大学院生の奨学金実態調査で浮き彫りになった経済的負担と博士課程断念の理由
#鷲尾香一
日本の大学院生の約3分の1が返済義務のある奨学金・借入金を背負っており、借入金のある大学院生の半数近くが300万円以上の借入金を抱えていることが明らかになった。
科学技術・学術政策研究所は1月31日、「修士課程(6年制学科を含む)在籍者を起点とした追跡調査」を公表した。https://www.nistep.go.jp/archives/53896
この調査は21年度に大学院の修士課程を修了者及び修了予定者を対象に実施されたもので、1万7525人から回答を得た。
調査結果によると、返済義務のある奨学金・借入金に関して「借入金がある」と回答した大学院生は全体の33.7%に上った。学生分類別では一般の課程学生が43.6%と最も高く、続いて 医学部・薬学部などの6年制学生が30.4%、社会人学生が16.2%、外国人学生が6.4%の順となった。(表1)
驚くべきは、「借入金がある」と回答した大学院生の借入金総額だ。全体の45.2%が300 万円以上の借入金があると回答している。借入金が200万円以上300万円未満も31.0%に上り、借入金を抱える大学院生の8割近い76.2%が200万円以上の借入金がある。(表2)
借入金のある大学院生の借入金額を学生類型別で見ると、何と医学部・薬学部などの6年制学生の85.6%が300万円以上と回答している。また、課程学生の37.3%、社会人学生の28.5%、外国人学生の23.3%が300万円以上と回答している。
課程学生では、200万円以上250万円未満が33.0%もおり、200万円以上の借入金がある課程学生は74.3%にも上っている。半面、外国人学生では50万円未満が32.6%ともっとも多くなっている。(表3)
こうした学生類型別の借入金の多寡の背景には、在籍中の授業料減免措置が大きく関係している。全体の約2割とる 21.2%が授業料の減免措置を受けているが、学生類型別で見ると、授業料の減免措置を受けているのは課程学生の18.2%、社会人学生の12.3%、6年制学生の11.5%なのに対して、外国人学生は62.5%と半数以上に上っている。
授業料免除額としては、全体では「50万円以上70万円未満」が21.0%と最も多く、次いで「30万円未満」が20.2%、「120万円以上」が19.2%の順となっている。ただ、医学部・薬学部などの6年制学生では「120万円以上」が61.0%に上っている。
こうした大きな経済的負担が、修士課程修了後の博士課程進学への障害になっていることは明らかだ。博士課程への進学は全体では9.6%にとどまっており、特に6年制学では2.2%と低い。半面、外国人学生では19.2%が博士課程へ進学している。
修士課程修了後に就職する割合は、全体で65.5%に上り、課程学生では80.7%と高い。博士課程への進学ではなく就職を選択した理由(複数回答)では、「経済的に自立したい」が66.2%を占め、「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」も38.4%に上り、経済的な理由により博士課程への進学を断念した姿が浮き彫りになっている。また、「社会に出て仕事がしたい」も59.9%を占めているが、これも背景には経済的な問題があるものと思われる。
博士課程の魅力を高め、博士課程進学者を増加させるために効果的な施策について尋ねたところ、「博士後期課程での給与支給」が75.1%と圧倒的な多数を占め、次いで、「産業界における博士取得者に対する給与等処遇改善」が65.5%となっており、博士課程への進学者増加には経済的な問題の解決が不可欠なことが浮き彫りになっている。
00年には16.7%だった博士課程への進学率は、21年には9.7%にまで低下が続いている。世界の大学ランキングでも、日本の大学はランキングの低下が進んでいる。大学における研究は国の技術基盤、経済基盤を強化する上でも重要な役割を担っている。大学院生、特に博士課程への進学が経済的な理由により減少することのないような支援が必要だ。
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