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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 「Kōkiに寄り添って一緒に作りたい」
2022年のホラー映画を丸ごと振り返る!清水崇監督インタビュー<後編>

「Kōkiに寄り添って一緒に作りたい」清水崇監督が「この子だ」と感じた理由

「『犬鳴村』でやめときゃ良かったのに」ホラー映画をとりまく批評

「Kōkiに寄り添って一緒に作りたい」清水崇監督が「この子だ」と感じた理由の画像3
写真|宇佐美 亮

ーーそれら若手の監督のことを失礼ながら存じ上げなかったので、ホラー映画ファンとして、しっかり追いたくなりました。

清水 そのように、若手で実力のある監督はいるのですけどね、なかなか気づかれない現状を考えるとやはり、ホラーが流行ってるとはいえない。僕も推薦するなどして、なるべく力にはなれるようにしたいですね。一方、メジャーに公開されている映画で「なんでこんなにひどいものが世に出るんだ」と、文句を言いたくなる例も山ほどあったりもします。

ーーそれは、若手で努力をされている監督の映画をたくさん観ている清水監督ならでは、なのだと思います。

清水 我ながら本当によくないと思うんですけど、その文句を言いたくなる映画について、検索をしちゃうんですよ。調べれば調べるほど、「自分の映画もこうやって言われたり調べられたりしているんだろうな」って、ブーメランとして返ってくるので、怖いんですけどね。

 実際『呪怨』の、オリジナルビデオ版の時にも、心無いことを言われまくりでしたよ。僕はあまり気にしないほうですし、気にしたら作れないですよね。でも“村”がシリーズ化されて「『犬鳴村』でやめときゃ良かったのに」という声もあったのは、悔しかったですね。

「Kōkiに寄り添って一緒に作りたい」清水崇監督が「この子だ」と感じた理由の画像4
写真|宇佐美 亮

ーーそういう文句は、監督の立場だと、より公には言えないですよね。

清水 ライターやコメンテーター、ましてや映画監督や俳優は、あまりネガティブなことを口にはできませんよ。もちろん僕もそうで、同業者や先輩や後輩、同期の監督やプロデューサーもいるから、個人的には「これはひどい!」と思っても、言えないということは業界にいる人ほどあります。かと言って、監督に良いも悪いも含めて直接言ってくれるのは、とても貴重ですから、そういう人がいなくなってほしくないという気持ちもあるんです。

ーー監督はショックを受けることもあっても、批判の声も受け入れるのですね。

清水 何しろ妻なんて、最初は「清水さんの映画、何回観てもつまんなくて寝ちゃうんだよね」という悪口から始まって、「この人面白いな」と興味が湧いたことが最初のきっかけですよ。でも、いざ結婚してパートナーになっちゃうと、遠慮もするし、そもそも作品に興味を持ってくれなかったりする。でも、それも、なんとなくわかるんですよ。

 監督という立場は、どうしても遠慮されちゃうし、率直な感想を言ってくれる人はいない。それは出演してくれた役者でも。まぁ、そりゃ正直に「あなたのこんな映画に出たくなかった」とは言えないですよね。言ってくれたら悔しいけど「じゃあ次は絶対にキャスティングして、次は出て良かったと思えるようにしてやろう」というモチベーションは生まれますけどね。もちろん、そこまで言ってくれる人なんて、ほとんどいないのですけどね。

「ちゃんと観てよ!」と言いたくなることもある

ーー先ほどホラー映画が怖いか否かだけが評価軸になりやすいという話がありましたが、確かにジャンルとしてひとくくりにされすぎる傾向があるかもしれませんね。

清水 ホラーが苦手な人、絶対無理ですという人こそ、勝手なイメージが固まってるかもしれませんね。「人がいっぱい死んで血まみれ」というものもあるし、そういうのもいいけど、いやいや、そういうのばかりじゃないから、とは伝えたいです。基本はバカにされたり差別されたりで、偏見があって当然なのが、実はこのジャンルかなと思いますね。エロティックな路線の映画もそうだと思います。

ーー偏見が生まれやすい土壌があるからこそ、作り手は多様性を意識する必要があるかもしれないですね。

清水 ホラーがベースにあって、ジャンル分けされるからこそ、ホラーでないと描かれないテーマや、アプローチはあるとは思います。でも、「苦手だから観ない」と言われて、「無理にでも観て」とも言えないですよね。僕も中学生の時には、ホラーは苦手でしたから。

 でも、自分の村シリーズにも、初めて劇場で観た、試写で観た、という方の中に「ホラーの見方が変わりました」や「こういうホラーもあるんですね」「怖いのに観たら感動して泣いちゃった」「なんですかこの気持ち。こういうホラーがあるんですね、他のホラーも見てみようと思います」といった感想をいただいたりはします。元々ホラー好きでもなんでもない、むしろ苦手な人から、そういう言葉をいただけるのが一番嬉しいですね。それが自分の映画じゃなくても、あの人の心の内の何かを開いたと思える。その瞬間が一番嬉しいです。

ーーやはりネガティブではない、観客からの率直な意見は嬉しいですよね。

清水 でも、僕の映画に限らなくても、「ちゃんと観てよ!」と言いたくなることもありますよ。先にもあげた『ミッドサマー』では「今年イチ気持ち悪い映画だった」という単純すぎる感想を知人の女優さんから聞いた時は「あの映画の価値を何にもわかっていない!」と思ったし、『パラサイト 半地下の家族』では「え~○○だけで○○?(クライマックスのネタバレにつき伏せ字)」という一般客女性の声を劇場で聞いて「今まで何を観てたんだ!?」などと、その鑑賞眼というか映画偏差値の低さにがっかりしました。……が、感想や印象はホント人それぞれだし、それでいいはずなので、こう感じた! という人にアレコレ訴える程、野暮なことはしたくないし、自分が作り手だからこそ、何も言えませんしね(笑)。

ーーそれは映画の内容は受け止めているけど、本質を上手く言語化できていないだけかもしれませんよ。

清水 お客さんの感想を捻じ曲げてまで、あれこれ言う立場でもないんですよね。こう言ってみて、改めて作り手の自分は、正直すぎる評論はできないし、しないほうがいいと思いました。

ーーその他で、ホラー映画を観る観客に思うことはありますか。

清水 日本人で特に思うのは、良くも悪くも「こんなに行儀のいい観客はいない」ということですね。読めない言語のエンドクレジットまでちゃんと観たりするんですから。でも、笑ってもいいところに声出しちゃったとか、怖くて「ギャっ」と言っちゃったかと、そういうのを気にせずに、ありのままに笑ったり、叫んだりしていい、自分の感情を人前で恥ずかしがらずに出せばいいじゃんと思いますね。そのくせ、こんなに行儀のいい国民に向けて過剰なまでに劇場でのマナーのお知らせもありますから。山田洋次監督も同じこと言ってましたよ。「映画を観て存分に笑って泣いてほしいのに、どうしてあんなにマナーばかり気にするんだ」って。

ーー外国で映画を観ると、リアクションが楽しいという話はよく聞きますね。

清水 海外の映画祭に行くと、日本とは反応がぜんぜん違って、わかりやすいので嬉しいですね。でも、アメリカで映画を観にいくと。お前ら大概にしろよっていうくらい散らかすんですよ。それはそれで「おいおい、日本人だったら幼稚園の子でもちゃんとお行儀よく観ているぞ」と文句を言いたくもなります。彼らはそれだけ楽しんでいるということでしょうけどね。国によって極端過ぎて(笑)。

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