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ロシア人妊婦がアルゼンチンに殺到の危うい事情…裏で犯罪組織が跋扈

ロシア人妊婦がアルゼンチンに殺到の危うい事情…裏で犯罪組織が跋扈の画像1
エセイサ国際空港(「Wikipedia」より)

 南米アルゼンチンに、妊娠したロシア人女性が続々と入国している。アルゼンチンで出産すれば生まれた子供にはアルゼンチン国籍が与えられ、両親も永住権、国籍の入手が容易になるためだ。「住みにくいロシア」から脱出するロシア人の逃避先になっているが、背後にロシアの犯罪組織がいるとして、アルゼンチン当局が取り締まりに乗り出した。

 2月9日午後8時前、ブエノスアイレスの空の玄関エセイサ国際空港に、エチオピア航空506便が定刻を少し遅れて到着した。エチオピア・アジスアベバを飛び立ち、経由地のブラジル・サンパウロでの駐機時間を含め約16時間の旅だった。ビジネスクラス24席、エコノミークラス246席のボーイング787-800型機の中は、独特な雰囲気だった。妊娠32~34週目で、いつ出産のタイミングがきてもおかしくない33人のロシア人女性が搭乗していたのだ。

 33人はいずれも観光目的でアルゼンチンに入国しようとしたが、アルゼンチンの入国管理局はこのうちの3人の身柄を拘束した。3人は出産のために訪れたことを認めたため、「入国の目的に偽りがある」と判断された。入国管理局はこの前日にも、同様の理由で妊娠したロシア人女性3人を拘束していた。

 時を同じくして、アルゼンチン連邦警察は9日以降、入国したロシア人が滞在するホテルや宿泊施設などを家宅捜索した。ロシア人の動向を確認するためだが、面会などをした約30人のロシア人のうち、入国時に届け出た宿泊場所にいたのは8人に留まったという。

 アルゼンチン当局によると、昨年、観光目的でアルゼンチンに入国したロシア人は2万1757人だった。このうち妊娠した女性は1万500人にのぼったが、そのうちの5819人は10~12月に入国していた。アルゼンチン当局の取り締まりは、ここ数カ月で急増するロシア人妊婦の背後にある犯罪組織を摘発するためだ。

 アルゼンチンは米国同様、国籍については「出生地主義」だ。アルゼンチンで生まれれば、その子にアルゼンチン国籍が与えられる。同時に両親もアルゼンチンの永住権や国籍を得やすくなる。このため、アルゼンチンで出産を希望するロシア人女性は以前から少なからずいた。ロシアによるウクライナ侵攻で、その需要は急増した。

 国際社会によるロシアへの制裁で、ロシア人がビザなしで渡航できる国は87カ国となっている。アルゼンチンのパスポートならビザなしで渡航できるのは171カ国ある。プーチン大統領の「独裁体制」に苦しめられ、「ロシアは住みにくい」と考えて国脱出を希望するロシア人にとってみれば、喉から手がでるほど欲しいパスポートだ。

 子供を生んでアルゼンチンに留まるというだけでなく、アルゼンチンのパスポートを入手して世界最大の経済大国の米国に行くことを企てるロシア人が、こぞってアルゼンチンに向かうようになった。

 出産のためのパッケージツアーを企画する企業も以前から存在している。ツアー料金は「エコノミークラス」で5000ドル(約66万円)から、「ファーストクラス」で1万5000ドル(約199万円)からというのが、だいたいの相場だというが、儲けの多いこの業界にロシアの犯罪組織が入り込んでいるという。入国のための偽の書類を用意し、滞在先や出産場所を違法に手配し、高額の料金(3万5000ドル=約465万円)を徴収する。

 これだけの金額を簡単に用意できるロシア人は少なく、国を捨てるために借金まみれになるロシア人が多数生まれていると考えられている。

 アルゼンチン連邦警察による今回の家宅捜索は、ブエノスアイレスの高級ホテルが立ち並ぶプエルト・マデロ地区でも行われ、多数のパソコンや巨額の現金が押収された。

 また警察当局は、こうしたロシア人の流れに紛れてロシアのスパイがアルゼンチン国内に潜入している可能性があるとみており、安全保障上の観点からも重大な事件に発展しそうだ。

 アルゼンチンの隣国ウルグアイでは昨年9月、元警察官で現役の大統領警備の責任者がロシア絡みの偽パスポート製造に関与していたとして訴追された。ロシア人の南米への移動の流れには、犯罪と陰謀の影が付きまとう。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

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最終更新:2023/02/18 07:00
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