ねじ曲がった承認欲求を正当化するバカッターと「本当の面白さ」の決定的な違い
#檜山豊
TwitterやTikTokで面白いと思ったことが反感を買い炎上してしまう人たちがいる。通称「バカッター」。一時期鬼のように湧き出していたが、今はその数も減ってきている。とは言えいまだに見ることが出来る存在であり、登場しては炎上している。
ただし昔のバカッターたちとは違い、面白いなら何でもありというわけではなく、ある程度自分たちの身に災いが降りかからないよう策を講じて悪ふざけする動画を投稿するバカッターも現れている。
少し前にもとある投稿をしたTikTokユーザーが炎上した。そのTikTokユーザーは回転寿司の大手チェーン店「はま寿司」にて、レーンを流れてきた他人が注文したであろう寿司の2貫中1貫を直接箸で横取りし食べる様子を投稿したのだ。動画には「おいしそうだったので食べちゃいました」「#人の注文」などのテキストが書かれていた。
過去のバカッター同様、動画を見た人たちから批判の声が集まり、さらにはただのマナー違反ではなく、法律的に窃盗罪や偽計業務妨害などの罪に問われるのではないかと言われている。
しかしこの騒ぎに対して動画の投稿主は、この動画自体がそもそも第三者によってTwitterに転載されたことにより炎上してしまった上に、自分で頼んだ寿司を他人の寿司に見せかけた「自作自演」だとTwitterに投稿し釈明している。これが先ほども書いたが、自分たちが悪者にならないように自己防衛を施したバカッターというところだろう。
この動画に対してはいろいろな記事に、法律的観点で分析した話が書いてあり、彼らが策を講じ自分たちを正当化したところで罪に問われるだけだと。結果的にどれだけ釈明しても意味が無いようだ。
今回のこの騒動を元芸人目線で分析してみたときに、まず彼らのいう「面白い」とは本当に「面白い」のかどうかという点に引っ掛かってしまった。
他人の寿司を横取りするという行動は何も面白くなく、悪ふざけだとしてもセンスが無い。そもそも「面白さ」を共感させようとしたときに、見た人が「面白い」と思うのが大前提である。悪ふざけをしている本人だけが面白いと思う行動は、マスターベーションと同じで自己満足することが目的で、決して「面白い」ものではないのだ。
それを考えると「バカッター」の人たちは「面白い」と思われたいのでなく、「こんなことが出来る俺は凄いだろ」というねじ曲がった「承認欲求」といったところだろう。
現代において「承認欲求」という言葉は比較的悪い意味で使われることが多いが、実際はさまざまな動機を達成するための力になるものだ。他人に認められたいが、努力をせず楽に認められたいという気持ちが現代の「承認欲求」の形を作ってしまったのだろう。
このねじ曲がった「承認欲求」を正当化する為に「面白い」という言葉を使っているのだろうが、人を笑わせたり楽しませたりする為の「面白い」はそんな簡単には出来ないものなのだ。
そして今回の動画のように、バカッターの人たちが投稿する動画は見た人を不快にさせてしまうものが多く、僕からすれば面白さ的には論外である。例えば芸人のネタでも見た人を不快にさせてしまう場合がある。それと同じだと思う人がいるかもしれないが、決して同じではない。芸人のネタに対する不快感は好き嫌いの延長上にあるもので「好み」の問題だ。しかしバカッターのそれは道徳的不快感であり、好みの問題では無いのだ。誰もが嫌な気持ちになるものは絶対に「面白くない」と言い切れる。
バカッターには中高大学生や社会人でも若い人たちが多い印象だが、若いからといって見誤るものでは無いし、大半の若者は善悪の判断はつく。若いは何の言い訳にもならない。
今回の動画のように「自分の寿司を他人の寿司のように見せかける」というのはとてもネタ的で、防衛策としてはすごく優秀に見えるのだが、どれだけ策を講じても結果的に人を不快にさせるものは作品としては駄作だ。さらに今回のように「はま寿司」さんに迷惑をかけてしまっているのはもってのほか。
本当に面白いものは、誰も不幸にせず、誰にも迷惑をかけないというのが最低条件で、それをクリアしなければ万人に受ける「面白い」ものは作れない。他人から「面白い」と思われることは本当に難しい。一朝一夕でなれるような楽なことではないのだ。だから芸人は人生をかけて「面白い」を追求しているのだ。
「承認欲求」を満たしたいのなら、今の自分を認めてもらうのではなく、認められる自分になるように努力してほしい。
本当の「面白さ」は間違いなく努力の上になりたっている。
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