンターテイメント(現イルミネーション)の長編第一作。監督のピエール・コフィンとクリス・ルノーは、ディズニーでアニメをつくっていたスタッフだ。
製作総指揮のセルジオ・パブロスは子供たちと映画を観に行って、子供が悪党のキャラクターを好んでいるのを見て、悪役を主役にしたアイデアを思いつく。これが『怪盗グルーの月泥棒』の原型となった。
こうしてイルミネーションはディズニーではできない、やらないであろう悪役が活躍するアニメの制作に挑む。ディズニーができない、やらないアニメとは何か?
ディズニーのみならず、勧善懲悪な作品の多くは、正義の側に悪党がやっつけられる様を描くが、だからといって常に正義が主役とは限らない。悪役こそが主役ではないのか?
ヒーローショーを手掛ける株式会社・悪の秘密結社は、その名の通り悪役キャラクターの専門会社で、同社がプロデュースする九州のローカルヒーローが登場する特撮テレビ番組『ドゲンジャーズ』シリーズではヒーローを押しのけて悪役が活躍している。魅力ある悪役は時に、正義の側を凌ぐ人気を博することがあるのだ。悪がいなければ正義も存在しない。
悪役を主役にする、非ディズニー的作品に挑んだイルミネーションの賭けは大成功。製作費6900万ドルの小作品は、世界中で5億ドルを稼ぎ出した。この大ヒットでイルミネーションは、ディズニーやピクサーに匹敵するアニメーションスタジオに成長する。
イルミネーションの成功は、興行というビジネス以上のものを業界にもたらした。なにしろ当のディズニーが『眠れる森の美女』の悪役をメインに張った『マレフィセント』『101匹わんちゃん』の悪女をタイトルロールにした『クルエラ』、ディズニー悪役たちの子供が出てくる連続ドラマ『ディセンダント』といった悪役を主役にした作品をリリースするようになったのだから! 絶対、『怪盗グルーの月泥棒』の影響だよね?
もちろん『怪盗グルーの月泥棒』には悪と正義を逆転させただけではない魅力もある。
グルーは悪党で子供嫌い、施設から引き取った三姉妹を月泥棒のために利用しようとしているだけだが、懐かれると情にほだされて三姉妹との生活を楽しむようになる。せがまれて遊園地に連れていき、三姉妹が射的ゲームの兄ちゃんが嫌味で景品を渡さないとなると、立腹したグルーは大火力の銃でゲーム場ごと吹っ飛ばす! 大喜びの三姉妹にグルーは、まんざらでない笑顔を見せるのだった。
子供のころグルーは母親に甘えて、認められて、褒めてほしかったのにそっけなく扱われてしまったことがトラウマになっていて、親の愛情を得られずに育った三姉妹を捨て置くことができない。子分であるミニオンズも自分の子供のように接するときがある。
グルーのライバルになるヘクターの父親は悪党銀行のパーキンス氏で、彼もまた父親からの愛情を求めて悪事に走る。これは人の子と親の愛にまつわる物語なのだ。そりゃ親子連れが映画館に押し寄せちゃうよ。
アラフィフで独り者の筆者ですら、人の愛って素敵だなと思ったぐらい。よし、明日から心を入れ替えて悪事を働くぞ! って違う、そうじゃない。
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