『さかなのこ』“好き”を貫くことと、宮下かな子の引退と
#宮下かな子
表現の世界で生きる原動力になるのは、”好き”の力の大きさだと私は思う。
先日、引退発表をしましたが、有難いことに、3月までこの連載は続けさせて頂けるということで、今回を合わせて残り2回の配信。サイゾーさんの懐に甘えて、少しだけ自分の気持ちを綴らせて頂きます。
引退の決意をする大きなきっかけはありましたが、それまでにも、ここ数年自分と向き合う出来事が多く重なっていて、なにか歯車が噛み合っていないような感覚がありました。
本当はずっと前から違和感を感じていたはずなのに、その自分の感覚を無視して蓋をして「いつかこの仕事をしている自分を肯定できるようなきっかけに出会えるはず!」という、根拠のない希望に縋っていたような気がします。そんな私を正しい道に導いてくれるように、色々な出来事が度重なっていたのかなと。
引退すると事務所に話して正式に決まった後。少しは後悔するかと思ったけれど、びっくりするほど、その違和感がするする解けていくような感覚が心地良くて、後悔は全くなくて。
それは、多分私なりに、私の本当の〝好き〟を見つけることができたから。お芝居の表現の場所が苦しいなら、私に合った表現の場所で、自分の〝好き〟を追究すれば良いのではないか、と思えたから。
不器用だけど、曲げられないものがあって、納得のいくまで作業をしたい。人任せにしたくない。そんな私の居場所はきっと他にあると思い、この決断をしました。自分の直感と違和感に逆らって生きることをやめよう、そう思ったのです。
この決断を手助けしてくれたきっかけのひとつが、引退報道と同時に発表した、作品『MUSEUM』の制作。ディレクションから参加させて頂いたおかげで、はじめて「自分が納得できるものを世に出せる!」、そんな感覚です。
時間をかけて絵と向き合うのも久しぶりだったので腰が重たかったけれど、軌道に乗ると、お昼前に筆を取ったのがいつのまにか夜になっていたこともあって。集中しすぎて時間が分からない。日にちが分からない。そんな自分が久しぶりで、嬉しくて、その過程で私は、つくることへの〝好き〟な気持ちを実感できました。
作業が続いていた時期に、ひと休みがてら、だけど絵のやる気が出るような作品を観たいと思い選んだのが沖田修一監督の『さかなのこ』。魚類の知識の豊富さで幅広く活躍しているさかなクンの自叙伝をもとに描いた作品で、主人公ミー坊役ののんさんを中心に、母親役に井川遥さん、友人に夏帆さん、柳楽優弥さん、磯村勇斗さん、岡山天音さん等、脇を固める役者陣も豪華。終始ほのぼのした空気感が心地良かった。
とにかく好きな事にまっすぐで淀みのないミー坊にのんさんはハマり役で、周囲を巻き込んでいくパワフルさと愛らしさが全開。ミー坊がお魚の絵を描くシーンは、お魚好きな、役のミー坊と、絵を描くことが好きなのんさん自身が入り混じっているようでとても印象的。心から〝好き〟に向き合っている熱量は、人に伝わるものだなぁと、口を半開きにして夢中で絵を描くのんさんをみて思った。
〝好き〟を貫いて生きるミー坊も素敵だったけれど、その時の私の心に深く残ったのは、ミー坊を見守ってくれている、周りの人のあたたかさ。
実は『MUSEUM』の撮影をした日、今まで味わったことがないほどの、スタッフさんへの感謝の気持ちが押し寄せてきて、帰り道、胸がいっぱいになったんです。
打ち合わせを何度も何度も重ねて、撮影はその日1日のみ。その撮影のために、私の頭の中のやりたいことを理解して、可能な範囲で私の希望を叶えようと頑張ってくださるスタッフの皆さんがいて。準備も大変な中、ヘアメイクも変えながら全部撮り切れるスケジュールも話し合ってくださって、私のやりたいことを形にしようと、その撮影に沢山の方の熱量がぎゅっと集まっているのが感じられて、本当に嬉しかったのです。
私の”好き”の想いを受け止めてくれたスタッフの人たちがいたおかげで、今回『MUSEUM』が完成した! と心から思っていたので、そんな今の私だからこそ、映画観て感じられたものがあった気がします。
人間、きっと”好き”だけで生きられなくて、その”好き”な想いを、受け止めて尊重してくれる周りの人たちがいるおかげで生きられるんだなと思います。
私はこの先も、〝好き〟を追究して、何かしらの表現の仕事に携わっていくと思いますが、この先もずっと、”好き”を貫かせてくれる周りの人たちへの感謝を忘れずに、生きようと思います。そう改めて思わせてくれた作品でした。
あれ。何だか最終回っぽくなっちゃったな。兎にも角にも最後まで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。最終回は来月です。何を書くかなぁ~どきどき。またお会いしましょう~!
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