『罠の戦争』草彅剛がやっていた“NG行為”とは?選挙シーンにツッコミ続出
#草彅剛 #罠の戦争
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
前回もお伝えした通り、国会を舞台にした草彅剛さん主演のドラマ『罠の戦争』(フジテレビ系)は永田町でも大人気なのですが、2月13日放送回も見応えがありましたね。
おかげで、世代が違う大先輩や大学生のインターン(国会議員秘書の就業体験をしている人たち)ともスムーズにコミュニケーションが取れるようになりました。初対面でも、「『罠の戦争』ご覧になってます?」でだいたいオーケーなんです。すごいですよね。
『罠の戦争』で気になったアレ
2月13日放送回は総選挙がテーマでしたが、ちょっといろいろがっかりしてしまいました。調べてみたら関西の議員事務所が監修しているそうです。それも、選挙に詳しくない秘書が窓口だったんです。納得です。
リアルな選挙戦は、まさに「戦争」なのです。街頭宣伝車は「戦車」、スタッフは「兵隊」と呼ばれ、選挙対策事務所は「選対」転じて「戦隊」なのです。枚数や種類が決められている、有権者のみなさまに配布するチラシが「弾(タマ)」と表現されることもあります。
スタッフが足りない時は「兵隊が足りない」、チラシが足りない時は「タマが足りない」などと言うのです。ちょっと戦争色が強すぎるので、ドラマなどには使えないのでしょうか。豆知識ということでご了承ください。
ここでちょっと、ドラマで気になったことを書いちゃいますね(笑)。
劇中では、選挙期間中に選挙事務所で選挙ハガキを封入する作業をしていましたが、これは「落選確実」の事務所が行うことです。選挙ハガキは推薦ハガキとも呼ばれ、「私は○○候補を推薦します」と書かれた候補者の写真入りハガキを友人や知人宛てに送付するものです。比例重複の場合は追加もできますが、衆議院の場合3万5000枚まで認められています。
それぞれの選挙事務所で取りまとめて指定された郵便局から発送しますが、自分で切手を貼ってポストに入れてしまうと選挙違反になります。公示後では遅いので、事務所では普段から支援者のみなさんにお願いして、推薦したい方の住所と氏名をあらかじめ記入して、持ってきてもらうのです。そして、選挙が始まったら何回かに分けて郵便局に持ち込みます。期日前投票が一般的になった昨今では、選挙開始からの1週間で郵便局に持ち込むことが多いです。選挙期間中にのんきに選挙事務所で封入作業なんて、ありえません。
連続当選している議員の事務所でも、選挙ハガキは選挙が始まるまでにバッチリ取りまとめています。むしろ、そういう準備をしっかりできるから連続当選が可能ともいえますね。
もし神澤がドラマの監修をするなら、ビラに「証紙」を一枚一枚ペタペタと一生懸命貼っている作業のシーンを入れるでしょうね。ビラも配布できる枚数が決まっていて、選挙管理委員会から渡されるシール(証紙)を貼らなくてはなりません。衆議院なら7万枚のビラにシールを貼っていくのですが、このシールがものすごく台紙から剥がしにくいんです。機械化できないようにしているんですよ。イジワルというか、公平に手作業で行わせるためなんでしょうね。よほどの大物議員でもない限り、この作業をしてくださる方たちを集めるのに苦労します。下請けにお願いすることもありますが、やはり、みんなでこの作業をすることができる規模があるかどうかが勝敗を左右すると思います。
新聞の折り込み用のビラにも証紙を貼りますから、証紙は届き次第作業開始となります。この涙ぐましい苦労を、ぜひ取り上げていただきたかったです。
選挙という「戦争」に迫ってほしかった……
しつこいですが、もう少し挙げさせてください(笑)。
選挙事務所には「七つ道具」と呼ばれるものが必要です。具体的には、選挙事務所の標札、選挙運動用自動車・船舶表示板、選挙運動用拡声機表示板、自動車・船舶乗車船用腕章、街頭演説用標旗、街頭演説用腕章、個人演説会用立札などです。これらの表示がなければ、選挙運動はできません。
ドラマでは、事務局長らしいスタッフが選管から渡されるもの一式(証紙と七つ道具)を段ボールに入れて、草彅さん演じる新人候補の事務所に運んでいましたが、これもありえないです。事務局長は事務所の中でいわゆる「兵隊」たちに指令を出す立場ですし、新人で苦戦するはずの候補者が、道具が届くまで事務所でぼんやり待っていたら大変ですよ。もし神澤がこの選対に駆り出されていたら、「よほど余裕のある選挙なんですね」と嫌味を言いたくなると思います。
選挙戦初日には選挙管理事務所に数名のスタッフが赴いて届け出書類一式を受理してもらうのですが、その順番は抽選で決められます。手続きが終わり次第、事務所に戻って作業を始められるので、順番は早い方がいいです。また、一般的に番号が早い方が公営掲示板の位置が良いので、「1番」だと、それだけで勢いが出ます。
さらに、草彅さん演じる候補は新人なのに車の後部座席で手を振るだけというのも、いただけません。候補者は街宣車には乗らず、駅前などでひたすら有権者と握手するのが今までのやり方でした。コロナ禍の今は握手はムリなので、むしろネット配信の「動画対決」みたいなのをやってほしかったですね。今時の議員はみんな、ネット戦略にも力を入れていますよ。
タイトルに「戦争」がついているのですから、永田町の戦争である選挙はもっとリアリティのある描写にしてほしかったです。これらの指摘事項からもおわかりの通り、必死で勝とうとしている気概が感じられませんでしたもんね。苦労して勝ち取った「当選」という勝利は自然と涙がこぼれますが、今回のドラマではあっけなく当確が出て、その感動はありませんでした。
選挙戦略の工夫や苦労が描かれなかったことで、500万円のグレーなお金が勝敗を決めたの? と視聴者に思われないか心配です。とはいえ、毎回「敵」が変わっていく脚本の手法には脱帽です。ほんと素晴らしい構成ですから、次回は楽しみにしています。
スパイの話も出てきましたが、永田町ではよくあることです。もっとも、あんなバレバレでは危機管理がなってないと言われてしまいますよ。密談はちゃんと密室でします。
あと、刑事さんたちが突然来て強制捜査も、まずないです。選挙違反の捜査は各都道府県警の警察が隠れて撮影するなどして証拠を集め、選挙後に捜査します。
「当落と捜査対象には関係がある」というのは本当ですが、パトカーが来ることはないです。よほど悪質な事案でないと逮捕されることはないので、パトカーが選挙事務所周辺をうろうろしたりはしません。当落が決まった月曜日の早朝に一斉にスタッフを連行し、外堀から埋めていくのが選挙違反の捜査の一般的なやり方なのです。
しかも、お金が絡む事件以外では捜査されないと言われています。中には、注意されるだけだからと、選挙違反をどんどんする陣営もいます。こういうルール違反は見逃してはいけないです。警察も、もっと選挙違反事案に人員を投入してほしいです。
『罠の戦争』より人気だった『代議士の妻たち』
国会を舞台にしたテレビドラマはあまりないのですが、先輩議員によると、『罠の戦争』より1980年代のテレビドラマ『代議士の妻たち』の方がいろいろすごかったそうです。残念ながらネットでも見られないのですが、家田荘子さんの原作は古書店では買えるようです。これは1986年に「週刊文春」に連載されたノンフィクションで、ドラマは1988年4月4日か5月23日までTBS系で放送されています。
当時の永田町内の視聴率はほぼ100%だったそうで、続編も人気でした。出演は大原麗子さんや賀来千香子さん、岩下志麻さんなど豪華なメンバーで、放送の翌日の永田町は盛り上がっていたのでしょう。
原作は読んでみたいと思いますが、ネットで見つけた目次には、海部俊樹代議士(のちに総理)の幸世夫人、内閣官房長官や副総理などを歴任した後藤田正晴議員の侑子夫人、さらには鈴木宗男議員の典子夫人、フィリピンのフェルディナンド・マルコス元大統領のイメルダ夫人など、ドラマに劣らない顔ぶれが並んでいます。今の若い人は知らない名前だと思いますが、新人時代の神澤は、これらの議員のみなさんの活躍を身近で拝見していました。
鈴木議員を除いて引退され、亡くなられている方も多いですし、選挙制度も今の小選挙区ではなく中選挙区ですから、いろいろ違うところもありますが、おもしろそうです。ドラマをきっかけに、みなさんが政治に興味を持っていただけたらうれしいです。
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