『ぽかぽか』ハライチ岩井の不謹慎騒動、生放送+番組MC+ボケという相当な重圧
#ハライチ #ぽかぽか #檜山豊
少し前に、世間を騒がせている「ルフィ」こと連続強盗事件の指示役とされている渡辺容疑者が強制送還され、そして送還中に逮捕となった。この渡辺容疑者の影響で非難された芸人と言えば、過去に渡辺容疑者と接点があったとされているEXITの兼近大樹さん。そしてもう一人、ハライチの岩井勇気さんだ。
兼近さんほどの大事ではないが、岩井さんも渡辺容疑者関連で非難を浴びてしまったのだ。2月7日にハライチさんがMCを務める生放送のバラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にて、企画コーナー直前にフィリピンから送還中の渡辺容疑者が逮捕されたというニュース速報を伝えたのだが、その際に岩井さんは「ルフィ逮捕ですよ。ルフィ逮捕となりました! 強制送還されたあのルフィが、今日本に着き逮捕されました!」と『ルフィ逮捕』を連呼したのだ。
相方の澤部さんはその場を収めようと岩井さんにツッコミを入れたのだが、それでも岩井さんは止まることはせず、同じくMCを務めているフリーアナウンサーの神田愛花さんも巻き込んでしまい、全体的に悪ノリしているような空気感になってしまった。
事件が事件だけに視聴者からは不適切、不謹慎という批判的な声が上がってしまった。
この岩井さんの一連の行動を元芸人目線で分析すると、正直なところ「わからなくもない」と思ってしまう。生放送というのは芸人にとってかなり腕が試される現場で、さらにコンビのボケとなると相当重圧がかかる。なぜならツッコミは司会進行という仕事を任されているのだが、ボケは「笑いを起こす」という、とても抽象的な仕事内容を任されているからだ。
番組の進行台本にはボケのコメントが空欄になっているパターンと、ボケの指針となるボケ台詞が書かれているパターンがある。空欄の台本はボケの芸人に対して丸投げしているパターンで、一見するとボケ台詞が書かれている台本より大変そうに見えるのだが、実際はボケ台詞が台本に書かれているパターンの方がプレッシャーが大きい。それはボケ台詞をそのまま言う芸人などおらず、大半の芸人が、そのボケよりも笑いが起きるであろうコメントやセリフを考えようとするからだ。
信用されていない若手芸人の場合はリハーサルや楽屋でディレクターさんによるコメントの確認が入り、台本のボケを超えていなければ台本通りやるように指示される。芸人にとって、作家さんが書いたボケ台詞をそのまま言うときほど屈辱的なことはない。
岩井さんのように知名度があり、スタッフさんに信用されている場合、台本は空欄、もしくはボケを変更するのが前提でセリフが書かれていることが多い。プレッシャーなど芸人にとっては日常茶飯事で、もはや感じているかどうかもわからない状態になってしまうのだが、間違いなく無意識下で相当なプレッシャーを感じているのだ。
しかも、「ハライチ」さんのように番組のMCとなると、そのプレッシャーは一段と大きいものになる。MCは船でいうところの船長の役割であり、番組の色や方向性を決める位置にいる。『ぽかぽか』という番組はハライチさんのさじ加減でどうにでもなるのだ。逆に『ぽかぽか』がつまらないイコールハライチさんがつまらないとなるのだ。
さらにそれだけではなく、番組を構成しているスタッフさんもつまらないということになり、番組がこけてしまうと、その後のテレビマン人生にも少なからず影響が出てしまうのだ。つまり、ハライチさんの背中にはハライチさんに番組の命運をかけたスタッフさんの人生が乗っかっており、なんとしても番組を成功させなければいけないのだ。
さて、この環境を踏まえて、今回の岩井さんの行動を見てみることにしよう。
番組内ではMCである岩井さんのボケが頂点であり、それが番組の色になる。台本に書かれている“ボケるポイント”以外にも笑いが起こせるように常に笑いのアンテナをビンビンに張り巡らせ、ボケポイントを探る。
しかし、ボケが思いついたからといって、すぐに言うわけにはいかない。変なタイミングでボケたりトークを広げたりすると、番組の進行を妨げてしまうからだ。予定されているコーナーが滞らないようにタイミングを計りながら、隙間を縫って最良のタイミングでボケを繰り出す。
しかも、ただのボケではなく、一撃である程度笑いが起きるボケでなければいけない。それは生放送番組だからだ。これが収録番組であるならば失敗してもボケ続けて笑いを起こしたり、編集でカットしたり出来るのだが、生放送はそれが出来ない。つまり失敗が許されないのだ。
MCのボケは番組中、進行しているツッコミより楽をしているように見えるが、間違いなくツッコミより頭をフル回転させている。1時間番組ならば1時間フル回転だ。尋常ではない。
そんな極限状態な中、話題性のあるニュースが番組に飛び込んできたら、食いついてしまうのは仕方のない事。さらに、笑いを起こすための脳みそになってしまっていたなら冷静な判断は出来ないかもしれない。
何とかして笑いに変えなければ、何とかして番組を盛り上げなければという思いが、今回の岩井さんのようにリスクを顧みない行動に繋がってしまったのではないだろうか。
芸人の大先輩であるシティボーイズの「大竹まこと」さんは、ゲスト出演した『バラいろダンディ』(TOKYO MX)にて「恐れずに言えば」という前置きをし「芸人はウケる為ならなんでもする」「芸人が話す範囲が狭まっている今の世の中は尖った尾根の上で喋っているような状態。一つ間違えば落ちる。そのリスクは大きいんだけど、芸人さんはそれでも面白い事をしたい。岩井の気持ちはちょっとわかるね」と擁護する発言をしている。
今回の岩井さんの行動は、もし同じ境遇になったら芸人誰しもがしかねない行動であり、共感できるものであったのだ。
しかし、大竹さんも言っているように現在はお笑いの範囲は狭まっており、昔ならば通じた笑いだから今も通じるというわけではなく、今通用しなければそれは今の笑いではないのだ。
もしかしたら、ここ数年間で高速進化しているお笑い業界の形式に、ある程度芸歴がある芸人が適応できなくなっているのかもしれない。中堅以上の芸人さんたち、あなたたちの進化は急務である。テレビがつまらなくなる前に。
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