若手芸人を騙した女性2人組…突然電話からの見事な計画と素人とは思えない演技力
#芸人 #檜山豊
昨今の芸人はとても真面目になったと、よく耳にする。昔の芸人のイメージは「飲む打つ買う」という男の悪行を地で行くような芸人像だったが、今は世の中的にもそのような悪行がやりづらくなっており、そのおかげで芸人自体もかなりクリーンなイメージになったと言える。
なので、女性にだらしないとか女遊びをするというイメージがまったくなくなった……かというとそうでもない。いくら真面目な芸人が増えたとはいえ、まだまだ芸人のイメージは100%クリーンになったわけではなく、どことなく「飲む打つ買う」がうっすらと残っている。
それもそのはずで、芸人になろうとする人達は大抵「大金持ちになりたい」「有名になりたい」「女性にもてたい」という不純な動機で芸人を目指したはずだ。心から「世界中に笑いという幸せを振りまきたい」と思って芸人になった人は、ほぼいないのではないだろうか。
これはあくまでも僕の個人的な独断と偏見なので、芸人全てに当てはまるというわけではないが、僕自身は少なからず「お金持ちになりたい」とか「チヤホヤされたい」という動機は持ち合わせていた気がする。
そんな僕も例に漏れず若手芸人らしく、嗜む程度に、地味に、粛々と遊んでいたことがある。しかし、遊ぶのは芸人だけではない。芸人遊びをする女性もいるのだ。
今回は、僕が若手芸人時代に遊ばれてしまったお話をしたいと思う。僕がある程度テレビに出させてもらって、少しだけチヤホヤされていた夏の日、携帯電話に着信があった。知らない番号からだ。僕は何も考えずに電話に出た。相手は女性だった。
「あっもしもし? 檜山さん?」
どうやら間違い電話ではないようだ。
「あ、はい」
「久しぶり○○です」
○○という名前を頭の中で探ったが、まったく覚えのない名前だった。
「あの、すみません誰ですか?」
「え? ○○だよ。覚えてないの?」
声の感じからたぶん若く、真面目というよりは、当時の渋谷センター街で地べたに座っているような雰囲気がする。
「どこで会いました?」
「渋谷で一緒に飲んだじゃん」
渋谷のイメージは合っていたようだ。
「え? 一緒に飲んだ?」
「そう。○○と○○もいたじゃん」
まったく身に覚えがない。しかも僕は酒が飲めないし、付き合いも悪い方なので、飲み会に参加することは考えられない。さらに名前が出た○○という芸人は知り合いではあるが、プライベートで遊んだことはない。明らかに嘘だ。
「嘘じゃん」
「嘘じゃないし。会ったじゃん」
「イメージと違うかもしれないけど、俺お酒飲めないし、飲み会とか行かないのよ」
「いやいや、会ったじゃん。○○だよ。本当に覚えてない?」
「もういいから」
「会ったらわかる。絶対覚えてるはず」
「嘘だから」
「会ったらわかるから、会って」
「嘘だし」
「嘘じゃないし」
この「嘘じゃん」「会ったらわかる」という無意味なラリーを数回繰り返しているうちに、僕の中で“え? 何この自信。本当に会った事あるのかしら”という気持ちと“もしこれが嘘だったらこの子凄いな”という気持ちが芽生え、僕はいつの間にか「これだけ言ってるんだから会ってみたい」とすら思っていたのだ。
さらに、彼女の必死な雰囲気に違和感を感じたので、もしかしたら当時やっていたレギュラー番組のドッキリの可能性があるかもしれないと思い、興味と責任感と若干の下心を踏まえて、会うことにした。
しかし、基本的には出不精な僕は、その子に会うためだけに外に出るのが嫌なので、仕事前に一瞬だけ顔を見に行くという約束をし、電話を切った。
当日、お台場での生放送前に渋谷のカラオケボックスに立ち寄った。もしかしたら大人数が待っていて悪い事されるかもしれないという若干の不安もあったので、少々ビビりながら指定された部屋へ向かう。恐る恐る扉を開けると、若い女性が2人でカラオケをしていた。どちらにも見覚えがない。
1人は電話のイメージ通りの渋谷センター街で地べたに座っているような感じで、もう1人は渋谷のセンター街にはいるのだが、地べたには座らないような感じだった。しかもかわいい。
出来ればかわいい方の女性が電話してきた女性であれと思いながら挨拶をすると、僕に電話してきたのは地べたに座っているような感じの方で、かわいらしい女性はその友達だった。少し残念だったが、どちらにせよ会ったことが無いのは明確で、本人に問いただしたところ、やはり会ったことがあるというのは嘘だったのだ。
すると、友達が「この子、檜山さんが好きでどうしても会いたくて嘘をついてしまったんです。ごめんなさい」と。嘘をついた本人はまったく謝らないのだが、友達が代わりに謝ってくれたことにより友達の好感度が一気に上昇。「なんていい子なんだ」と思いつつ、仕事の時間が差し迫っていたので僕はカラオケボックスを後にした。
後日、友達の方からショートメッセージに再度謝罪のメールが届き、その流れで何度かメールでやり取りをしているうちに意気投合し、なんだかんだすったもんだあれやこれやあって、その友達の子と付き合うことになった。
久しぶりに彼女が出来たということもあり、檜山はとても舞い上がった。カップルらしく多少のケンカなどもありながら楽しく過ごしていたある日、後輩芸人から
「檜山さん、○○って女の子知ってます?」
付き合っている彼女の事だった。
「知ってるけど、どうして?」
「いろんな飲み会で檜山さんと付き合ってるって言いふらしてますよ」
「え?」
いろんな飲み会に行っているだけでもショックなのだが、後輩から詳しく話を聞くと、最初に電話してきた女性と、今付き合ってる女性は芸人界隈ではとても有名な2人組で、とにかく芸人と遊びまくっているらしく、僕と付き合っている最中でもお構いなしに飲み会などに参加し遊んでいたとのこと。
どうやら最初から電話をかけてきた本人ではなく友達の方と付き合わせるという計画だったようで、カラオケボックスの「この友達良い子だなぁ」は、まんまと彼女たちの思惑にはまってしまったということだ。
素晴らしい計画と先を見据えた計算と素人とは思えない演技力。どれをとってみても脱帽する。彼女が言いふらさなかったら永遠に騙されていたかもしれない。
そして、なんだかんだすったもんだあれやこれやあって、結局彼女とはお別れした。今となってはいい思い出である。
遊ぶのも芸人、遊ばれるのも芸人。男と女の駆け引きはとても楽しく、とても切なく、このようにトークのネタになるので、芸の肥やしとはよく言ったものだ。真面目も良いが、時には不真面目も芸人にとっては必要である。
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